シリコンバレーテクノロジー 2022.02.09

【Webinar記録】シリコンバレー駐在員が語るCES 2022フィードバック

2022年1月、今年で53回目を迎えるCES(Consumer Electronics Show)が、ラスベガスにて開催されました。
かつては「家電見本市」とも言われたCESですが、今ではEVやロボット、フードテックなどさまざまなテクノロジーが集まる総合展示会になっています。本ウェビナーでは、CES 2022に参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・榎本が、米国企業のDXや注目スタートアップを中心とした、サマリー講演を行いました。

SESSION 1:CES2022で見た米国企業のDXと注目スタートアップ

CES 2022 の概要解説

今年は、オンラインとリアルでのハイブリッド開催となったCES。会場には、2010年からCESに参加してきた榎本が赴き、その様子を視察してきました。

  • 大企業の出展キャンセル相次ぐ一方、スタートアップは高い出展意欲をみせた
    オミクロン株の感染拡大により、大企業による出展キャンセルや規模縮小が相次ぎました。AmazonやMeta(Facebook)、Google、自動車分野ではGeneral Motors(以下、GM)やメルセデス・ベンツなどが、展示の中止や、オンラインのみの出展としています。
    一方で、CESを機に知名度を上げようと、スタートアップ企業の出展意欲は高くなっていました。出展企業2,300社強のうち、約800社がスタートアップの出展でした。
  • 来場者数・出展企業数の減少
    CESを主催する米民生技術協会(CTA)の発表によると、CES 2022の来場者は40,000人強でした。前回のリアル開催は2020年で、当時の来場者数は180,000人でしたので、その1/4以下ということになります。出展企業数も2020年の約4,500社に対し、2022年は2,300社強となっており、約半分ほどになっています。
  • さまざまなオミクロン対策
    開催に際し、コロナ対策として以下のようなさまざまな工夫が行われていました。
     - 参加に際するワクチン証明書の提示
     - 参加バッチと同時に検査キットを配布
     - 可能な交流レベルを表すステッカーの配布
  • めざましい韓国企業の勢い
    国別の団体戦となるEureka Parkでは、日本も過去最多の52社が出展していました。
    韓国は国を挙げて出展を支援していて、100社以上が出展していました。欧米の大企業の出展キャンセルや、米中摩擦による中国系・欧米系企業の減少により、さらに韓国勢が存在感を発揮。SamsungやSKテレコムといった韓国企業のエグゼクティブの視察も目立ちました。

CES 2022の「Key Trends」4点

主催であるCTAは毎年「Key Trends」を発表していますが、今年は以下の4つでした。

  • Transportation:EV、電動スクーターなどのMicro Mobility。一番賑わっていた印象
  • Digital Health:昨年に引き続き、活性化している
  • Sustainable:フードテック、スマートシティ、スマートホームなど多岐にわたる
  • 【NEW】SpaceTech:大きな事業機会が生まれつつあるが、まだまだこれからといった印象

 

SpaceTechは、昨年イーロン・マスクが設立したSpace X、Amazonジェフ・ベソスのBlue Originの台頭から、従来NASAが担っていた宇宙探索や国際宇宙ステーションへの物資輸送の国家プロジェクトが、民間企業にアウトソースされることに。これにより、大きな事業機会が生まれつつあります。

非テック企業(異業種)からのKeynote登壇の増加

ここ数年は、家電や通信、自動車会社だけではなく、非テック企業からの登壇が目立ってきています。2020年はデルタ航空、2021年はWalmartやBestBuyなどのリテール系企業が登壇。今年は、ヘルスケア業界で老舗のAbbotが業界初のCES基調講演に登壇し、そのプレゼンも素晴らしく、話題を呼びました。以下、今年のKeynote Speechの中からGM、SAMSUNG、Abbottの3社について、サマリーを共有します。

1社目:GM

2年連続でメアリー・バーラCEOが登壇。昨年はロゴを変えて、「3つのZERO」を達成するというビジョンを掲げました。今年は「Automaker to Platform Innovator」というビジョンを掲げ、「自動車メーカーからプラットフォームのイノベーターになる」と宣言。今の約15兆円の売り上げはほぼハードウェア(車の販売)ですが、それを2030年までに2倍の30兆円に引き上げるとのこと。さらにそのうち1/3の9兆円を、車以外のソフトウェアサービスや新規事業で作るとのことです。

その事業としては、EVやパレットを使った物流支援事業(Bright Drops)、ラストマイルに活用する自動運転(Cruise)などが挙げられ、すでにFedEXやWalmartという大型顧客も獲得しています。日系企業のHondaとレベル5(完全自動運転)のバスも共同開発中とのことでした。

2社目:SAMSUNG

家電や8K TV、携帯などを手がけているSAMSUNですが、今回はいつもと違うテーマ「Together for Tomorrow」と題し、サステナビリティを最重要課題にしていました。例えば、2025年までにテレビとスマートフォンの待機電力をゼロにしたり、電池のいらないリモコン「Eco Remote」を発表し、約2億個分の乾電池を削減したり。また、パタゴニアとの協業で、マイクロプラスチック問題への取り組みを発表していました。その他、

