「Grocery Shop 2022」は、2022年9月19日から22日(米国時間)にかけて、ラスベガスのマンダレイ ベイ コンベンションセンターで開催されたイベントです。ウェビナーでは、米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、Grocery Shop 2022に参加し、そのサマリー講演を行いました。
Grocery Shopについて
当イベントは、米国小売業のトップランナーであるWalmartやDoor Dash、InstacartなどのCEOが講演をすることから、注目されているイベントです。当イベントの参加者は約4,000名程度と、比較的中規模なイベントでした。参加をして非常に良かった点は、展示ブースにてスポンサーとじっくり会話をすることができたことです。
全体を通しての気づき
当イベントに参加して気づきとなった点は、以下の3点です。
1. 利便性の再定義
昨年の年末あたりから15分以内の配送に注目が集まっていました。しかし、コロナがあけてみると、15分以内の配送を専業にしていたスタートアップ2社(Fridge nomore、Buyk)が、廃業を発表しています。一方、Walmartが提供するIn-homeサービスが、いま注目されています。In-homeサービスを利用すると、Walmartの従業員が、自宅の冷蔵庫に直接商品を納品してくれます。私にはまだまだ抵抗感がありますが、Walmartとの信頼関係を感じることができれば、便利なサービスになるかもしれません。
2. エンゲージメントを高めるには?
オンラインサービスがさらに進化しつつあります。Googleの画像検索の応用や、カリスマ主婦が提供するレシピを選んだら食材リストが生成される「ショッパブルレシピ」、洗練された検索結果を提示してくれるキュレーションサービスなどが、注目されています。
3. 収益性を高めるには?
米国で発生しているインフレを背景として、食料品店は収益性の向上にあらゆる策を講じています。特にリテールメディアが、いま米国では非常に盛り上がっています。リテールメディアとは、スーパーのオンラインサイトに広告を組み込んだり、店舗のサイネージに広告を掲示したりして、ブランド側から広告収入を得るビジネスモデルです。インターネット広告におけるサードパーティークッキーの利用が、来年後半から不可となることも関連し、小売業者が保有する会員情報データの利用に注目が集まっています。その他、人件費の削減効果を狙いったフルフィルメントセンター(倉庫、配送)におけるロボット化も加速しています。
基調講演
基調講演は11セッションありました。特に興味深かったセッションについて5つピックアップをします。
1. Whole Foods Market
Whole Foods Marketは、富裕層をターゲットとしたスーパーです。オーガニック食品を多く取扱っています。全米に500店舗展開しており、2017年にAmazonが買収しました。Amazonが技術開発を行った「Just Walk Out」「Amazon One」「Dash Cart」の導入が話題になっていますが、講演でCEOは、「人」に着目していることを語っています。特にZ世代における買い物客の最近の傾向として、「社会貢献」に意識が向いていることや、自社内に展開している従業員向けの認定プロフェッショナル制度によって、機械ではできない顧客および従業員の満足度を追求していることを語っています。
2. Door Dash
Door Dashは、レストランの注文を配送するサービスとして立ち上がり、そのサービス範囲を広げています。今年の6月には日本にも上陸しています。Door Dashのサービスの利用者数は、1年前と比較して2倍になっています。コロナ後は、外出による買い物が増えるため、オンラインでの食料品の購入については、コロナ以前の水準に戻ると予測されていました。しかし、実際はその利便性が高く評価されており、高い利用率を維持しています。
また、Door Dashは、スーパーにとって非常に良いパートナーになっています。提携のメリットは新規顧客の獲得だけでなく、データ提供にもあります。Door Dashは、消費者の嗜好を分析し、人々が買いたいもの、価格帯、地域ごとの商品の認知度合などの情報をスーパーに提供しています。
3. Walmart
Walmartは、米国でNo.1の売上を誇る小売業者ですが、新たな技術への投資を積極的に行っている企業としても知られています。ドローン配送、垂直農法、自動運転による配送、フルフィルメントセンターの展開などが主な取り組みです。
そして、新しい革新的なサービス提供にも積極的です。先ほどのIn-Homeサービスがそれにあたります。このサービスについて、Walmart USのCEOであるジョン ファナー氏は、「顧客とより深いつながりを持つことで、顧客の労力を最小化することができる。」と語っています。顧客の信頼を得るため、Walmartの従業員は、ワンタイムで発行されたキーをもって顧客の家に入ります。従業員は胸にカメラを装着し、家の中での行動はすべて監視されます。
4. Instacart
Instacartは、米国において、買い物代行サービスの事業者として高い知名度があります。Instacartによってアレンジされたギグワーカーが、オンラインで購入したものを利用者に代わりスーパーで買い物を行い、家まで届けてくれます。
同社は、Eversight社を買収し、オンラインサイトの機能拡張をしています。具体的には、AIを活用し、「キャンペーンのやり方」や「価格設定」についてシミュレーションを行います。そして、最も売上が上がる方法を導き出します。さらに、広告配信プラットフォームと自動的に連動することで、自動的に販売促進も行うことができます。買い物客は、インフレの状況下で、いかにお金をかけずに必要な品を揃えるか情報収集に疲弊をしています。この方法により、「Instacartを見れば、簡単にお得な情報を得られる」と買い物客に印象付けることができ、Instacartの利用価値が高まります。
また、Instacartは、今年の3月に「Instacart Platform」という中規模スーパーに対して、フルフィルメントや広告などの技術共有を行うサービスをリリースしました。9月には、それをさらに拡張させ、「Instacart Connected Store」シリーズを発表しています。
5. Thrive Market
