自動車業界は変革期にさしかかっており、EV化やカーシェアリングの普及、さらにAIの進化に伴う自動運転技術の開発が進んでいます。まだ日本ではあまり実感しませんが、自動車技術系のスタートアップが多く集まるサンフランシスコではUberやLyftの出現でタクシーに乗る機会が減り、カーシェアリングが数年前から移動手段の主流となっています。またEV業界を牽引するTeslaの自動車には、すでに自動運転モードが実装されており、「広い直線の道路において」などの条件がつきますが、その技術は実際に使用されています。
今回はそんな自動車業界の動向を最新の投資事情、さらに先日開催されたばかりのCES 2018から見ていきたいと思います。
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投資が活発化する自動車技術系スタートアップ
近年自動車関連企業への投資は大きな盛り上がりを見せています。CB Insightsの調査によると、自動車技術分野の投資家は、2017年11月時点ですでに149件以上の取引を行っており、2016年の記録を大幅に上回っています。ドル資金調達は、前年の過去最高1.5億ドルから2倍以上となりました。
また、中国で初めて自動運転事業に参入した巨大ネット企業であるBaidu(百度)は、車の製造は行わず、自動運転技術関連ソフトウェアの開発・提供を行っています。投資に関しても中国国内の電気自動車メーカーのNextEVに1億ドル以上の巨額投資を行う等、積極的な姿勢を見せています。
日本では、ソフトバンクが配車サービス最大手の『Uber』、中古車販売のポータルサイトを運営するドイツの『AUTO1』、インドの配車アプリ大手『Ola』、自動運転技術のスタートアップ『Nauto』、東南アジアを中心に配車サービスを展開するUberの競合企業『Grab』、中国配車サービス最大手『滴滴出行』、自動運転向けレーダー技術開発の『Innoviz Technologies』等に出資を行っています。
今までのソフトバンクの出資先20社以上を見ても自動車関連企業への投資が多く見られます。自動車技術への投資は世界レベルで盛んに行われているのです。
このように様々な自動車関連企業が巨大資本のサポートを受けているわけですが、その中でも特に注目が期待される企業は、今月始めにラスベガスで行われた米国最大のコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会「CES 2018」でも大きな存在感を示していました。CESはかつて家電見本市でしたが、現在はコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会になり、自動車産業もEVと自動運転を軸に消費者の生活を大きく変えるテクノロジー分野の一つとして重要視されています。その中で見られた、モビリティーの未来を創る自動車関連企業の最新動向を紹介します。
Toyota e-Palette Concept
Toyota e-Palette Conceptは、パートナーにAmazon、Uber、中国の配車アプリ大手DiDiらも名を連ねる大掛かりなコンセプトでした。
e-PaletteはB2Bを想定したEVであり、真四角のデザインが印象的です。e-paletteという名前の由来はその名の通り、パレットから来ており、用途に応じて姿を変えられることをコンセプトとしています。自動運転を前提としたEVのため、車内に運転席はなく、シンプルな空間となっています。
室内をホテル仕様にすれば、ベッドに寝たまま目的地へ移動することが可能になるかもしれません。また、特定の時間帯に合わせ1台の車両を多様な使い道に活用することが可能で、通勤時間にはカーシェアリングのような用途に、通勤時間以外には病院のシャトルバスとして活用することが可能になります。
e-Paletteでは、車両のコントロール、運行管理、カギの管理、稼働状況等がトヨタのクラウドサービスで統合管理されており、車両に関わる部分はトヨタが提供し、自動運転を前提としたサービスは他社と連携するということになっています。トヨタはこのe-Paletteをプラットフォームとして使い、ビジネスプラットフォームの立ち位置を狙っています。そのため、物流関係ではAmazon、ライドシェア関係ではUber等からすでに賛同を得てパートナーとしています。
2020年には一部機能を搭載した車両を東京オリンピック・パラリンピックで活用することが考えられています。
Mercedes Benz、Aptiv / Lyftの自動運転
Mercedes-Benzは、2017年9月にスタートした「インテリジェント・ワールド・ドライブ」プロジェクトの成功を発表しました。
このプロジェクトは、5ヶ月で5つの大陸で自動運転のテスト走行を行うもので、ドイツを出発し、中国、オーストラリア、南アフリカを経由し、ラスベガスのCES 2018会場でゴールしました。このテストで得られたデータは、今後の自動運転技術のために活用されるとのことです。
このテスト車両は会場に展示され、多くの来場者に注目されました。
一方、自動運転技術を開発するAptivと配車サービスを提供するLyftは、CES 2018の期間中に会場を含む公道でLyftユーザー向けに自動運転タクシーサービスを提供しました。完全自動運転ではありましたが、車両には安全のためにドライバーが同乗していました。
使用されたBMW 5シリーズをベースとした自動車は、自動運転に必要な各種センサーを車体に一体化して取り付けており、一般的な自動車と変わらない外観でした。Aptivは、2019年には自動運転車の生産を開始する計画です。
新興EVブランド BYTON
中国の企業であるBYTONは、元BMWのドイツ人2人により創業されました。ドイツのカーテクノロジーとブランディング手法、アメリカ・シリコンバレーのIT技術、中国の政治力と資金力を活用した「いいとこ取り」のビジネスモデルで、見事な水平分業体制を行っています。
展示されたコンセプトカーは運転手の識別用の顔認証システムからAmazonのAIアシスタントであるAlexaに至るまでITトレンド技術を多く搭載しており、Teslaのライバル車になると言われています。現在の自動運転の区分はレベル3(一部のみドライバーが対応するレベル)ですが、2020年までにレベル4の完全自動走行にする予定です。
価格帯においても一番低価格モデルが約500万円からということで、競合TeslaのモデルXの約半分の値段に設定されています。こういったスタートアップの出現が自動車業界の技術促進と価格競争に繋がることでしょう。
まとめ
今回CES 2018で出展していたほとんどの企業が、EVや自動運転技術を前提としたコンセプトを発表しており、すでに最新技術を活用した新たなビジネスモデルの設計が進んでいます。また、多くの企業が2020年頃を技術開発のタイムラインとして1つの目標としており、投資も盛んなことから実現可能確率は非常に高いと予想されます。
2020年を境に自動車企業の革新が始まり、今後自動車企業とIT企業の相互依存関係が高まることでしょう。自動車関連テクノロジーには今後も目が離せません。
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