世界中から注目を集める最先端テクノロジーの祭典SXSW(South by Southwest)が2021年3月16日から20日にかけて初めてオンラインで開催されました。SXSWは音楽の街であるオースティンで1987年より音楽祭として始まったもので、のちに現在のような映画やテクノロジー要素が加わった幅広いテーマを扱うイベントとして成長してきました。2007年にはTwitterがSXSWアワード賞を受賞するなど、現在ではスタートアップの祭典として注目をされています。
数多くの著名人による講演など充実したコンテンツが用意されたSXSWですが、そのなかで最も注目を集めるのがスタートアップによるピッチイベントです。今回はその受賞企業を分かりやすく紹介していきたいと思います。
関連記事:【CES2021速報】注目のイノベーションアワード受賞企業をご紹介!
スタートアップピッチイベント
今年のピッチイベントは8つのカテゴリー毎に事前審査で選ばれたファイナリスト企業が5社ずつ、計40社が出場しました。1社あたりの持ち時間はプレゼンが約3分、Q&A時間が約5分の合計8分です。スタートアップのピッチイベントは様々なイベントで開催されますが、SXSWではカテゴリーが多岐にわたる点、さらにテクノロジーをアピールする企業よりも普段から人々が抱えている社会課題に着目している企業を取り上げる傾向があるという点が特徴的です。
各カテゴリーは以下の通りです。
- Artificial Intelligences, Robotics and Voice(人口知能・ロボティクス・ボイス)
- Enterprise and Smart Data(法人・スマートデータ)
- Entertainment, Gaming and Content(娯楽・ゲーム・コンテンツ)
- Future of Work(働き方の未来)
- Health, Wearables and Wellbeings(ヘルスケア・ウェアラブル・ウェルビーイング)
- Innovative World(イノベーション)
- Smart Cities, Transportation and Logistics(スマートシティ・交通・ロジスティクス)
- Social and Culture(社会・文化)
ここからは早速、各カテゴリーでアワードを獲得したスタートアップを紹介していきたいと思います。
1. Artificial Intelligences, Robotics and Voice(人口知能・ロボティクス・ボイス)
人口知能・ロボティクス部門では神経疾患を持つ人々の生活を支援するプラットフォームを提供するParrotsが受賞しました。Parrotsが提供するソリューションはAIを活用して神経疾患を持つ人の目や頭の動きを認識し、そのデータをさまざまな機器・装置と連携させるというものです。それによって車椅子やエレベーターのボタンをハンズフリーで操作できるようにするなど日々の生活を支援し、神経疾患を持つ人の自立サポートや看護者の負荷軽減につながることが期待されています。
2. Enterprise and Smart Data(法人・スマートデータ)
法人・スマートデータ部門では、企業の二酸化炭素排出量の計算とマネジメントを行うプラットフォームを提供するPersefoniが受賞しました。Persefoniはカーボンフットプリントに関連する様々なデータを独自のAIによって分析することで、排出量の可視化だけでなく、企業の規模を考慮した目標値を計算し、削減方法なども提案してくれます。
- 【WINNER】Persefoni
- Matidor
- RudderStack
- Slate
- Vocalytics
3. Entertainment, Gaming and Content(娯楽・ゲーム・コンテンツ)
娯楽・ゲーム・コンテンツ部門では車内VRを提供するHolorideが受賞しました。Holorideが提供するVR技術は車の動きと連携できることが特徴で、例えば実際の車が道を曲がる時やスピードが上がった時などに、車内でVRを体験しているユーザー側のバーチャル没入環境もそれに連動して変化するという仕組みです。HolorideのVR技術で新たな車内での過ごし方が生まれそうです。
4. Future of Work(働き方の未来)
働き方の未来部門では犯罪歴のある人の就職をサポートするプラットフォームを提供するHonest Jobsが受賞しました。同社が目指すのは、犯罪歴があればたとえ更生していても就職が難しいという問題の解決です。Honest Jobsが提供するプラットフォームでは犯罪歴も考慮したうえで求職者に適した就職先をリコメンドするうえ、就職活動のサポートもあります。さらに入社後も90日間のサポートを行うことで仕事への定着を支援します。
- 【WINNER】Honest Jobs
- Clair
- OthersideAI
- TalkMeUp
- v.one
5. Health, Wearables and Wellbeings(ヘルスケア・ウェアラブル・ウェルビーイング)
ヘルスケア・ウェアアブル・ウェルビーイング部門では性的暴行被害者のサポートをするLeda Healthが受賞しました。提供するのは自宅で性的暴行の証拠を収集するキットで、その開発の背景にあるのはCEOのMadison Campbell氏自身が性的暴行を受けたという体験です。性的暴行被害者は恐怖から病院に行くことができなかったり、他人から身体を触られることへの嫌悪感が生まれたりしますが、このキットは必要なものがすべて自宅に送られるため、他人に触れられずに自身で証拠を集めて送ることができます。またリモートで専門医と会話することもでき、被害者に寄り添ったサービスとなっています。
6. Innovative World(イノベーション)
イノベーション部門では、スクラップを金属粉に変える金属リサイクル技術を開発するMolyWorksが受賞しました。MolyWorksの技術は工業製品の製造過程で発生する廃棄物を金属粉に変えるというものですが、その特徴は小さな機器でそれを実現するという点です。同社は世界中で金属をリサイクルすることで限りある資源を有効活用し、環境保護に貢献することを目指しています。
- 【WINNER】MolyWorks
- ConstellR
- Dimer
- Future Fields
- Lofty AI
7. Smart Cities, Transportation and Logistics(スマートシティ・交通・ロジスティクス)
スマートシティ・交通・ロジスティクス部門では、交通安全分析プラットフォームを提供するMicroTrafficが受賞しました。MicroTrafficが持つAI技術で事故が起きやすい交差点などで歩行者や車両などを自動で認識・追跡できるうえ、カメラで捉えた画像をデータ化して動きを分析することで、道路安全性の向上や効果のモニタリングに活用できます。死因の原因で常に上位にランクインをする交通事故を削減することを目指しています。
8. Social and Culture(社会・文化)
社会・文化部門では新たなプラスチックの開発を目指すApplied Bioplasticsが受賞しました。従来のプラスチックは安価で便利である一方で二酸化炭素の排出量が多く、グローバルでは排出量全体の7%を占めています。この状況を解決すべく、同社では従来のプラスチックで排出される二酸化炭素の約半分まで抑えられる新たな素材を使ったプラスチックを開発しています。現在はユーザーテスト段階中でいち早く世界中にエコなプラスチックを届けることを目指しています。
関連記事:SXSW2019参加レポート 体感した3つのトレンド
関連記事:【SXSW2018】アクセラレーターピッチ優勝企業をレポート
NisshoUSA注目ポイント
私が今回のスタートアップピッチイベントで最もおもしろいと感じたのは車内VRを提供するHolorideです。VR技術の発展で以前に比べてVRデバイスが手軽に購入することができるようになったこと、今後自動運転が普及していく中で車内での過ごし方が変化していくこと、5Gの普及で移動中の車内でも高速通信が可能となること、この3点がうまく噛み合うと、移動中の車内でのVRを活用した新たなエンターテイメントが普及する可能性は高いでしょう。一方、VRは没入型のためドライバーには不向きのように感じるため、ARでも遊ぶことができるとさらに可能性が広まるのではないかと感じました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。