Thrive Marketは、オンラインで、5,000点以上オーガニック商品を販売しています。利用者は、月額5ドルのサブスクを支払いますが、プライベートブランドや中間業者の排除などで、低価格に商品を入手することができます。
同社の講演では、キュレーションを取り上げています。通常のスーパーのオンラインサイトでは、数万点の商品のなかから自身にあった商品を探さなければなりません。同社では、すべての商品に100以上のタグをつけ、検索結果をより絞り込んで表示しています。結果的に、「利用者が探しているが見つけられない」ストレスの軽減につなげています。また、AIを用いたカスタマイズされた商品の提案も利用者に気づきを与えることができており、満足度の向上に貢献しています。
‘Shark Reef’スタートアップピッチ
‘Shark Reef’スタートアップピッチでは、創業3年以内で、シードあるいはシリーズAクラスの12社が、それぞれ3分間のピッチを行います。著名なVCから参加している審査員が6社を選定し、6社との5分間のQ&Aを行います。そして、審査員と参加者がそれぞれNo.1を選定します。今回のウェビナーでは、上位6社について紹介をしました。
1社目:Lula(コンビニに配送の仕組みを実装)
コンビニのような業態が、配送ビジネスを立ち上げることは困難でした。最大の理由は、各配送チャネルごと(例えば、Door Dash、Uber Eatsなど)に対して、数千ある商品の在庫状況をリアルタイムに更新する人的リソースがないためです。Lulaは、在庫情報の入力、受注処理をすべて一つのプラットフォームから行い、店舗の負担を軽減します。
2社目:Brandcrush(広告のマーケットプレイス)
広告の手法は、モール内の特設ブースやサンプルの配布などたくさんあります。ブランドや広告代理店は、そうした機会をマーケットプレイス上で探すことができます。実行が決定したあとのスケジュール管理や進捗管理、効果測定および支払など、必要な手続きはすべて同プラットフォーム上で完結します。
3社目:Jupiter(ショッパブルレシピエコシステム)
Jupiterは、カリスマ主婦が作成したレシピを6,300件以上、ウェブ上に公開しています。利用者は、レシピを選び、使われている食材リストを表示後、簡単な操作で購入までできます。選択したものは、Door Dashにより配送を受けることができます。カリスマ主婦たちは、自分のレシピから食材が売れた際は、報酬を得ることができます。
4社目:Salesbeat(需要予測プラットフォーム)
一般的に需要予測は、12週間~16週間先の最適な在庫保有数を予測します。一方、Salesbeatは、4週間から6週間と短期間でこれを行います。結果的に、急激な気温の上昇による飲料水の欠品や、SNSの影響による急激な需要の増加に対応することができます。
5社目:Vici Robotics(ロボットによる人の作業の代替)
従業員は、オンラインオーダーを受けると、商品棚から商品をピックアップする作業を行います。また、日常的に商品の補充対応を行います。Vici Roboticsは、こうした反復的で面倒な業務をロボット化します。これによりサプライチェーンの効率化を促進します。
6社目:Whywaste(過剰在庫の削減による廃棄削減)
商品棚の消費期限切れが近づいた商品を抽出し、従業員のアプリに通知します。これにより従業員が確認する商品数を減らします。消費期限が迫っている商品は、AIを活用して最適な割引を計算し、販売促進をします。ダッシュボードでは、割引商品の販売ステータスや廃棄されることが多い商品、在庫切れが多い商品を抽出し、在庫量を調整するのに役立てます。
イベント会場では、審査員がWhywasteを選定し、参加者票はVici Roboticsに集まりました。Whywasteは既に多くの実績があり、効果が実証されている点が高評価でした。また、本ウェビナーで参加者の方に行いました投票では、1位がSalesbeatで、2位がWhywasteでした。
注目のスタートアップ
1社目:Swiftly (リテールメディアパッケージ)
Swiftlyは、モバイルアプリの基盤提供をしています。アプリから商品の購入、配送の手配ができるようになり、買い物客の利便性を高めます。また、リテールメディア機能を簡単に付加することが可能です。アプリには、既存の顧客データや商品データをシームレスに組み込むことができます。
2社目:Microblink (AIを用いた画像認識技術を小売業務に適用)
AIによる画像認識に優れた技術を持つスタートアップです。オンラインにおける人物認証で同社の技術は非常に多く使われています。その他、スマホアプリでスーパーの商品棚をかざすと、商品を認識し、成分やアレルギーに関する情報などを表示させることや紙レシートの正確な読み込みによる、デジタル化にも応用することができます。SDKによる実装が可能です。
3社目:ReadySet Technologies (店舗内の計画と市場調査のためのVR)
VR上で簡単に店舗環境を構築し、ログインした買い物客の行動分析を行います。アイトラッキング技術を活用して買い物客の目線を分析することで、最適な商品の配置や店舗レイアウトを分析します。VRの環境構築は、2Dにおいて設計図を作成し、商品をカタログから選択するだけで、簡単に行うことができます。
4社目:Crisp(ブランド側の需要予測プラットフォーム)
ブランドが正しく需要予測を行うことで、廃棄を削減することができます。しかし、数多くあるスーパーからのデータは、それぞれフォームが異なるため、迅速に最適な在庫確保数を判断することが困難です。Crispを利用することで、主要なスーパーの販売データ、残り在庫データをリアルタイムで受け取り、かつ迅速に、データ統合をすることができます。
5社目:Relex(小売店側のAIを活用した需要予測プラットフォーム)
機械学習を用いて正確な需要予測を提供するプラットフォームをサービス提供しています。
予測が外れた場合は、緊急発注などのアラートを上げることで従業員をサポートします。その他、消費期限が近づいた商品の値下げ提案などの機能があります。ブランドと情報を共有することで、ブランドの稼働率、制約を加味し、より信頼性の高い仕入れを実現することができます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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