2023年9月、食品小売業者向けの中規模カンファレンスGroceryShop 2023が、アメリカ・ラスベガスにて開催されました。今年のGroceryShopには、約250社のスポンサー、約4,000名の参加者が来場。本ウェビナーでは、同イベントに参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・竹内が、当日のイベント内容や注目セッションなどの様子をお伝えします。
イベント概要
GroceryShop 2023は、3日間にわたりマンダレイベイというホテルで開催された、中規模のイベントです。対談形式のセッションをメインとしたイベントであり、セッションは終日開催されていました。また、ベンダーとの商談会も盛んで、15分のショートミーティングが会期中に約25,000回開かれました。
会場の様子
至る所にリテールメディアの広告や、リテールメディアの名前が入った休憩所、リテールメディア企業との商談ブースなどが設けられていました。リテールメディアを強く推す姿勢が感じられました。また、日本からの参加者もリテールメディア関係者が多かった印象です。他にはメーカーや流通、商社関係者が見受けられました。日本からの参加者は見た限り30〜40人ほどで、昨年よりも増加傾向にあるようです。WalmartやTargetといった大手小売事業者のディープな内情を聞けるため、日本企業からも注目の集まる展示会になっているようです。
Key Findings
GroceryShop 2023に参加して得られた気づきは、以下の3点です。
- AIの活用が大きく進展
ここ1年で、小売業界においてもAIの活用は大きく進んでいます。社内データに基づいたAIチャットツールの導入や、販売・市場動向の予測におけるAIの活用など、社内の生産性向上を目的とした事例が目立ちました。 中には、AIを活用した在庫管理や調整など、先進的な事例も。 - 勢いが拡大するリテールメディア
さまざまなテーマが取り上げられた中、最も注目されていたテーマはリテールメディアでした。多くのセッションやキーノートのトピックになっていただけでなく、大手スーパーチェーンが新規のリテールメディアを発表するサプライズもありました。 - ユニファイドショッピングの台頭
ユニファイド・ショッピングとは、オンライン・オフライン問わず全てのチャネルにおいて、シームレスかつパーソナライズされた購買体験の提供を目指すものです。複数チャネルでの販売を目指すオムニチャネルに代わり、近年台頭してきている概念です。
注目セッション
GroceryShop 2023では、3日間で約175人の業界リーダーがセッションを行いました。その中から、Key Findingsに関連して注目されていた5つのセッションをピックアップし、サマリーをご紹介します。
セッション1:食料品店におけるAIの未来(Hungryroot社)
Hungryroot社は、オンラインでの食料品配送サービスにAIを活用している企業です。CEOのBenさんは、以下の3点に触れていました。
- AIの活用により、顧客は多くの時間と費用を節約できる
…週2~3時間かかる買い物の時間を、3分程度に短縮できる - AIの活用により、一般的な食料品店に比べ食料品ロスが80%削減できている
…食品廃棄コストが削減でき、高利益体質を作れている - 今後は、価格設定やクーポン領域にAIを活用していきたい
…人によって感じ方が異なるような難易度の高い領域に、AIを活用し最適化していく
セッション2:AIとデータを活用して迅速なイノベーション創出を実現(Tropicana社)
AIとデータを活用し、迅速なイノベーション創出を目指している同社CEOのMonicaさんは、以下3点に触れていました。
- 2年前のPepsiCo社からの独立を機に、組織のアジャイル化を推進
…アジャイル化実現のため、AI・データの活用のほか、組織のフラット化等を行っている - AIによる社内業務の効率化
…社内向けAIチャットツール「Trop GPT」を導入し、生産性の向上を目指している - 今後はデータ活用を推進
…AIを活用したERPシステムの構築を進め、トレンド予測や製品コンセプトの作成を効率化
セッション3:ブランド側から見えるリテールメディア(Coca‑Cola社、Mondelez International社、reckitt社)
Mondelez International社は、オレオやリッツなどを販売している菓子メーカーで、reckitt社は日用品、衣料品などを製造する企業です。Coca‑Cola社を含めたグローバルブランド企業3社による、対談セッションが行われました。
- 現状のリテールメディアに対する不満
…一部のリテールメディアでは十分な結果が出ておらず、データ共有にも課題がある - データの透明性が重要
…上記の問題を解決するため、重要な指標や測定方法を標準化する必要がある - 店内メディアは大きな可能性を秘めている
…消費者の購買現場でアプローチできるため訴求力が高く、注目が集まっている
補足:米国リテールメディア市場
米国のリテールメディア市場は毎年大きく成長しており、現在の市場規模は約450億ドル(日本円で約6兆7000億円ほど)です。TV広告に次ぐ市場規模第4位のメディアとなっています。2025年にはTV広告を抜き、2027年には1060億ドルの市場規模まで成長していく見込みです。このように米国リテールメディア市場が成長している理由は、主に以下の3つです。
- ターゲティング広告に使用されているサードパーティクッキーが利用できなくなるため
- TVの視聴率が低下し、TV広告の代替手段になっているため
- 店舗内での広告配信を可能にする、デジタル化が進んできたため