Eco-Packing:リサイクル可能な素材での製品パッケージ、ホチキスを使わない梱包方法
Customization Hub:白物家電のパーソナル体験。冷蔵庫や電子レンジのデザインを12 色から選べる
SmartThings Hub:GEやHaierなど数百のブランド家電が接続でき、使用パターン分析によりエネルギー消費節減やスマートホームを提案(ただし、日系企業の製品は対象外)

などを提案。榎本個人的としては、バッテリ内蔵の持ち運び可能なプロジェクタ「The Freestyle」にも注目。100型サイズでサラウンドスピーカーも内蔵。Amazon Prime VideoやNetflixを再生でき持ち運び可能なので、キャンプの時にも活用できそうです(価格:$900)。

3社目:Abbott

ヘルスケアカンパニーとして初めて、CES Keynoteに、CEOのロバート・フォード氏が登壇。Abbottは、シカゴ郊外に本社がある老舗のヘルスケア会社です。今回、来場者に配布された検査キットはAbbottのもので、ユナイテッド航空と協業しており、このキットでの検査結果をデジタルの陰性証明書として発行しています。

「ヘルスケアの民主化」というスローガンが印象的で、「今まで医者にしか分からなかった大事な情報を自分でも理解し、医者との共通言語を作って活用していく」というテーマを掲げていました。

そのプレゼンの上手さも見事で、糖尿病を患っていた女優のシェリー・シェパード氏や、東京オリンピックで優勝したマラソン選手のエリウド・キプチョゲ氏を登壇させつつ、うまくツールの紹介をされていました。

展示会場のブース

SONY

2020年のCESでVision-Sというセダンのコンセプトカーを発表。今回はそれに加え、SUV型のVision-S 02を披露、Sony Mobility Incという事業会社を設立してEV販売を検討するとの発表がありました。「車の価値を移動から、エンターテイメントの空間に変える。」とのことで、自社で車を作り走らせることで、顧客からのダイレクトなフィードバックを受けたいという意図があるように見受けられました。車の設計はSONY、EVということもあり、これまでSONYが培ってきたノウハウも生かせます。製造はベンツやアウディ、BMWなどを作っているマグナ・シュタイアに委託しており、安全性も問題なさそうです。そのほか、Community of Interestというコミュニティの重要性にも言及していました。

BMW

kindleで使われているE-インクの技術を車体に生かし、車の色が変わる技術を展示。白、グレー、黒などに色が変わり、夏には白で太陽光を反射、冬は黒で太陽光を吸収するなどの用途が考えられます。今後、さらにいろいろな色に対応していく予定で、広告に利用したり、気分によって色を変えたりといった活用方法も考えられます。今後、個人が広告を打つ時代という意味でも需要があると思います。

VinFast

モビリティ系が集結していたWest Hallで、存在感を示していたのは、ベトナム初の自動車メーカーVinFastです。Vinグループは不動産やリテール、病院などを手がけるベトナム最大の財閥です。VinFastを作ってからわずか4年で、アメリカ市場に参入してきました。今年上場すると見られており、そのマーケティング方法も見事。先行予約で$200を支払った顧客は、$3,000のE-バウチャー(引き換えチケット)と、各種特典が受けられるデジタル鑑定書・NFT(Non Fungible Token)を受け取ることができます。

TuSimple

2015年に設立され昨年IPOした、急成長中のトラックテックです。レベル4の自動運転なので、セーフティドライバーは同乗しますが、ハンドルに触れる必要はありません。米国郵政公社のUSPSや物流大手のUPS、DHLから出資を受けながら、実証実験を繰り返しています。

Aurora

元GoogleのCTOであるクリス・アームソン氏が、2016年に創業したトラックテックです。Amazonから600億円以上の資金を調達しており、トラックメーカーのPaccarと連携しています。日本でもトヨタと提携したことから、注目度が高まっています。

JOHN DEERE

農業用の完全自動トラクターを発表。自動運転技術は農業にも浸透しつつあり(アグリテック)、24時間作業できるだけではなく、畑の高さを計測し、水の流れや種まきの結果もデジタルに可視化。種を植えてから刈り取るまでの一連の作業プロセスをシミュレーションできます。「See & Spray」は、農薬を散布する際にカメラで土と農作物、雑草を判別。雑草のみに農薬を撒けるようになりました。農薬散布量削減や農作物の保護に活用できます。

