「re:Invent 2023」は、2023年11月27日から12月1日(米国時間)にかけて、ラスベガスで開催されたイベントです。ウェビナーでは、米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、本イベントに参加し、そのサマリー講演を行いました。
イベント概要
AWS主催の12回目のイベントが盛大に開催されました。現地での参加者は5万人、オンライン参加者を合わせると30万人もの方々が熱心に参加し、なんと2,200ものセッションが行われ、非常に充実した内容となりました。会場では日本からも多くの出張者が駆けつけ、周りでは常に日本語が飛び交っていました。
全体を通しての気づき
当イベントに参加して気づきとなった点は、以下の3点です。
- 現状のビジネスの拡張、サーバレスへの取り組み
AWSは長い間にわたり、サーバーレスの開発と基盤を支えるツール開発に注力しています。データベースへの負荷に応じて柔軟にリソースを拡張させる仕組みや、それらの動作を下支えする優れた時刻同期のシステムを運用しています。 - Amazon Qの発表、AWS上で簡単にAIの実装が可能
AWSは、企業がAIシステムを構築するために必要な全ての要素を備えたAIスタックの拡充に取り組んでいます。注目のAmazon Qは、マイクロソフトでいうとCopilotのようなアプリで、運用者や開発者の生産性向上に貢献します。 - 産業ごとの活用、アーキテクトが必要の重要性
通信事業者、製造業、小売業など、各産業ごとに特有のアプリがあります。それらの特性を踏まえた総合的な設計が重要です。
注目セッション
特に興味深かったセッション、トピックスについて紹介します。
1. サーバーレスへの挑戦、開発における裏話
AWSのクラウドストレージにおける柔軟なリソース拡張には、NitroおよびCaspianが重要な役割を果たしています。データベース負荷の変動に即座に対応し、自動的なShardingを実行します。Shardingは運用の複雑さが常に伴いますが、AWSは独自の仕組みによって一貫性を確保した運用を維持しています。
こうした運用を支えるのは、ログの慎重な管理です。特に時刻同期システムについては5年前からの開発を継続しており、最新のリリースではマイクロ秒レベルの時刻同期を実現しています。さらに、一部のデータベースにおいては、機械学習モデルを活用し、クエリ量の予測に基づいてデータベースのリソースを自動的に調整する新機能も実装されています。
2. 生成系AIスタック、Bedrock、Amazon Q
AWSが提案するAIスタックは3つのレイヤーで構成されます。最下層の基盤モデルの構築については、AWSがコンピューターリソースや開発ツールを提供しています。中間層では、Amazon Bedrockが「ファインチューニング」と「RAG」機能を提供します。Bedrockの最大の特徴は、Anthropic、Cohere、MetaなどのAI企業の基盤モデルをBedrockと単一のAPIで連携でき、開発者の作業を効率化できる点です。Guardrailsは、不適切なコンテンツを制御します。最上層では、Amazon QやCodewisperが専門的な知識やコード不要でAIを活用するためのアプリを提供します。
Amazon QはAWSの管理コンソールに統合されており、利用者はチャットを通じて必要なAWSの機能を簡単に検索できます。トラブルシューティングにも適しており、Amazon Qはコードのエラーを検出し、修正方法を提案することができます。さらに、Amazon Qにはコード変換機能が組み込まれており、バージョンアップなどの際にかかるコード変換の手間を最小限に抑えることができます。
3. AntheropicとAWSの共同開発
AntheropicのCEOは、AWSのインフラを利用して基盤モデルを開発し、AWS上で主要なワークロードを展開する計画を発表しました。一方で、AWSはAntheropic社に対して約5,800億円の投資を行っています。Antheropicの優位性である20万トークンのコンテキスト・ウィンドウは業界をリードし、法律、金融、保険、コーディングなどの分野で活用が進んでいます。また、多くの情報を組み込むことは、幻覚の発生率を低減することにも効果的です。安全性にも焦点を当て、モデルへの敵対的攻撃に対する堅牢さを最近の研究で証明しています。
4. 量子コンピューティングへの取り組み、エラー訂正技術の革新
AWSは2019年にカリフォルニア工科大学に量子コンピューティングセンターを設立しました。直近の研究では、量子ビットのエラー訂正技術に焦点を当てています。エラー訂正技術は進化しており、精度は0.1%にまで向上していますが、実用性を意識した場合、数十億回のエラーなし演算が可能であることが必須要件のため、量子コンピューティングには技術的課題が残っています。量子ビットが増えるとノイズのリスクも高まります。カリフォルニア工科大学の研究チームは未来のエラー訂正機能を持つ量子コンピュータの開発に取り組んでいますが、開発には時間がかかり、量子ネットワーキングも必要です。新興技術であり、実現には10年以上かかる可能性があります。
5. インダストリごとの提案におけるソリューションアーキテクトの重要性