また、リテールメディアには以下3つのフェーズがあるといわれています。
- 1.0:各社ECサイト上でのスポンサー広告
- 2.0:店内やストリーミングTV上での広告
- 3.0:(今後のトレンドになると予測されている)商品サンプル
現在は2.0のフェーズにあるといわれており、そのひとつであるストリーミングTVとは、オンラインコンテンツを配信しているネットTVのことを指します。ストリーミングTVと連携することで、ネットTV上で広告を配信できるということです。ストリーミングTVでの広告は、効果測定やターゲティングが可能なうえ、視聴者に若い世代が多いため、従来のTV広告の市場を奪う形で成長しています。
セッション4:デジタルと物理空間で消費者に効果的にアプローチ(kellogg’s社)
ユニファイドショッピングを戦略として推進している同社は、その理由として以下の2点を挙げています。
- 複数経路で買い物をする顧客は、そうでない顧客に比べて2〜4倍多く買い物をするため
…その結果、売上へと直結する - 「より迅速に個人のニーズを満たす」という最近の消費者ニーズに対応するため
…オンライン・オフラインの両方でシームレスな体験を提供する必要がある
また、ユニファイドショッピングにおいては、顧客のショッピングジャーニーの全体をしっかりと想定した上で、オンラインとオフラインの両方の空間から効果的にアプローチを進める必要があるとのことです。
具体的な事例としては、ゲーム「Minecraft」とのコラボレーション施策の取り組みが紹介されました。オンラインでは、インフルエンサーを活用したプロモーションを行う一方で、オフラインではゲームになぞらえた「ブロックを積み上げる陳列」を行い、製品のストーリー性を再現していました。こうして、オンライン・オフラインの両方で家族が楽しめる体験を提供し、認知を広げていく取り組みを行ったそうです。
セッション5:ショッピングを魅力的な体験に(Instacart社)
セッション2日前に上場を果たし勢いに乗っている同社は、以下の3点について述べていました。
- テクノロジーを活用し、ショッピング体験をより良くしていく
…AIを活用した食品レコメンドツール「Ask Instacart」をはじめ、今後も取り組んでいく - 食料品店の未来は、オンラインと店舗がつながった世界になる
…例えばスマートカート「Caper Cart」は、作成した買い物リストがカートに反映される - スマートカートは、リテールメディアとして最適である
…多くの買い物客の行動データを収集し、パーソナライズした提案を適切に行える
04:スタートアップピッチ
Groceryshop 2023で行われたスタートアップピッチコンテスト「Shark Reef」には、BtoB領域で活躍する12社のスタートアップが参加しました。今回は、第2ラウンドに進んだ6社をご紹介します。
1社目:Bevz
Bevzは、コンビニエンスストアに特化した在庫管理プラットフォームを提供しています。アメリカのコンビニは約7割が小規模店舗ですが、そうした店舗でもBevzのデータベースを利用すれば、効率的に在庫データを管理できます。Uber EatsやDoor Dashなどとも連携しており、オンライン販売による新しい販路の開拓も可能です。
2社目:envelope
envelopeは、セキュリティカメラの映像をAIで解析することで、店舗の棚管理を効率化するシステムを提供しています。品切れの際は従業員に通知を送るため、棚管理の手間が減り生産性が向上。オンラインショップの欠品も防げます。既存の監視カメラも活用できるため、コストを抑えた導入も可能です。
3社目:Guac
Guacは、AIを用いた需要予測ソリューションを提供しています。独自のアルゴリズムを用い、天候や休暇、イベントなど250の外部変数を取り入れることにより、高精度の予測を実現。その結果、食品廃棄を33%削減し、利益率を25%改善させた例が紹介されていました。
4社目:Instock.com
Instock.comは、自動化されたフルフィルメントセンターを、手ごろな価格で提供しています。磁石によって壁や天井など、あらゆる面の移動が可能なロボットを、センターに活用。ブロックのようにモジュールを組み立ててセンターを構築できるため、小規模かつ低コストでの提供が実現しています。
5社目:Luca
Lucaは、AIを活用した価格最適化プラットフォームを提供しています。競合店の価格変更やマクロ経済データ、自社の販売実績や在庫データなど、膨大なデータをAIが分析。商品ごとに最適な価格をAIが導き出し、その根拠や理由も提示されます。そしてそれを踏まえ、最終的にはユーザーが価格設定を行える仕様となっています。
6社目:Swish Brand Experiences
Swish Brand Experiencesは、小売業者のリアルタイムな購買データを活用し、ECサイトの注文内容に適したサンプルを同梱するサービスを提供。ユーザーによるターゲット設定も可能で、効果の高いサンプル配布が可能となります。サンプリングした商品が実際に購入されたか確認し、その投資効果を確認することもできます。
以上6社がピッチを行った結果、Instok.comが審査員賞を受賞。参加者投票ではGuacが1位を獲得し、それぞれアワードが贈られました。審査員賞選定の理由は詳しく説明されていませんが、自動化を導入している倉庫は20% 未満とサービスの需要が大きく、かつ手ごろな価格で顧客間シェアが可能です。そうした独自モデルである点が、評価されたのではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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