シリコンバレーテクノロジー 2025.09.10

Web Summit 2025 Vancouver フィードバックウェビナー 〜世界最大級テックカンファレンスから見る最新トレンド&注目スタートアップ〜

2025年5月26日〜30日、カナダ・バンクーバーで Web Summit Vancouver 2025 が開催されました。64か国から1,100社以上が出展し、117か国から15,000名以上が参加。昨年までは Collision の名称で実施されていましたが、今年から正式に「Web Summit」としてリブランドされ、グローバルイベントとしての存在感を高めています。

今回の開催地バンクーバーは、北米でも成長著しいテック都市で、約1万社の企業が集積。都市と自然が融合した環境は、新しい発想を育む場として理想的でした。次回は2026年5月11日〜14日に開催予定です。

 

注目セッション

1. AI開発の課題と未来

AI分野では、リソース不足とカスタマイズ需要が大きなテーマとして浮上しました。

  • リソース制約:AIは膨大な電力と冷却設備を必要とし、地域によっては利用格差が生じる懸念があります。
  • ソブリンAIの台頭:各国・企業が独自データを活用した専用モデルを求めていますが、コストやセキュリティが課題です。

 

公開モデルと専用モデルを組み合わせた「ハイブリッド型」の普及が予測され、ユーザーが柔軟にカスタマイズできる仕組みが成長の鍵になると示されました。

2. 量子コンピューティング

AWS、IBM、D-Wave Systems らが登壇し、量子コンピューティングの進展を紹介しました。最適化分野での実証が進んでおり、非専門企業によるPoCも始まっています。AIとの組み合わせによって因果推論や探索領域での課題解決が期待され、今後は小規模でも早期に試行を進めることが重要とされました。

3. 医療とヘルステック

医療関連のパネルでは、AIによる超早期診断やゲノム解析基盤の活用、デジタルセラピューティクスの展望が語られました。

一方で、データ共有の遅れや法的責任の不明確さが依然として課題。将来的には「治療中心」から「健康維持中心」へとリソース配分をシフトし、デジタルツインによる予測的・継続的な健康支援の実現が見込まれています。

4. サステナブル・モビリティ

電動航空機を開発する Beyond Aero は、水素燃料電池を搭載した試験機を公開。6人乗り機体での商用化を目指しています。

また、バッテリースタートアップはシリコン系材料を用いた次世代リチウムイオン電池を発表。既存工場ラインで生産可能で、エネルギー密度・充電速度・寿命を飛躍的に改善する技術として注目を集めました。

会場の雰囲気

会場入口には参加者が投票できる大型パネルが設置され、「AIの活用分野」ではヘルスケアが最多票を獲得。AI倫理やバイアスへの懸念も多くの来場者が共有しており、期待と慎重さが同居していることがうかがえました。

展示エリアには1日あたり300社以上のスタートアップが出展し、日替わりで入れ替わる形式。ブリティッシュコロンビア州のブースでは「自然とテクノロジーの融合」、Climate Innovation Zone では環境課題が取り上げられ、いずれも立ち見が出るほどの盛況でした。

ピッチイベント

Web Summit恒例のピッチには、事前応募1,000社超から選抜された20社が登壇。会期中に予選を経て、最終日のメインステージには3社が進出しました。

GlüxKind(グルックスカインド)

2020年にバンクーバーで設立されたスタートアップで、AIを搭載したスマート・ベビーカーを開発。自動走行やブレーキ補助により安全性を高めるほか、ベビーカーを揺らして赤ちゃんを寝かしつける機能も備えています。実際に開発者が育児経験から着想を得て立ち上げた企業であり、予約販売も開始済み。CESイノベーション賞やAWSのAIピッチコンテストでも受賞歴があり、注目を集めています。

Lite-1(ライトワン)

2021年にバンクーバーで設立。微生物発酵を利用して、環境負荷の少ないバイオ色素を提供しています。従来、色素は鉱物抽出や化学合成が主流でしたが、Lite-1は廃棄物を原料にし、発酵を通じてクリーンな染料を生産。繊維産業を皮切りに幅広い応用が期待されています。研究機関との連携を通じてカラーバリエーションや生産スケールの拡大にも取り組んでいます。

VodaSafe(ボーダセーフ)

