シリコンバレーテクノロジー 2022.11.24

【Webinar記録】Money20/20 から見る金融業界トレンド

「Money20/20」は、2022年10月23日から26日(米国時間)にかけて、ラスベガスのヴェネチアン コンベンションセンターで開催されたイベントです。ウェビナーでは、米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、Money20/20に参加し、そのサマリー講演を行いました。

 

会場の様子

Money20/20は、フィンテックにおける最大級のイベントで、約90ヵ国から約20,000人が参加をしました。講演は基本的に対談形式で行われました。会場は右上の写真のような複雑なブース配置になっていました。はじめはその複雑さから困惑しましたが、セッション間の移動時にブースに立ち寄ることができて意外と便利でした。日本人については、私と同じ米国駐在員や日本からの出張者も多数見かけました。 

全体を通しての気づき

当イベントに参加して気づきとなった点は、以下の3点です。

  1. 不景気をチャンスに変えるためのファイナンシャルインクルージョン
    「ファイナンシャルインクルージョン」は、ラテンアメリカやアフリカなどの地域的な要因や、貧困などの要因で、金融サービスの利用率が低い人たちに対して金融サービスの利用ハードルを下げる取り組みです。フィンテック企業は、裾野を広げることで収益向上を狙います。金融業界では各国の規制の違いなどから、グローバル化は容易ではなく、ローカルルールに即したカスタマイズが一般的に行われています。ローカルのニーズに即したサービスが続々とリリースされています。
  2. オープンファイナンスの背景から「組み込み型金融」は今後も注目
    既存の銀行サービスの既得権益を排除し、競争を持ち込む風潮がオープンファイナンスです。新しいタイプの金融サービスが脚光を浴びており、その多くが、組み込み型の金融です。組み込み型の金融サービスによって構成されたエコシステムが注目されています。
  3. これからの技術として注目されるWeb3、メタバース
    暗号資産については、安定性の不安から、注目度が下がっています。Web3、メタバースは、技術的な問題、資金調達の問題があるものの、大きな市場形成の期待があり、依然として注目されています。ブロックチェーンに関しては、技術検証が進んできており、具体的な活用方法のアイディアが多数出てきています。

注目セッション

特に興味深かったセッションについて6つピックアップをします。

1. 不景気のなかで求められるのはレジリエンス(回復力)

不景気の影響でフィンテック企業への投資が減少傾向にあります。そのため、企業にとっては、資金調達かなり厳しくなっていきます。フィンテック企業は、ビジネス戦略、成長戦略について厳しい態度で臨む必要があります。不景気により、顧客が困難な状況に置かれることを想定した実直な製品開発が、不況におけるチャンスになります。

2. 金融機関は消費者からの要請に応じて消費者データを共有が義務づけられる

消費者金融保護法の第1033条では、「データのポータビリティ」が定義されています。今回、データのポータビリティに関する構想が発表されました。これにより、金融機関は、一つの既得権益を失い、新興フィンテック企業との競争が加速することが予測されます。このルールは、2024年初頭までに確定する予定です。

3. 組み込みによる金融サービスの将来像

中小企業は、特に決済に関して銀行からの十分なサービスを受けていません。中小企業への組み込み型金融の提案には、大きな可能性があります。組み込み型金融の導入においては、全体のコントロールを失わないようし、シンプルかつシームレスなエコシステムを構築することに注意する必要があります。複雑な問題に対処することができれば、企業は、フィンテック企業に支払いなどの機能をすべてオフロードし、顧客のさらなるニーズに向き合うことができます。

4. メタバースの可能性

決済や保険、融資などにおけるメタバース対応が、今後進んでいきます。メタ社のMeta Payは最近、その利用可能範囲を広げています。今後、そのほかのメタバース基盤で利用される暗号資産と、どう相互互換をしていくかはまだわかりません。相互互換が可能なエコシステムを作ることも含めて、メタバースにはまだまだ技術的な課題や、資金の課題があります。

5.カスタマーエクスペリエンス(CX) VS 不正防御、コンプライアンス

不正行為の検出を強化することで、誤検出の増加やCXの低下を招きます。このバランスを取ることが多くのフィンテック企業の課題です。不正行為について、現状できる努力としては、ビジネス側との連携により、確かなデータを入手することが、最善策となっています。ブロックチェーンによるデータの証明については、仕組み上、偽造が困難であるため、将来の実装としては有望です。ただし、技術的にはまだ成熟していません。

