2024年1月、世界最大級のテクノロジーの祭典であるCES2024が、アメリカ・ネバダ州のラスベガス・コンベンション・センターを中心に開催されました。今年のCES2024には、約135,000名以上の参加者が来場。本ウェビナーでは、同イベントに参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、当日のイベント内容や注目セッションなどの様子をお伝えします。
イベント概要
今年のCES2024は、例年より約1週間早い時期に開催されており、来年の開催予定は2025年1月7日~10日です。会場の様子は昨年から大きな変化はなく、ラスベガス・コンベンション・センターでは大手企業やヘルスケアテック、オートテックの展示が行われていました。その他、Tech Westのエウレカパークではスタートアップを中心とした展示が、Tech Southでは主にメディア関連のセッションが行われていました。
Key Findings
CES2024に参加して得られた気づきは、以下の3点です。
- センサーの進化を実感
SONYとHondaが共同開発した自動車「AFEELA」が今年も展示されており、In-Cabin Sensingがアップデートされていた。デジタルヘルスにおける、遠隔医療を前提としたサポートデバイスが目立っており、医師との面談の効率化が期待される。 - デジタルツインの本格始動
SIEMENSは「Industry Metaverse」によって、従業員の生産性向上に貢献する取り組みを行っている。展示会場では、ARの触覚技術やARグラスといった新しいアプローチが見られた。 - AI×クラウドベースの開発がより具体化
Qualcommは「自動車のスマホ化」に取り組んでいる。Walmartは、従業員向けアプリに生成型AIを搭載し、店舗(スーパー)における検索性を向上させている。
注目セッション
CES2024で行われたKey noteの中から、注目されていた3つのセッションをピックアップし、サマリーをご紹介します。
セッション1:2024年は、産業メタバースのターニングポイント(SIEMENS社)
同社では、デジタルツインによるシミュレーションやコラボレーションを通じ、大型プロジェクトの生産性向上とエネルギー削減を実現。大規模なテスト環境が不要になり、中小企業も大型プロジェクトに挑戦しやすくなった。
また、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)のような産業言語を利用する場面においては、自動化が難しい場合も。これに対し、仮想環境上のPLCを作成して設計段階から自動化を意識した開発プロセスを進め、AIが自然言語と産業言語を翻訳するモジュールを追加した。
その他の取り組みのひとつとして、SONYのヘッドセットとSIEMENSのソフトウェアを組み合わせたメタバース上のコラボレーション「Immersive Engineering」がある。デザイナーやエンジニアが没入感、直感性を備えた操作で設計を行える。
セッション2:Walmartが目指す“第二の道”(Walmart社)
同社の目指す「第二の道」とは、「最新のテクノロジーを取り入れつつ、顧客や従業員への貢献を意識する」ことである。そして、そうした施策を多く実施している。
顧客への貢献として、家の中に入り込み、冷蔵庫に商品を納品する「InHome」を実施。顧客の一番のストレスである「家事の計画と、それを覚えておくこと」を、アプリにAIのアドバイス機能を盛り込むことで解決した。
従業員への貢献としては、従来からAR技術を用いたアプリを提供。スマホをかざすと店内倉庫にある段ボールの中身を表示し、今店内に持っていくべき商品を指定できる。新たに生成系AIの機能をアプリに組み込み、商品の検索性も向上させた。
その他の取り組みとしては、特許出願中の需要予測に関する機械学習モデルや、最適な商品移動のシミュレーションができるAIシステムなどが挙げられる。
セッション3:コンピューティング・プラットフォームへのアプローチが変わりつつある(Qualcomm社)
現在、多くのデータはクラウドに集約されており、AIをフル稼働させるにはまだスマホのスペックが追いついていない。デバイスチップにAIを統合し、デバイスのデータをうまく取得できるようになれば、本当のコンテキストが見えてくる、と同社は考えている。
最新のスマホやPCにはAI機能が組み込まれ、Copilotの機能を実装している。なお、同社が開発するCPU「Snapdragon」はSamsungやGoogle、SONYやLenovoなどのスマホに組み込まれ、この新しい潮流を牽引している。
また、車も新たなコンピューティング・プラットフォームとなっている。同社はモバイル事業で培った技術力を自動車企業との提携に生かし、緻密な設計において優位性を発揮。2023年3月に初公開したコンセプトカーでは、顔認識や運転者のアシスト機能など、車のインテリジェンスを強化した。
展示会場の様子
展示会場における、各ブースの様子をご紹介します。
LG
- 透明有機ELディスプレイ
驚きの高コントラストと解像度。透明の部分は発光せず、省エネにも。この技術を使えば、家の壁や窓に溶け込むような形でテレビを配置したり、店舗のディスプレイに金額を表示したりできる。
SONY
- Honda社と共同開発した自動車「AFEELA」の最新のセンサー
車の所有者を認識して鍵を開ける。運転者の状態を認識し、居眠りのような姿勢を取ったときに通知したり、赤ちゃんが車に乗ったときに認識したりする機能を追加。 - Haptics技術を用いた、ゴーストバスターの世界に入り込む展示
