シリコンバレーテクノロジー 2017.11.19

Facebook社発案、TIP (Telecom Infra Project)2017 現地レポート

こんにちは、先月10月より赴任致しましたNissho Electronics USAの小松です。日本では主にネットワーク関連商材のマーケティングやビジネス開発業務を担当していました。ITの本場シリコンバレーへ移ってきたのを機に、現地の様々な最新トレンドやトピックスを発信し、皆様の刺激になるようなビジネスのタネをお届けできるように頑張ります。

今回、2017年11月8日~9日にかけてカリフォルニア州サンタクララ で開催されたTIP (Telecom Infra Project)2017イベントへ初参加しました。日本では比較的馴染みの少ないTIP、そもそも何?から注目トレンドまで簡単にご紹介します。

1. TIP(Telecom Infra Project)とは?

Facebook社発案のTIPは、今年で第二回目を迎えるまだまだ発足したてのプロジェクトです。

もともとの狙いは発展途上国や都市部以外でのセルラー普及を目指したという社会貢献要素を含んだもので、それに賛同する各国キャリアがプロジェクトの主要メンバーに加わっています。そのため、キャリアの中でも比較的ワイヤレス技術を活用したMNO(Mobile Network Operator)が、現時点ではプロジェクトの主役になっているような印象がありました。内容としては、MWC(Mobile World Congress)イベントの一部を担っているイメージです。

MWCが我々消費者が利用する物理的な最新モバイル端末からインフラ、テクノロジー、サービスやアプリケーションに至るまで全方位的にカバーされているイベントに対して、TIPはなかでもソフトウェアテクノロジーに特化しているものと理解しました。もちろん、Facebook社は単なる社会貢献のみならず、発展途上国や都市部以外でのモバイル端末ユーザがより増え、同社アプリをより多くダウンロードしてもらうことによって彼らの企業価値をさらに高めようとしているのかもしれませんが、これはあくまで私の推察です。

今回は、新たにOCP(Open Compute Project)とのパートナーシップが全面に発表されました。

OCPは既に日本でもプロジェクトが発足しており、数多くの日本企業も参画していますが、OCPがオープンソース技術をフル活用するハードウェア開発に重きを置くプロジェクトであるのに対し、TIPはそのハードウェア上で活用する細かなソフトウェア技術やサービスに重きを置いたプロジェクトと表現してもいいかもしれません。

ちなみにどちらもFacebook社発案のプロジェクトであり、今後TIPはOCPの相棒としてOCPの普及フェーズには欠かすことのできない存在になると言えそうです。

2. Facebook社が常にプロジェクトの中心に

TIPは数々のプロジェクトの集合体で成り立つもので、OpenStackプロジェクトが各プロジェクト/コンポーネントの集合体であることに少し似ています。

今回新たに追加されたプロジェクトは、mmWAVE networks、vRAN Fronthaul、Edge Computing。Facebook社はその中で積極的に実証実験等に参加し、プロジェクトを盛り上げています。

1. 新規テクノロジーの採用

  • Open Cellular

 基地局を構成するソリューションをハードウェア、ソフトウェアともにオープンソースで提供し、コスト効率とスケーラビリティを高めようとするプロジェクト。ドイツテレコムやTelefonicaとトライアル実施中。

  • mmWAVE networks

IoT普及に伴い、限りある電波資源を、携帯等、移動体通信端末用データ通信用の電波領域のみならず、センサーやロボット端末等が発信する細かなデータも含めて、細分化し、確保する必要性を重要視する。ドイツテレコムとトライアル実施中。

  • Open Optical Packet Transport

WDM等の光伝送プラットフォームをオープン化することで、モバイルバックホールやデータセンター間通信等のコスト効率やスケーラビリティを高めようとするプロジェクト。CumulusやEdge-core Networks社とトライアル実施中。

2. エコシステムの活性化

TIP Ecosystem Acceleration Centers(TEAC)を複数キャリアと共同で設立し、プロジェクト活性化を支援する投資を募集。既にイギリスとパリのみで約300億円を調達。

3. Facebook社展示の一幕

Voyagerと呼ばれるOpen Packet DWDM systemを展示するFacebook社ブース。ひときわ賑わいを見せていました。

Cumulus Linuxとのインテグレーションが進むVoyagerプラットフォームは2018年初頭にADVA Optical Networking社を通じてGA版がリリースされる模様です。