2014年に設立されたスタートアップで、AI搭載の水中ソナー「AQUA」を開発。ライフガード経験を持つ創業者の発想から生まれ、救助者・被救助者双方のリスクを減らすソリューションです。すでに米国ネイビーシールズやインドネシア国家捜索救助庁など50か国以上で導入実績があり、日本でも調達が進んでいます。水難事故の救助を迅速化するだけでなく、安全を高める技術として、山岳事故や救助が増える国内でも同様の技術の需要は増える可能性があるのではないでしょうか。

今回の決勝3社はすべてに女性の共同創業者が在籍しており、これは大会史上初の出来事でした。優勝は Lite-1。持続可能性と社会的インパクトが高く評価されました。一方で観客投票では VodaSafe が最多票を獲得しており、課題と解決策が分かりやすいプロダクトの強みが際立っていました。

注目スタートアップ

会場を歩く中で、特に印象に残ったスタートアップをいくつかご紹介します。

Bonding AI(米国、2024年設立)

より多くの企業がLLMを活用できるよう、軽量かつ高い透明性を持つ応答モデル「xLLM」を開発。事前学習不要でCPUでも動作し、回答には根拠を明示するためハルシネーションが少ないのが特徴です。さらにオンプレや自社環境に直接デプロイできるため、独自モデルを社内で安全に運用可能。CRMとの統合事例も進んでおり、営業やカスタマーサポート領域での活用が期待されています。

noBGP(米国・パロアルト、2024年設立)

クラウド間ネットワークの自動化サービスを提供。各クラウドにエージェントを設置するだけで、VPNやBGPの煩雑な設定なしにゼロトラストで通信を実現します。CIDR重複を許容する柔軟な仮想ネットワークやTerraform対応により、複雑化するマルチクラウド環境の運用を大幅に簡素化。創業者はネットワーク業界で豊富な経験を持ち、すでにクラウドネイティブ企業での導入も進んでいます。

ATLAS POWER TECHNOLOGIES(カナダ、2016年設立)

独自のドライ電極製造プロセスを活用し、環境負荷を低減した高性能スーパーキャパシタを開発。AIデータセンター横での電源ユニットや再エネと組み合わせた電力グリッド化に利用可能です。35件以上の特許を保有し、テキサスやオーストラリアの電力会社との事例も進行中。

Variational AI(カナダ、2019年設立)

創薬向けの生成AIを提供。疾患をターゲットに、新しい化合物構造を直接生成できるのが特徴です。活性ヒット率は50%以上、合成成功率は90%以上と高く、初期探索の時間を大幅に短縮。カナダ大手製薬企業と共同検証を進めており、バイオベンチャーや大学研究機関からの注目も集めています。

Molecular You(カナダ、2014年設立)

血液検査で250以上のバイオマーカーを測定し、AIを用いて疾患リスク予測や健康スコア、ライフスタイル改善アドバイスを提供。米国でサービスを拡大中で、継続検査を行ったユーザーでは健康リスクが大幅に改善したという結果も報告されています。日本市場でも展開可能性が見込まれています。

Sojitz-Tech Innovation USA 注目ポイント

Web Summit Vancouver 2025は、AI・量子・ヘルスケア・クライメート分野の最前線を体感できるイベントとなりました。AI開発の資源制約や倫理的課題、健康維持へのシフト、サステナブル技術の台頭 など、多様なテーマが交錯しつつ、実装に向けた具体的な方向性が示されました。
今後はハイブリッドなAI活用や小規模PoCの積み重ねが、テクノロジーの社会実装を加速させる鍵となりそうです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
STech I USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Ryuki Kazami

2018年に日商エレクトロニクス(現・双日テックイノベーション)へ入社。 通信事業者およびデータセンター事業者を中心に、ネットワークをはじめとするサービスインフラに関わる営業に7年間従事。IP・OTNといったネットワーク領域に加え、コンピューティング(データ基盤、デジタルワークプレース)やアプリケーション(RPA等)まで幅広い提案・導入を経験。 2025年より、米国Sojitz Tech-Innovation USAにマーケティング兼事業開発マネージャーとして赴任。 ネットワーク分野を中心とした技術トレンドの調査および周辺分野を含む通信事業者向けの新規ソリューション開発を担当。

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