「Mobile World Congress 2024」は、2024年2月にスペインのバルセロナで開催されたイベントです。本ウェビナーでは、Mobile World Congress 2024に参加した米国駐在員、日商エレクトロニクスUSA・門馬が、当日のイベントやセッションの様子をお伝えしました。
イベント概要
2024年2月、世界最大規模の通信系イベントMobile World Congress 2024が、スペイン・バルセロナで開催されました。主催のGSMAは、モバイル通信事業者の業界団体。MWC自体は1996年から続いており、通信事業者やメーカーが新発表を行う場として定着しています。参加者は過去最多の約10.1万人で、4YFN 2024というスタートアップイベントも併設されていました。
Key Findings
MWC2024に参加して得られた気づきは、以下の3点です。
- API活用の重要度が上がっている
非常に多くのグローバル通信事業者が、オープンゲートウェイAPIプロジェクトに参画。 - AI、エッジコンピューティング時代のコネクティビティ
エッジクラウドの必要性が高まり、ローカル5Gの具体的な活用事例が増えてきた。 - 通信事業者の収益性改善が喫緊の課題
収益性の向上には、技術革新が必要。ヨーロッパにおける通信事業者統合の動きや、規制の緩和に対する要望の増加が見られた。
注目セッション
MWC2024で行われたKey noteの中から、注目されていた5つのセッションをご紹介します。
セッション1:ネットワークとエネルギーの進化(Telefónica社)
- 「地球コンピューティングの時代」をビジョンに掲げ、地球全体をつなぎ、持続可能な未来の構築を目指す。
- オープンゲートウェイAPIの取り組みを行っている。協業しているブラジルの金融機関ITAUでは、認証メカニズムの強化やeSIMのスワップなどを活用。
- エネルギー消費の削減に関する取り組みを行い、2015年から2023年までのトラフィック量を9倍に増加させる一方で、エネルギー消費量を9%削減した。
補足:オープンゲートウェイAPIとは?…参画する事業者同士で、共通するAPIを用意する取り組み。
セッション2:買収に至った背景とは?(HPE社・Juniper社)
HPAは、今年の1月にJuniperの買収を発表しており、両社でパネルディスカッションを行った。
- 買収に伴い、ネットワーク製品のポートフォリオを統合管理していきたい。
- AI基盤の高速なネットワーク提供と、完全なネットワーク自動化を行いたい。
- 今後も、通信事業者へのサポートは集中的に行う。
セッション3:ヨーロッパ通信事業者の現状と挑戦(Vodafone社・Telefónica社・Orange社・Deutsche Telekom AG社)
ヨーロッパの主要通信事業者4社が初めて1つのステージに立ち、ディスカッションを行った。
- ヨーロッパの通信事業者のサービス提供は、世界的に見て後れを取っており、業績向上の遅れとトラフィック増加による設備投資の課題が深刻化している。
- 通信事業者数の多さが競争激化と規制の問題を生んでおり、技術革新の阻害や並列インフラの増加につながっている。
- デジタル化、5Gなどの技術革新と持続可能性への取り組みは、4社の共通目標。
セッション4:クラウド・トランスフォーメーションとエッジコンピューティング(DELL社)
「クラウド・トランスフォーメーション」が目標。「企業インフラだけでなく、お客様の生産性向上に貢献したい」という強いメッセージを投げかけた。
- データ処理、アプリの実装がエッジで行われる流れがきており、エッジにクラウドを構築することは不可欠である。
- 先進企業はマルチクラウドを活用し、ソフトウェア化とオープン化に取り組んでいる。
- AI対応PCの開発も含めて、生産性の向上を支援したい。先進的な冷却方法と電源管理で持続可能な製品を構築していく。
セッション5:5GとWi-Fiの共存: ユースケースと経済性(Celona社 ほか)
- 5GとWi-Fiは本来競合するものではなく共存するもの。用途に応じて使い分けるべき。
- その考えを浸透させるためには、デバイス体験のユースケースが重要である。
- 5GとWi-Fiの共存による経済性と効率性のメリットは、5Gにすればアクセスポイント数が大幅に削減できること、障害時にお互いの接続性をカバーしあえること。
展示会場の様子
今回、2,700社以上の出展がありました。各ブースの様子をご紹介します。
話題のブース
- Lenovo社:透過型ディスプレイを搭載したラップトップのプロトタイプ。背面にモノを置いても透けて見えるため、その絵を描ける。
- Deutsche Telekom AG社:アプリフリーのスマホ。アプリが一切なく、スマホの使い方が完全に変わる可能性がある。