データの利活用やAIサービスの増加に伴い、AWSは多岐にわたるサービスを提供しています。特に、各産業向けの専用サービスも増加中。これらを組み合わせて提案するソリューションアーキテクトの役割がますます重要です。通信事業者は生成的AI技術を使い、パーソナライズされたサービスを提供し、製造業ではデジタルツインや予防保全を目的としたシステム構築にデータを有効活用しています。小売業もサプライチェーン予測で在庫や需要管理を最適化しており、イベントではこれらのユースケースに対する構成案が説明されました。
展示会場の様子
イベントでは、Keynoteに加えてInnovation TalkやChalk Talkなど、様々な形式のセッションが行われました。Innovation Talkではより深い内容が掘り下げられ、Chalk Talkではホワイトボードを使用して技術的な議論が展開されました。また、実際のコーディングを行うワークショップも実施されていました。
イベント会場の中央には巨大なAWSブースが配置され、そこではAmazon Qなどの注目アプリのデモが行われました。他にも、各テーマごとに設けられたゾーンにはさまざまなスタートアップが展示され、中でもデータ活用に関するスタートアップのブースは多くの注目を集めました。驚くべきことに、AWSと機能的に競合するスタートアップも出展しており、多様性と活気に富んだ展示が印象的でした。
さらに、産業特化のアプリも展示され、その充実した内容に感銘を受けました。
注目スタートアップ
以下は私が個人的な見解で選んだ、注目すべき10社のスタートアップです。
1社目:Cribl(あらゆる場所のデータを検索)
企業の分散データに対する効率的なデータ検索プラットフォームです。特にログなどの連続データに焦点を当て、異なるプラットフォームにおいても一元的にデータの検索が可能です。セキュリティにおけるインシデント発生時にログから影響範囲を調査に特に有効です。また、コネクタの提供により、データを柔軟に任意の場所に送信する機能も備えています。
2社目:Starburst(データベース運用の一元化)
特にオブジェクトストレージ向けに機能を充実させ、データ共有、リアルタイムデータ取り込み、自然言語とSQLの翻訳機能などを提供。データレイクとデータウェアハウスの選択により高速なデータ処理が可能。ガバナンス層が抽象化され、データ管理が集中化され、データベースごとの管理が不要になり、統一されたデータ管理が実現されます。
3社目:Tabular(先進的なアイスバーグ データベース)
オープンソースDBフォーマット「アイスバーグ」を開発。アイスバーグはデータ整合性を確保し、柔軟な変更が可能で、クエリのパフォーマンス向上に優れています。Tabularとアイスバーグは、クエリとストレージの効果的な仲介を提供し、データカタログ機能、高速な検索、ロールベースのアクセス管理を円滑にサポートします。
4社目:Anjuna(クラウド上に機密コンピューティングを実装)
クラウド上でハードウェアレベルのセキュリティを提供するためにチップレベルのメモリ内データ分離技術を導入することができます。AWS、Azure、Google Cloudなどのクラウドプラットフォーム上で信頼性の高い実行環境を簡単に構築可能であり、銀行などの厳格なデータセキュリティ環境でも利用されています。
5社目:Anyscale(スケーラブルなAIおよびPythonアプリの構築を支援)
異なる場所に分散したアプリや機械学習のワークロードを統合し処理するプラットフォームです。機械学習やPythonによるアプリの開発を容易にするとともに、費用対効果に優れたスポットインスタンスなどをサポートすることで低コストにトレーニングや実装を可能にします。
6社目:Armory(開発者向け支援ツール)
開発者向けに高品質なコードデプロイを迅速に実現する便利なツールを提供しています。UXに焦点を当て、トラフィックの段階的な切り替えやバージョン評価、自動ロールバックなどのツールを提供し、アプリの市場投入までの時間を短縮することができます。シンプルな操作と一元管理を容易に行えるようになります。
7社目:Chronosphere(データベースの効率化とコスト削減)
プログラムやデータベースのパフォーマンスを監視するプラットフォームで、生成された全てのメトリクスにおよぶ監視を可能にします。アプリの問題を早期に検知したり、正確なトラフィック処理状態を把握することで、サーバーリソースの不足にも素早く気付くことができます。
8社目:Imply(Druidを簡単に実装するプラットフォーム)
Druidを手軽に実装できるツールを提供しています。データの取り込みからグラフ化、UIの提供まで、Implyがサポートします。ImplyとDruidは、高い同時実行性とコスト効率を提供しており、大規模な分析クエリにも適しています。
9社目:Pinecone(機械学習のトレーニングに最適なベクターデータベースを提供)
高速で効率的な検索やリコメンデーションなどに適したデータベースです。リアルタイムなデータ変更に即座に対応し、生成系AIアプリとの組み合わせでチャットボットなどのアプリ開発において高い性能を提供します。
10社目:Sourcegraph(推奨コードの提示、AIチャットの活用)
コードの検索やリファクタリングを効率的に行い、オートコンプリートやAIチャット機能を活用して開発者が効率的にコーディングできます。セキュリティリスクの発見と修正もサポート。AWSのCodewisperと比較して、Codyはコード全体を網羅的に管理できる特長があります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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