シリコンバレーテクノロジー 2023.06.22

【Webinar記録】International Telecom Weekからみる通信事業者最新トレンド

2023年5月、最大級の通信事業者向けイベント「International Telecom Week(以下、ITW)」が、アメリカ・ワシントンD.C.で開催されました。このイベントでは、T-Mobileやverizonをはじめとした数々の通信事業者が出展し、最先端技術について公演していました。本ウェビナーでは、同イベントに参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、当日のイベント内容や注目セッションなどの様子をお伝えします。

 

ITW2023概要

イベント概要は画像の通りです。ITWは、GLF(Global Leaders Forum)という会員組織によって運営されています。またこの組織は、「インターネット接続におけるリーダー間の連携支援」を目的に設立されました。

Key Findings

ITWに参加して得られた気づきは、以下の3点です。

  1. ソフトウェア化、APIの公開が進む
    どのセッションでも耳にしたキーワードが、「ソフトウェア化」や「APIの公開」です。ソフトウェアの技術的な進歩や、業務改善的な意味でのAPI連携の必要性を感じました。そして請求業務におけるスムーズな業務処理も、大きな課題となっているようです。
  2. エッジコンピューティング市場の拡大
    エッジコンピューティングの状況は5Gとセットで語られており、いよいよ実装段階に入ってきた印象です。特にTier2・Tier3のデータセンター事業に関しては、多くの展示や公演が実施され、その盛況ぶりを見せていました。
  3. 最重要課題はクラウド用の体験を向上させること
    多くの技術的なトレンドが語られていましたが、最も大きな課題は「利用者の体験向上」だと感じました。個人的には、「通信事業者はスピードを出してなんぼの世界だ」と思っていましたが、現在ではスピードよりも顧客体験が優先されはじめているようです。

注目セッション

ITWでは、約30のセッションが行われました。その中から注目セッションを6つピックアップし、サマリーをご紹介します。

1. エンド・ツー・エンドの高品質、グローバルな接続の実現

米国で利用者数を伸ばしている、T-Mobileの親会社・ドイツテレコム。複数の通信事業者との直接相互接続の実現により、遅延を半減させる取り組みをしています。また、セキュリティに関しても「政府向けサービスも一部行っている背景から、非常に強い関心を持って取り組んでいる」とのことです。また、バリューチェーン全体の最適化にも取り組んでおり、今後12か月においてAPIの公開を促進していくそうです。APIを介して、社内外のシステムとの連携強化を意図しているのでしょう。手作業を減らし、結果的にエンドユーザーの満足度を上げたいようです。

またOrangeのEmmanuel Rochas氏は、「クラウドの利用や接続における顧客体験が重要である」と付け加えました。「大量のサービス提供に対応し、請求書作成までのすべてのビジネスプロセスを変革することも重要」と話しています。

2. ユーザー中心のネットワーク構築プラットフォーム

Telefónicaは、ヨーロッパとラテンアメリカで通信事業を行っている企業です。同社は「Telefónica Open Gateway」というサービスの中で、ネットワーク開発者向けのAPIを公開。ソフトウェアの利用やエッジコンピューティング、ネットワークライシングなどをユーザーがプログラムすることで、最適な環境を構築できるというものです。この取り組みが加速した背景は、「コロナ禍におけるクラウド利用の急増」とのこと。そして現在は、ユーザーのアプリ利用における体験品質についても注目しています。Valle Ortega氏は「今後はユーザー中心に『接続したいネットワークとは?』を追及する必要があり、これまでとは異なるアプローチが必要だ」と語りました。

3. エンドユーザーにユビキタスなクラウド利用体験を提供する

企業のデジタルサービス利用が進む昨今、企業が使用するクラウドツールは、毎年平均3~4つ増えています。しかし、ネットワーク自体は大きく進化していません。「事業者の壁を越えて、APIやソフトウェアに関する共通のビジョンを持つことが重要」と語られました。そしてセキュリティに関しても、「パートナーと協力し、データセンターを越えても同じサービスが適用できるような、セキュリティサービスを作ることが必要」とのことでした。

4. エッジコンピューティングの具体的な活動とは?

企業のデジタルへの取り組みにおいて、5GやWi-Fi、衛星通信は「高い接続性」「遅延の低減」を実現する重要な要素です。実際にこれらの技術をエッジコンピューティングと組み合わせることで、新しいネットワーキングの世界を実現するインフラが完成します。そしてエッジコンピューティングには、Tier2、Tier3のデータセンターの存在が必須です。それぞれがエッジクラウドのような働きをすることによって、「高い接続性」「遅延の低減」を達成するのです。5Gについては、設備においてベンダーロックインがない「Open RAN」にも注目が集まっていました。エッジコンピューティングにおいては、ベンダーロックが外れることで動的にネットワークを置き換えたり、カバレッジを広く確保したりできるため、「Open RAN」は期待される取り組みとなっています。