HYUNDAI

乗用車の展示はなく、New Mobility of Things(モノの新しい移動方式)というコンセプトで、一輪で構成されるキャスターのようなモジュール・Plug & Drive(PnD)を展示。ステアリング、ブレーキ、ライダーとカメラセンサーを備え、フィギュアスケートのように自由かつ優雅に動き回れるモジュールを紹介していました。また、2年前に買収したBoston Dynamicsの4足歩行のロボットを中心に、Meta Mobilityという概念を提唱。ロボットをメタバースに接続することで、現実世界と仮想空間を自由に行き来できるようにします。例えば、デジタルツインとしてCES会場にアクセスし、同時に会場のロボットを遠隔操作することで、展示物に触れるとその感覚も伝わる、というような概念です。

ロッテ(韓国)

韓国のスタートアップ・Caliverseとのオープンイノベーションで、現実世界のショッピングモールのメタバースを作り、そこでショッピング体験をさせるというものです。現実世界と同じように、買い物をしたり、K‐POPアイドルのコンサートに参加したりできます。

DeepBrain AI

2016年創業で、シリーズBのスタートアップ。AIとアバター技術を組み合わせたAIヒューマンを展示しており、アバターは人間にそっくりかつ、自然言語の応対ができます。すでに銀行窓口などで使われはじめています。

INFINIQ

こちらも韓国企業です。カメラを使って商品が何かを把握し、バーコードなしでモバイル決済をするというもの。レジ打ちが不要になります。

Storant

「Anti Virus Table」というサービスを展示。ロボットがコーヒーを作り、客先まで運びます。

Cecilia’s Bartender

「甘め」「辛め」など、パーソナライズされたカクテルを作れる、世界初のバーテンダーデバイスです。会話型AIを搭載しており、ユーザーと対話が可能です。

領域別の傾向

レストランテック

今回、とにかくレストランテックのロボットが多かったです。アメリカの飲食店では、最近コロナ禍による人手不足が深刻化しており、地元San Mateoにある韓国料理屋さんではBear Roboticsの配膳ロボットが採用されていました。

デジタル・ヘルスケア

コロナ検査キットやマスク系などのセルフチェック系のものが多かった印象。とくにアメリカは医療保険が高いという背景もあり、「健康状態は自分でチェックする」という時代の訪れを感じました。

スリープテック

マッサージ系が多かった印象です。もみ方が数百通りあり、パーソナライズされているマッサージ機器などを展示していました。

スペーステック

この領域で一番目立っていたのは、地元ネバタ州に本社を置くSierra Nevada Corporationです。航空宇宙産業の民間企業で、国際宇宙ステーションに物資を運ぶ予定の「ドリーム・チェイサー・スペースプレーン」を会場に展示していました。すでにNASAでの採用が決まっているとのことです。

フードテック

今年になって初めて、フードテックが新しいカテゴリーとして誕生しました。2年前は業界リーダーのImpossible Foodsが代替牛肉を発表し、昨年は代替豚肉を発表しています。今年登場したAnimal Freeのアイスクリームは牛乳を使わないので、通常の乳製品と比べて温室効果ガスの排出を97%削減できるとのことです。なお、アメリカでは25~34歳の1/4がビーガンという統計もあるほどで、チーズやチョコレート、パンケーキなど肉以外のビーガン食品はかなり流通しています。

Beyond Honeycom:世界クラスのシェフの料理を再現するキッチンロボットAI。食品センサーで調理の食感と味をデジタル化し、分子レベルで再現しているので味は一緒とのことです。
Yo-Kai Express:ラーメンを45秒で調理する、無人のラーメン自販機。

5つのKey Findings

サステナビリティ

  • 戦略のコアに位置づけられており、昨年のCOP26で各国が宣言した脱炭素の施策を、このCESで具体的に披露したという印象。
  • 特にSKテレコムやSamsungなど、韓国企業の見せ方が上手かった印象。

EV

  • 自動運転が本格化していくのは間違いないと思われます。自動運転システムのソフトを開発するNvidea、BlackBerryなどは、直接OEM元へ納品する動きがあるので、従来型のサプライチェーンは崩れていくと思われます。
  • お金さえあれば、デザイナーを雇い車両を委託して、車を作れる時代。SONY、APPLEに続き、Starbucks CoffeeやNIKEといったブランド企業が参入してくるかもしれません。

ロボティクス

  • リテールの倉庫でのピッキング作業やレストランでの接客など、もう実社会に入り込んでいます。
  • 人が簡単に雇えないことからも、CGやSFの世界ではなく、ロボティクスを実事業に使っていかないと、他社との差別化が難しくなっていくでしょう。

メタバース

  • メタバースの市場規模は2028年に100兆円を超える見込み。
  • 先日出席したNRF(リテール系カンファレンス)では、Walmartがメタバースに参入という発表がありました。
  • WaltDesney、Nikeなども参入。第三のインターネットになる可能性も。

フードテック

  • 世界の料理がより身近になります。
  • デジタルネイティブは健康志向なインフルエンサーの影響を受けやすくなります。

SESSION 2:Q & A

SESSION 3:参加者の皆様でのネットワーキング(交流会)

SESSION 1の後、参加者とのQ&Aと交流会が行われました。

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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