こんにちは、Nissho Electronics USA の門馬です。
現在、通信事業者注目のイベント「Mobile World Congress 2024」が開催されています。今回のテーマの1つは「5Gとその先」。そこでこの記事では米国で5GをリードするT-Mobileのイノベーティブな取り組みをお伝えします。
T-Mobileは米国内での5Gの展開におけるリーダー的な立ち位置です。同社はミッドバンドの活用にいち早く取り組んで全米をカバーする5G網を構築したほか、スライシングと呼ばれる技術を駆使したイベントネットワークや学内ネットワークなどの実装にも成功しました。さらに将来の技術への投資も行っており、スタートアップの発掘にも力を入れています。
ミッドバンドに注目した独自戦略で5G展開をけん引
T-Mobileはこれまでも5Gネットワークの構築を非常に積極的に行ってきました。2019 年 12 月に米国で初めて全米規模の5Gネットワークを構築し、2020 年 4 月には当時米国第4位であったモバイル事業者のSprintとの合併を発表。以降、モバイルサービスの加入者を加速度的に増やしています。
同社の戦略で特に注目すべきは、ミッドバンドを利用した5Gのすばやい展開です。4G以前のモバイル通信では、広くローバンドと呼ばれる低い周波数帯の電波を利用してデータを飛ばしていました。ローバンドは長距離の電波を飛ばせるという特徴がありますが、大容量通信はサポートしていません。一方、ハイバンドの特徴はその逆であり、かつ技術的な難しさがあります。当時、競合のAT&TやVerizonは5Gの主戦場をハイバンドと位置づけ、開発に時間をかけていたところ、T-Mobileは独自の戦略を推進。距離・データ容量において中間的な位置づけであり、開発の難易度もハイバンドほど高くないミッドバンドに注目し、スピーディーにサービスを展開していきました。その結果、5Gをどこよりも早く全米に行き渡らせることに成功したのです。
突出した通信スピードとスライシング技術の活用で最高のエクスペリエンスを提供
T-Mobileは、5Gサービスにおけるデータのダウンロードおよびアップロードスピードについても競合他社より一歩抜きんでています。第三者機関の調査によると、ダウンロードスピードは競合他社の1.5倍(2024年1月時点)。アップリンクに関しても、UL Tx スイッチングと呼ばれる新機能をテストした結果、345 Mbps という型破りの速度を達成したと発表しています。
また5Gならではのスライシングを活用したさまざまなサービスも展開しています。スライシングとはあらゆる用途に最適化したネットワークを構成する技術で、同社はこれまで次のサービスを実現してきました。
- F-1会場の売店で230台の支払い端末を接続
- 臨場感あふれるビデオ配信(ダイビングイベント、ヨットレースなど)
- 教育目的のネットワーク(大学キャンパス、仮想研究室や VR フィールドトリップなど)
- SIMベースのSASE(Secure Access Service Edge)ソリューション
- Zoomなどのビデオ通信
新たな技術を開発するスタートアップに投資
T-Mobileはドイツテレコムと共同で「T-Challenge」というスタートアップコンペティションを行っています。4回目となる2024年のテーマは「テレコムのためのAI」で、注目の結果は6月ごろに出る予定です。
なお、昨年のテーマは「Web3」で、イノベーション賞やコンセプト賞など6つの部門から受賞者が発表されました。ここではその中から2社を簡単に紹介します。
- Perfect-iD(ドイツ、最優秀リサーチおよびコンセプト賞受賞)
企業とユーザーがデータを安全に共有するためのプラットフォーム。ユーザーは自分のデータを管理し、必要に応じて共有が可能。企業は効率的に正確な情報を入手できる。 - Shoelace Wireless(米国、最優秀イノベーション賞受賞)Wi-Fiと携帯ネットワークを効果的に組み合わせることで、高速かつ信頼性の高いインターネット利用を実現するAndroidアプリ。通信量の低減も可能。
また、T-Mobileは2012年からアクセラレータプログラムも継続しています。2023年4月にはテーマを「スポーツとエンターテイメント」に絞り、9社が参加しました。注目は次の3社です。
- CUE Audio
スマホのライトを点滅させたり、明るい画面を出したりすることで、コンサートなどで一体感を生む演出を可能にするブラウザアプリを提供。また、観客がQRコードを読み込んで自撮りをすると、その映像を即座に編集して会場の大画面に映すこともできる。 - ForwARdgame
AR/VR用のソフトウェアを提供。最新のテクノロジーを駆使して、現実世界に仮想体験を作り出す。最新のゲームトレンドと組み合わせ、若いファンへの適切なアピールやコミュニケーションを実現。 - Immersal
スタジアムやスマートシティ用のARアプリを開発。スタジアム用アプリは、MLBオールスターゲームで実装した実績がある。スマートシティについては、位置情報や視覚情報を組み合わせたナビや情報提供などを実現する技術を開発。
T-Mobileは、イノベーティブであるという印象をうまく植え付けており、若者を中心に加入者のシェアを競合他社から奪い取ることに成功しています。通信はスピードも重要ですが、快適なゲーム環境やスポーツへの投資、斬新なアイディア、そしてサステナビリティなど利用者の視点に立った訴求も大きな付加価値です。まだまだ「安い!」「早い!」のメッセージしか出していない旧態依然とした通信事業者は米国でも多数あり、それらとは一線を画している印象です。
米国では、AT&T、Verizon、T-Mobileの三つ巴状態が長らく続いていますが、T-Mobileは自らを「アンキャリア」と呼び、従来の通信事業者とは異なることを強調しています。もちろん主な競合他社であるAT&TやVerizonも付加価値を訴求していますが、T-Mobileはブランディングが競合他社より一枚上手だと感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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