5. DCにおける相互接続将来的な展望とは?

EQUINIX社によると「世界の相互接続帯域幅は、今後5年間で40%増加する」と予測されています。エッジ市場に多くの投資が行われ、東西のトラフィックフローに変革が起こっていくでしょう。エッジ間をつなぐ回線は、100Gbpsから400Gbpsに移行しているものの、800Gbpsへの移行については、コスト分析の必要性があります。ただAIが市場やデータ活用を牽引し、流通するデータが急増することはほぼ確実でしょう。また、高速インターネットの提供範囲が広がることで、地方都市のパフォーマンスが爆発的に上がることも想定されます。しかし、800Gbpsへの移行はもちろん、アプリを分散させたり、トラフィックそのものを最適化したりと、新たな運用方式も想定されます。800Gbpsへの移行は、こうした状況を見ながら検討されていくでしょう。

6. 次世代のファイバー運用にはAIの活用が必須

AT&T社は、ファイバーの敷設面積拡大に非常に力を入れています。その投資金額は、この5年間で約1,400億ドルにのぼります。そして5GやWi-Fi 6など、ワイヤレス技術が増えれば増えるほど、ファイバーは必要になっていくでしょう。そんなファイバーの敷設にあたって考えられるのは、オーバービルド問題です。通信事業者は、今後の通信量の変化に応じて、ダイナミックにネットワーク構成を変えていかなければなりません。そこで、オーバービルドを抑制しコスト増を抑制するために、AIの活躍が期待されています。

展示会場の様子

エキシビジョンホールの中に、展示や商談、講演などの各スペースがあり、講演に使用されるステージは2つありました。それぞれ収容人数は50~80名ほどで、ステージ間を行き来しながら講演を聞く形でした。講演中はイラストレーターがその場で話の内容をまとめていたため、イメージしながら聞けて非常に良かったです。

ITWイノベーションステージ

ITWにはピッチコンテストがなく、「イノベーションステージ」というセッションの中で、5社が短いプレゼンを行いました。その5社に加え、私が注目したテレコム業界のスタートアップ5社について、ご紹介します。

イノベーションステージ

1社目:Connectbase

世界中の14 億以上の建物について、住所や座標にIDを付与して管理。5,000を超える通信事業者が、それぞれどの建物に対してサービスを提供しているかがわかります。回線を導入する企業は情報を閲覧・比較し、シームレスに見積取得まで行えます。

2社目:Omnispace

独自のハイブリッド5Gを提供。地上通信エリア内では、デバイスは携帯電話会社のネットワークに接続され、通信範囲外やローミングの場合は、衛星ネットワーク経由でシームレスに接続されます。企業のIoT利用や農業、輸送など、さまざまなユースケースを想定。

3社目:ListingCentral LLC

インターネットが利用できない人々のため、以前の「タウンページ」と同様に、ユーザーが掲載に合意した情報のみを掲載・管理しています。その情報はすべてのプロバイダーに展開しており、法規制にも抵触しない運営を行っています。

4社目:Reality Border

ステルスフェーズの企業である同社は、iQSTELとGotmyのジョイントベンチャーとして立ち上げ予定です。シンプルかつコスト効率の高い方法を用い、2週間程度の短期間で、認証やメタバースなどさまざまな商業体験を構築することを目指しています。

5社目:Scala Data Centers

持続可能性を意識し、100万台以上のサーバーを運用するハイパースケーラー向けのデータセンタープラットフォームを、ラテンアメリカを中心に提供しています。現在は、ラテンアメリカの海底ケーブル接続ポイント近くで、7つのデータセンターを稼働させています。

注目スタートアップ

1社目:Verana Networks

5Gのミリ波のサービスライセンスを持つ通信事業者に向け、アンテナを提供しています。通信に関する需要は現在増加し続けており、通信事業者は高額のアンテナを持つ基地局を建てる必要があるためです。

2社目:EdgeQ

AIを搭載し、プログラマブルなチップセットを開発しています。5GとAIの組み合わせにおいては、アンテナが電波を発信する際に電波の形状を制御しますが(ビームフォーミング)、状況に応じてAIが最適な形状を構成します。

3社目:Mangata Networks

「マンガタエッジ」と呼ばれるマイクロデータセンターを、世界各地に約5,000以上展開。衛星を利用して、これらを接続します。衛星の利用で高いカバレッジが期待できるため、航空機や船、エネルギー事業などへの適用が期待されています。

4社目:Zenlayer

企業がビジネスを効率的にグローバル化するために、ITリソースを世界中に展開・管理するよう設計された、グローバル接続プラットフォームを提供。290以上の場所からエッジデータセンターを検索し、10分以内にサーバーをアクティブ化することができます。

5社目:OXIO

100%クラウドベースかつ、パーソナライズされたクラウドベースのモバイルサービスを、数分で起動します。セキュリティを担保し顧客のプライバシーを保護しながら、通信会社や自社保有サービスの使用履歴などのデータをもとに、インサイトを企業へ提供します。

 

上記10社について、ウェビナー参加者の皆様に気になった2社を選定いただいたところ、1位はOmnispace(37%)、2位はEdgeQ(30%)でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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