こんにちは、Nissho Electronics USAの新田です。
ここシリコンバレーでは多くのテクノロジーが生まれ、日進月歩で進化しています。データセンターも例外ではありません。データセンターを取りまく環境は大きく変化しています。特に、OCPは巨大IT企業が続々と参加し、今注目を浴びているトピックです。2016年3月9日、10日にシリコンバレーで開催されるOCP Summit 2016の開催を目前に控えていることあり、OCPについてまとめました。
なお、今回の記事はIoTによるデータの爆発的増大に向け、それに耐えうるインフラやデータセンターのあり方をbtraxの志賀祐一さんと協議する上でテーマを決定、共同で執筆しました。
関連記事:ハードウェアのオープン仕様化はビジネスとして成立するのか?【OCP Summit2018 】
1. OCPとは
OCP(Open Compute Project)とは、最も効率の良いデータセンターを設計し、提供していくためのコミュニティです。
OCPを発足させ、現在も中心的な役割を果たしているのはFacebookです。ご存じのようにFacebookは10億以上のアクティブユーザーを誇る超巨大企業です。日々投稿されるデータは膨大で、サーバーやストレージを調達するコスト、データセンターの運用コスト削減は大きな課題となっています。
Facebookは米国オレゴン州にあるプラインビルのデータセンターにおいて、独自に設計したサーバー、電源、電源バックアップシステムを用いることで、従来購入していたサーバーと比較して38%の電力削減を達成しました。その成果を公開することで2011年に始まったのがOCPです。
Facebookのようなテクノロジーカンパニーでは、自社の「ソフトウェア」のオープン化はすでに一般的になっていましたが、「ハードウェア」で自社の仕様を公開するということは珍しく、驚きを持って迎えられました。
しかし、Facebookに限らず、巨大IT企業は同じ課題を抱えており、各社で多くのインフラエンジニアが解決に取り組んでいます。立ち上げ段階でIntelやHP、Dellなどが参加し、年々参加企業が増えています。2014年にはMicrosoft、IBM、VMwareなどの企業が、2015年の5月にはCisco、Apple、Bank of Americaなどの企業がOCPプロジェクトへの参加を表明し話題となりました。
こうして多くの企業が、データセンターの共通の課題に共に取り組み、得られた成果を共有しています。OCPではこれまでに、ラック、サーバー、ストレージなどのハードウェアの仕様や、システム管理用のソフトウェアをオープンソース化しています。
なお、日本では、2013年の1月にOpen Compute Japanが発足しています。
2. OCPの活用メリット
先ほど述べたように、ソフトウェアの世界ではオープン化、オープンソースとしてプログラムを公開することは一般的です。AndroidやFirefoxなど、無数のオープンソースプロジェクトが存在しています。
最近では、Googleが自社の人工知能ライブラリのTensorFlowをオープンソース化して話題になりました。オープンソースのソフトウェアには、多くの優れたエンジニアが開発に参加するため、開発速度が速く、バグも発見しやすいというメリットがあり、低コストで導入できることから、あらゆる場所で主流となっています。
では、OCPにおいて、オープンソースソフトウェアに加え、ハードウェアをオープン化することのメリットは何でしょうか。代表的なものは、次のものになります。
2-1. 機器投資コスト低減
運用実績も長くコモディティー化してきたIT機器は徐々にベンダー毎の優位性が出せなくなってきており、顧客は複数IT機器メーカー製品を価格のみで選定する傾向が強まってきています。その流れのなか、OCPでサーバーやストレージ等の設計仕様がオープン化されたことにともない、IT機器メーカーに限らず、ODMを手掛ける製造業者でも安く製品を設計・開発をすることができるようになってきました。OCP仕様は省スペースも考慮されていることから、従来以上に省スペース・高密度でかつより少ない機器投資でデータセンターを構築できる可能性を秘めるようになりました。
2-2. 電気消費量の削減
サーバーからは多くの熱が排出されるため、そのままではデータセンター全体が高温になってしまいます。サーバーは高温や低温、多湿や乾燥などに弱く、気温と湿度を一定に保つ必要があるので、データセンターでは空調機器に多くの電力が利用されています。電力の使用は、コンピュータの処理に必要なだけではないため、削減の余地があります。OCPでは、空調の効率化や、電源ユニット部分で発生する電力のロスを減らす仕組みが採用されており、電力消費を抑えることができます。
2-3. 優れたノウハウの共有・活用
世界で最も膨大なデータを扱っているFacebookを始め、シリコンバレーの超巨大企業がこれまでの経験で培ったデータセンターの実践的な運用のノウハウを学ぶことができます。これにより、運用コストを長期的に低下させることができます。
3. OCPの最近の動き
OCPについての実際の企業の事例や、取り組みをご紹介します。
3-1. 2014年1月 MicrosoftがOCPに参加し、自社データセンターの仕様を公開
2014年1月、MicrosoftはOCPへの参加を発表し、同時にWindows Azureや、Bing、Office 365などを支える自社サーバーの仕様を公開しました。
Microsoftはクラウドの分野でAmazon Web Services(AWS)と激しい競争を行っています。Microsoftは、「ハードウェアのイノベーションを共有することが、クラウドコンピューティングの分野でのMicrosoftの成長を後押しすることにつながるという結論に達した。」と述べており、ハードウェアの世界でもますますオープン化の流れが広がることを示唆しています。
参考: Microsoft Joins Open Compute Project, Shares its Server Designs