- Amdocs社:ブースのデザインにAIを使用していた。
大手通信事業者の展示
- ヨーロッパの通信事業者は、大型のブースを構えていた。テーマはどこも似ており、AR/VRやデジタルツイン、自動運転を支えるネットワークの技術など。
- Orange社はスポーツをテーマに、AIを用いた動画解析やデータの利活用について展示。
- Deutsche Telekom AG社はブース内に大きなステージを設置し、5Gへの取り組みの成功事例を発表。人だかりができていた。
大手ベンダーの展示
- Ericsson社、Huawei社はどこよりも大きなブースを出していた。
- Ericsson社:ARや自社提供のRANが山火事の脅威を早期検知する際のデモを実施。
- Huawei社:「5.5G」がキーワードの新製品ソリューション発表イベントを開催。
- Google社:屋外にブースがあり、CESでもあった「車とスマホを連携させ、車内体験を向上させるシステム」を展示。Google初の折り畳み型スマホの実物も展示。
- Starlink社:衛星通信の電波の受信機を展示。
Microsoft社が提供する「Azure Programmable Connectivity」
オープンゲートウェイAPIの具体的なユースケースとして、ブースで説明を実施。
例1:金融機関が提供するサービス。SMSを用いたワンタイムパスワードを簡単に発行。
例2:不正利用のチェックを行う際、前回SIMがいつ交換されたかなどをチェック項目に含め、検出精度を上げる。
例3:GPSが届かない場所でも、スマホの位置情報を正確に知れる。社用スマホ等に活用。
Microsoft社では、これらのAPIをAzure上で簡単に実装可能なため、通信事業者の開発者はアプリの開発に集中できる。
日本企業ブース
各社ブースを出しており、とくにNTTドコモ社はベンダーロックインを排除したOpenRAN「OREX」の取り組みを紹介。飛行機、衛星を使って電波を中継させるHAPSの展示も。
各国のブース
35ヵ国が国単位のブースを出展。日本ブースは、総務省主導で15社が出展。特にNICTのブースは面白く、2030年代の未来を想定したBeyond 5Gのデモを実施。超大容量データのアップロードや、圧縮されていない4Kの動画転送を実演していた。
注目スタートアップ
今回注目のスタートアップを6社ご紹介します。
1社目:CARTO(空間データ分析)
地図をベースとしたデータ分析基盤を、クラウドで提供。通信事業者の例では、アンテナやエリアを拡張する場合に利用している(T-Mobile社)。DWHとネイティブに接続でき、ノーコードのワークフロー作成ツールで、簡単に自社データと統合が可能。
2社目:Kinetica(ハイパフォーマンスデータ分析基盤)
GPUや階層型ストレージと、データのベクトル化による高速検索を組み合わせた、ハイパフォーマンスデータ分析基盤。検索や集計は、自然言語にも対応。T-Mobileが導入し、より多くのデータを利用した分析や、5G展開のカバレッジの弱点検出・対処も可能となった。
3社目:Obvios(堅牢で柔軟なプライベート5Gネットワーク )
5Gコアにおいて通常は1セットになっている、コントロールブレーンとユーザープレーンを、分離して配置できる。その結果、サーバーリソースをうまく活用し、企業が開発するサービスへと簡単にモバイル通信を組み込めるようになる。
4社目:D-ID(Natural User Interface)
ウェブサイトへの埋め込みが可能な、人間味のあるインターフェイスを提供。対応言語は120か国語で、バックグラウンドで自動的に翻訳を実行。システムの背後ではChat-GPTが動作しており、企業向けのカスタマイズも可能。利用者の愛着獲得に活用できる。
5社目:Metalenz(次世代の生体認証)
画像処理システムの技術を応用した、超小型埋め込みカメラ。被写体の微細な凹凸を正確に捉え、スマホに組み込むことでより高精度な顔認証を実現。暗所や明るい場所でも、確実に本人を識別。自動車や工場のロボティクスなど、さまざまな分野で活用されている。
6社目:LotusFlare(デジタル活用を促進するBSS)
APIを活用したサービス展開やeSIMのスムーズな配布など、新しいトレンドに対応したBSS(Business Support System)を、SaaSで提供。マーケットプレイスそのものの基盤を提供し、マーケティング視点、BI視点でのデータの解析などをフルスタックでサポート。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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