水たまりを踏んだ時に床から振動が伝わって来たり、参加者がモンスターの残骸を踏んで掃除を行ったりした。マーカーレスモーションキャプチャーの技術を活用。 - マンチェスター・シティFCとの事業共創
VRで試合に参加できる機能に加え、前の試合のハイライトをファンサイトからVR上で閲覧でき、店舗でNFTも購入できるなど、新機能を追加。
各スタートアップ
- Venetianのエウレカパークに、約1200社のスタートアップが出展。国ごとのブースもあり、今年は例年以上に韓国ブースが多く見られた。イスラエルやフランス、イタリアも大きなブースを出展。日本ブースはJetroが主導し、30社が出展した。
VR/AR
- 中国のEmdoor社のヘッドセットは、2024年2月にリリース予定のApple Vision Proの50万円強(3,499ドル~)に対し、7万円程度で販売。会場では「軽くて快適」という声もあった反面、ネガティブな声も多かった様子。レンズが厚く、1世代前のCPUであることが理由のよう。
- 米国のShokz社は、水泳選手とランナー向けのイヤホンを展示。英国のUltraleap社も3Dハンドトラッキングセンサーの体験コーナーを出展していた。
デジタルヘルス
- 引き続き注目の市場・デジタルヘルスにおいては、弊社で過去に取り上げたVivooが大きなブースを出していた。検査キットとアプリを活用した尿検査で、ビタミン C、マグネシウム、カルシウムなどの健康状態が把握できる。
- 韓国のLuxnineは、胸に張り付けるタイプの小型デバイスを提供しており、呼吸速度などのバイタルサインを検知可能。老人介護への適用がユースケースとのこと。
- 英国のWithings社は、時計やベッドパットなど、生活の中で無意識に利用しているものに組み込むヘルスケアデバイスを展示。
Auto Tech
- オートテック全体を通して多かった展示は「車のスマホ化」。Amazonは車の中を快適にするためのコンテンツ提供や、センサーから収集したデータの解析基盤を主に展示していた。Googleのブースは「スマホと車を連動させ、目的地までの経路や、EVの充電ステーションを明示してくれる機能」を展示していた模様。
- 「空飛ぶ車」系の展示もあり、中国のとある会社は、自国の航空局で特別飛行許可を昨年取得。緊急時の脱出パラシュートも試験にも成功した。米国のFlyNow Aviation社は2025年、eVTOLに貨物を載せた試験を行う予定で、4~5年後には人を乗せる計画も。
- Amazon傘下でロボタクシーを提供しているZooxは、車両がどう障害物や通行人をセンサーで認識しているのか、デモを実施していた。
- 2022年、2023年と基調講演を行ったJohn Deereのブースでは、最新の農業機器で土地の凸凹を検知し、種を植える前の「溝を掘る」機能を発表。農業車両の自動運転をモニタリングしていた。畑のデジタルツインについても、開発に向けて準備を進めている。
注目スタートアップ
今回注目のスタートアップを7社ご紹介します。
1社目:Afference(空間コンピューティング時代における触覚の実現)
知覚科学者で構成される同社は、2023年9月に150万ドルを調達し、グローブ型のインターフェイスを作成。装着すると指全体に感覚が生まれる。皮膚と脳をつなぐ導線を「ハッキング」し、新しい情報を追加することで、脳が感覚を感じる仕組み。
2社目:Ultraleap(カメラを用いた高精度なハンドトラッキング)
コントローラーなしでハンドトラッキングが可能なリープモーションコントローラー。デバイスには2台のカメラと複数の赤外線LEDが内蔵され、画像を使用し手の動きの仮想モデルを生成。超音波を用いたハプティクス技術で触覚にフィードバックし、感覚を伝える。
3社目:Kura Technologies(広い視野、高い透明度が特長のARグラス)
150°の広い視野と、95%の透明度を維持し、8Kの画像を表示させることができるARグラス。従来のヘッドセットとは異なり、80gと軽量で、多くの光学技術が組み込まれている。ユーザーが見る映像がくっきりするよう、独自技術を組み合わせている。
4社目:GluxKind(ベビーカーにコーパイロットを導入)
上り坂ではデュアルモーターが、下り坂では自動ブレーキ機能が、ベビーカーを押す人をサポートする、スマートベビーカー。自動運転車や配達ロボットと同じセンシング技術を活用。子どもが乗っていないときには自動運転モードにでき、ハンズフリーでの散歩も可能。
5社目:Withings(遠隔医療の効率性を向上させるマルチスコープ)
同社のBeamOは、1分で計れる4つの健康チェック機能(体温計、心電図、酸素計、聴診器)を搭載。目的は自宅での健康診断で、一般的なフィットネスウォッチより高精度。アプリを介した医師への情報共有も可能。現段階ではFDA未承認、2024年夏に商用展開予定。
6社目:FaceHeart(ビデオベースのバイタルサイン ソリューション)
スマホカメラで40~60秒程自身の顔を撮影すると、非接触で心拍数、血圧、酸素飽和度などのバイタルサインを測定。他製品より測定精度が高く、バイタルサインを長期的に追跡可能。企業の福利厚生やスマート家電との連携を強化し、個人の健康へのアプローチを強化。
7社目:TechMagic(熟練のシェフの調理技術をロボットが再現)
日本企業の同社が提供するI-Roboは、1時間に約30食の速さで調理可能。調理や洗浄などの単純作業を自動化し、飲食業界の人手不足や利益率の低さに貢献。調味料の自動計量供給だけでなく、パーソナライズされた料理の提供も可能。大阪王将もi-Roboを採用している。
最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。