3-2. 2015年3月 AppleがOCPに参加
2015年3月に、AppleがOCPに参加することが公式に発表されました。それ以前も、Appleは水面下でOCPに参加していました。AppleはiPhoneやMacといったコンシューマデバイスの会社として知られていますが、iTunes、Siri、iCloudなどのサービスを提供するためにデータセンターを運用する必要があります。Appleは時価総額世界一を争うトップレベルエンジニアを多く抱える巨大企業でもあり、参加には大きなインパクトがありました。
参考: Apple joins Open Compute Project after quiet involvement
3-3. 2015年3月 FacebookがOCP関連の取り組みで過去3年間に20億ドルのコスト削減に成功したことを発表
FacebookはOCP Summit 2015において、OCP関連の取り組みによって、過去3年間で合計20億ドルのコスト削減に成功したと発表しています。これはインフラの調達コストに加えて、省エネ化による効果も含まれています。過去1年間で8万世帯分の電力の削減に成功したと述べており、二酸化炭素の排出量の削減量は自動車に換算すると9万5千台に上ると述べています。
参考: Open Compute Project U.S. Summit 2015 – Facebook News Recap
3-4. 2015年6月 Facebookがブルーレイディスクを利用したコールドストレージを発表
Facebookは10億人以上のユーザーを抱えており、毎日約9億枚以上(2015年6月現在)の写真がアップロードされます。そのため、この膨大な量の写真を保存するためのストレージのコストは大きな問題となっています。しかし、その写真のうち、頻繁にアクセスされるのは約8%です。ほとんどアクセスがないデータでも、常に回転するHDDで保存するのは電力の無駄遣いです。ブルーレイディスクであれば、一旦書き込んだ後は電力が必要ありませんし、省スペースで保管することができます。
参考: Inside Facebook’s Blu-Ray Cold Storage Data Center
3-5. 2015年10月 Yahoo! Japanが米国データセンターでOCPを採用したHadoop基盤の構築を発表
Yahoo! Japanは、OCPを採用した米国データセンターに1200台のサーバーによるHadoop基盤を構築しました。サーバーの調達コストの削減の効果や、Facebookが培った運用ノウハウを活用できるなどの恩恵があったと発表しています。
Yahoo! Japanは、数万台の物理サーバーを保有し、消費電力量は一般家庭のおよそ4万世帯分に相当しており、日本国内のデータセンターでのOCPの採用も検討しています。
参考: オープンソース化するハードウェア 〜ヤフーがOCPサーバを導入するまで〜
3-6. 2016年1月 AT&Tなどの通信大手の参加し、OCP Telco Projectを立ち上げ
2016年1月に、AT&TやVerizon、ドイツテレコム、SKテレコムなどの大手通信会社がOCPに加入しました。これと同時に、通信事業者向けのデータセンターの技術に特化したOCP Telco Projectが立ち上げられました。今後、通信事業者のデータセンターに特化した仕様を作成していく予定です。また、AT&Tは2020年までにネットワークの75%を仮想化する計画であることを明らかにしました。
参考: Telecommunications industry leaders embrace OCP
4. IoTの普及でさらに進化が求められるデータセンター
これまでNissho Electronics USAで紹介してきましたように、今後、IoTの急速な普及が起こると考えられています。このIoTの普及に伴って、データセンターも大きく変わる必要が出てきています。
Gartnerは2020年までに、インターネットに接続するデバイスの数が260億台に達すると予測しています。こうしたデバイスは、ネットワークに対してセンサーデータなどの膨大なデータを送信します。そして、それらのデータからすぐに意味ある知見を得るために高速処理することが求められます。
International Data Corporation (IDC)の報告によるとIoTデバイスから生み出されるデータの、データセンターにおける処理量は、、2014年から2019年の間で750%増加すると予想されています。
このような「データの爆発的増加」に対応するため、データセンターには、膨大なデータを高速で送信し、保存するためのストレージ、サーバー、ネットワークが必要になります。
また、ビッグデータを解析することで、様々なメリットが得られると考えられていますが、データの保存と解析には大きなコストがかかるため、効果とコストのバランスを考えなければなりません。より低コストでデータを保存、解析することが求められているのです。
このような課題を解決する手段の1つとして、OCPにかかる期待は大きくなっています。
5. Nissho Electronics USAの取り組み
OCPは、ここシリコンバレーで生まれたこともあり、参加企業の多くもシリコンバレーにあります。シリコンバレーには、世界の最先端のOCPの情報が集まっています。2016年3月9日、10日に開催されるOCPの最大のイベント「OCP Summit 2016」もシリコンバレーのサンノゼでの開催です。Nissho Electronics USAでは、OCP Summit 2016に参加し、最新の情報を収集いたします。
Nissho Electronics USAは、来るべきデジタルビジネス時代に備え、様々な観点からシリコンバレーで調査を行っており、日商エレクトロニクスと連携し、お客様に対し最適な提案をしてまいります。お問い合わせフォームより、どうぞお気軽にお問い合わせください。