こんにちは、Nissho Electronics USA の門馬です。
今回は世界最大の通信事業者の1つであり米国における無線通信において半分のシェアを持つAT&Tが、ここ1年間で発表したオープン化への取り組みを紹介します。注目したのはホワイトボックスの活用、ネットワークAPIの公開、そしてOpen RANへの取り組みの3つです。
ホワイトボックスの積極的な活用でネットワーク運用の課題を解決
従来、ネットワーク機器のハードウェアが作動するためには専用のソフトウェアが必要でした。しかしそれらソフトウェアはベンダーの独自仕様となることから、運用者が複数製品の操作を覚える苦労を強いられるうえ、コストも膨れます。そこで登場したのがホワイトボックスです。このアプローチはネットワークOSを利用してあらゆるハードウェア上で作動するため、上記の問題を解決する方法として通信事業者に限らず注目されていました。
AT&Tは2013年からホワイトボックスの活用に乗り出し、最も複雑な通信事業者の主要ネットワークに採用。現在、ホワイトボックスで構成されたネットワーク基盤経由の通信トラフィックは52%以上にのぼり、安定的な運用を継続しています。その結果、コストを削減するとともに、運用の効率化、さらにはネットワーク全体のパフォーマンスの向上を実現しました。
APIを公開し、コミュニティの力で新しいネットワークの価値を引き出す
通信事業者の業界は、これまで外部との情報共有や連携に関して閉鎖的でした。またセキュリティやプライバシーへの懸念により、通信事業者は外部のアクセスを制限し、データの漏洩や悪用を防ぐ対策を講じる必要もありました。しかし近年では、技術の進歩や市場の変化もあり、通信事業者もオープンなアプローチを取るようになっています。
AT&Tは、ネットワークAPIを公開し、開発者のコミュニティを運営しています。そこでは企業や開発者が、AT&TのAPIを通じて通信状況を可視化し、データが自社に入る前に脅威を検出したり、重要なアプリのパフォーマンスを保証したりできるほか、メッセージ機能を難しい開発なしで自社アプリに組み込むことも可能です。さらに、AT&Tが開発した独自のAI機能によって、企業が自社独自のデータを活用したサービスを開発することも期待されています。
Open RANを加速させ、ネットワークコストの削減と運用性向上を目指す
モバイルネットワークでは、アンテナ以外にもさまざまな役割を持った機器が連携しながらトラフィックを宛先に届けています。これらの装置にはベンダー独自の仕様が含まれており、閉鎖的なマーケットとされていました。
Open RANは、モバイルネットワーク設備において既存ベンダーの独自仕様をオープン化させる取り組みです。これにより、安価な第三者製のアンテナを導入できるため、コストを抑えて運用性も向上します。
AT&TはOpen RANに対応した製品を大規模に導入するために、2023年12月にEricssonとの新たな提携を発表しました。そこで掲げた目標は、2026年までに無線通信の70%をオープンインフラに移行させるという非常にチャレンジングな内容です。
Nissho USA注目ポイント
AT&Tは伝送レイヤーにおけるマルチベンダー接続を推奨する団体OpenROADMを立ち上げた企業の1つです。同社はこうしたベンダーロックインを排除してオープンな基盤を作り上げる取り組みに対して、以前から非常に積極的に関わってきました。
一方、競合であるVerizonは、これらの領域においてあまり積極的に活動している印象はありません。そもそもオープン化への取り組みは常にベンダーの保証を得られるわけではなく、特にパフォーマンスが求められる通信事業者のネットワークにおいては致命的な問題となりえます。つまり、通信事業者側はそのリスクをこれまで以上に持つことが求められるのです。
AT&Tのような先行者のチャレンジが成功すると、続々とそれにならう通信事業者が現れることは間違いありません。Open RANについては技術実装にまだ時間がかかるとも言われていますが、ホワイトボックスやAPIの公開については、すでに多くの通信事業者が追随し始めています。リスクを取ってオープン化をけん引するAT&Tの姿勢からは、同社が世界最大の通信事業者かつ北米最大のワイヤレスおよびファイバープロバイダーであり続ける理由が見えた気がしました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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