‘America’s Got Access’ スタートアップピッチ

Money2020のスタートアップピッチは、“America’s Got Access”と名付けられ、9社が参加しました。テーマは、「ファイナンシャルインクルージョン」でした。9社は、第一ラウンドで3分間のピッチを行いました。その後、5社が選定され、第二ラウンドでは審議者とのQ&Aを行います。今回のウェビナーでは、上位5社について紹介をしました。

1社目:Athlytic(ブランドとアスリートを結び付ける)

米国では、6%の学生アスリートが、貧困ライン以下の生活基準で生活しています。同社は、こうした学生アスリートとブランドを結び付けています。結果、ブランドは、どういうエンドユーザーにリーチできるかを把握したうえで、学生アスリートとキャンペーンを行い、報酬を支払います。

2社目:Pana(ラテン系に焦点を当てたネオバンク)

ラテン系アメリカ人の9%が銀行口座を持つことができずにいます。同社は、こうした人々に対して、信用調査なしで米国の銀行口座を開設します。VISAデビットカードを簡単に手に入れることができ、さらに特典として送金にかかる手数料が安価になります。

3社目:Remynt(債務によるクレジットスコア低下を救済)

Remyntは、一定の条件を満たしたクレカの債務を購入し、新しい金融サービスに転用します。消費者は、クレジットスコアを落とすことなく、クレカを継続利用しながら、Remyntに対して債務を返済します。キャッシュバックなどの特典も享受することができます。

4社目:Totem(先住民のための初のデジタル銀行)

部族政府と協力し、先住民向けの金融サービスを提供しています。先住民向けの福利厚生(住宅購入時の頭金の支援など)の促進や適用の他、トーテムのデビカをスワイプすると手数料の一部が部族のパートナーと共有されるプログラムも提供しています。

5社目:Zirtue(代替支払サービス)

お金の借り手が、会社への支払請求に応じられないときに、友人や家族に支援を要請します。貸し手は、借り手からの依頼を承認すると、借り手にお金が行くのではなく、Zirtueを仲介して、請求元の会社にお金が支払われます。直接会社に支払うことで、透明性を高めます。同社は、会社への支払金額から数%の成功報酬を得ています。

会場の結果は、Zirtureが1位を獲得しました。次点は、Remyntでした。この2社が選定された理由は、サービスの適用範囲が広くインパクトが大きいからと個人的には考えます。黒人の創業者、女性の創業者が受賞された点も非常に印象的でした。

注目のスタートアップ

1社目:Unit(Banking as a Service)

銀行業務に関連するサービスをSaaSにて提供します。カード(デビカ、クレカ)作成、口座開設・管理、送金、支払いおよびローン機能のAPIやSDKを、ブランドに提供します。また、同社は5,000以上のその他の組み込み型金融サービスとシームレスな連携をサポートしています。

2社目:Fireblocks(デジタル資産の安全な運用)

暗号資産の移動、保管などを安全に行うためのプラットフォームです。取引所や、銀行、ヘッジファンドなどがこれを利用し、1つのプラットフォームから決済や暗号資産リバランス、支払いなどを行います。複数の種類の認証を多層でかける強固な実装をすることで取引の安全性確保をしています。

3社目:Alpaca(APIによる株取引の実装および運用を簡素化)

株式取引および暗号資産取引に関連するAPIを提供しています。株取引手数料は、同社のAPIを活用しサービス構築を行うと無料になります。利用者は、主に投資顧問、ネオバンクなどです。APIを利用し、アプリに投資機能を追加したり、国際的な規制に準拠した取引を保証したりしています。

4社目:Finix(サブスクベースの決済機能の組み込み)

SaaSによる決済プラットフォームの提供しています。ブランドは、REST APIを通じてeコマースサイトやアプリなどに決済機能を組み込むことができます。対面支払いもサポートしています。業界でリーダーのStripeが利用都度課金であるのに対して、同社は、サブスク課金にてサービス提供しています。

5社目:Atomic(勤務先と給与口座の紐づけ管理ツール)

組み込み型の給与管理サービスです。利用者の勤務先と給与口座の紐づけを管理します。利用者は簡単に給与口座を変更することができます。提携する銀行側は、信用確認、本人確認、不正防御に同社が提供するデータを利用します。正確な本人認証を行うことで詐欺のリスクを低減します。

6社目:Alloy(組み込み型で不正防御を提供)

不正防御に必要な仕組みをAPIで提供しています。160を超える外部データと利用者に関する内部データを統合管理し、本人確認や信用調査のプロセスに適用します。顧客の振る舞いを監視し、怪しい振る舞いには、通知を行います。技術的な知識のない担当者でも、簡単な操作で不正な取引をブロックすることができます。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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