以上の活動内容を見ると、Facebook社がインフルエンサーとしてテレコム業界をいかに活性化しているかが良く分かります。

3. US以外の各国キャリアが積極的にプロジェクトを発起、参画

ヨーロッパやアジア圏のキャリアが名を連ねる一方で、USのキャリアが1社も参加していないというのは少し違和感を感じました。

彼らは自分たちにとってFacebook社をどのような存在として捉えるべきか少し見定めているのかもしれません。ここで各国キャリアによる今回の発表を見てみましょう。

1. Telefonica(ヨーロッパやラテンアメリカを中心に約350M加入者を抱える)

“Open Cellular”や“Edge Computing”プロジェクトへ参画。来たる5Gネットワーク時代ではバリューチェーンの再構成、仮想化かつプログラマブルなネットワーク、そしてModular open network fabricが重要になってくると捉えているようです。

2. British Telecom(UK  最大手キャリア、約150か国でサービスを提供)

彼らも同じく5Gネットワーク時代に対する提言がありました。複数のデバイスや人が関わり様々な異なるSLAを要求される複雑なネットワークでは、よりスケーラブルかつ細かなネットワークドメイン分けが重要だとして、“End to End Networking Slicing” プロジェクトを発足しています。

3. MTN(アフリカ大手のMNOであり、約230M加入者を誇る)

アフリカでは電話は普及しつつも、データ通信コストが他国より膨大に高く、インターネット普及率が30%、ソーシャルメディア普及率が14%と非常に低い状況です。また未だ2Gネットワークが主流ということで情報格差が顕著に表れていると言えます。このような状況のなかで彼らは“Open Cellular”プロジェクトに参加にし、世界最速でのOpen Cellular 商用サービスを実現することを目標に、ザンビア等でのトライアルを完了させています。

4. これからのキーワードはNetwork SlicingとAI/ML

1. Network  Slicing

これは今回ヨーロッパ大手キャリアであるBritish TelecomやHPEがチェアとして新規発足したプロジェクトの1つにもなっていたものです。接続されるデバイスやモノ、ヒト等が増えるにつれて、異なるサービス毎、クライアント毎、さらにはSLA毎にEnd to Endのより細かなネットワーク分割が必要になってきます。古くはVLANのような考え方に近いですが、上記のような分割がより顕著に必要になる5Gネットワークはもちろん、5Gに限らず、従来からの通信事業者やデータセンターサービスをアップグレードするためには欠かすことのできない考え方になるのではないでしょうか。

2. AI(Artificial Intelligence)/ ML(Machine Learning)

テレコム業界でもやはりAI/MLはキーワードの1つです。新たにドイツテレコムとTelefonicaがAI/MLプロジェクトを発足させましたが、今後より複雑かつ複数ネットワークで構成されるインフラ環境においては、従来からの手作業やOSSベースのオペレーションではなく、AIやMLが欠かせないと強調されました。根幹にある自動化(Automation)という言葉もまだまだこの先重宝されそうです。エコシステムという観点では、MLで調達されたデータをオペレータとベンダー間でシェア、有効活用するようなプラットフォームの開発が進むかもしれません。

5. おわりに

今回TIP(Telecom Infra Project)をNissho Electronics USAとして初めて取り上げてみましたがいかがでしたでしょうか。OCP(Open Compute Project)のパートナーとしてまだまだ歩き始めたばかりのプロジェクトですが、誰もがリーズナブルかつ簡単に採用できる新たなテクノロジー議論はMNO領域のみならず、テレコムインフラをとりまく様々な環境で今後より活性化していきそうです。

最後までお読みいただきありがとうございました。まだまだ私自身も理解の及ばない部分が往々にしてありますが、ご質問はこちらの質問フォームからお気軽にご連絡ください。

Nissho Electronics USAではシリコンバレーから旬な最新情報を提供しています。

 

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Nobuyuki Komatsu

2004年、日商エレクトロニクス入社。JuniperやBrocade、Viptelaなどネットワークを軸としたインフラ製品の事業推進や新規ベンダー立ち上げに関与。2017年10月よりサンノゼ赴任。シリコンバレーで得られる最新の情報を発信しつつ、新たなビジネスモデル開発に向け日々奮闘中。2020年現在の担当領域は、クラウドやフィンテック、インシュアテックなど。バスケットボールとキャンプが趣味。

この記事をシェアする

私たちと話しませんか?