シリコンバレーテクノロジー 2026.02.03

FYUZ 2025 in Dublin フィードバックウェビナー

2025年11月にアイルランド・ダブリンで開催された通信インフラ分野の国際カンファレンス「FYUZ 2025」。本記事では、現地参加を通じて見えてきた通信業界の最新トレンドや技術的論点、注目スタートアップの動向について、ウェビナーで共有した内容をもとに整理します。AIとオープン化が進む中で、通信事業がどこへ向かおうとしているのか、その全体像をお伝えします。

 

本セッションでは「FYUZ 2025 フィードバックウェビナー」として、イベント概要、会場の様子、本編で議論された主要トピック、そして注目ベンダーについてお話ししました。通信インフラの将来像を考える上で重要な論点が多く提示されたイベントだったと感じています。

イベント概要

FYUZはTelecom Infra Project(TIP)が主催する、テレコムインフラ領域の年次カンファレンスです。2025年は11月3日から5日まで、アイルランド・ダブリンのThe Convention Centre Dublinで開催され、通信事業者を中心に、オープンネットワーキング技術を推進する企業や研究機関など約1,000名弱が参加しました。

ダブリンは、米国主要テック企業のEMEA拠点やR&Dセンターが集まる都市です。その周辺地域は「シリコンドックス」と呼ばれ、ITだけでなくテック企業も多く集まり、エコシステムを形成しています。こうした土壌からは、FinTechのWayflyerやデータセキュリティのEvervaultなど、有力スタートアップも数多く生まれています。

英語圏であり、米国にも近いEU地域という地政学的な優位性から、今回の参加者も欧米中心でした。次回FYUZは2026年11月に米国シアトルで開催予定で、日本からも参加しやすいロケーションとなります。

TIPは通信インフラ分野のグローバル協働コミュニティで、ネットワークのオープン化や自動化を軸に次世代通信技術や事業戦略を議論しています。2026年に向けたProject Groupでは、Open RANやOOPT、Telco AIに加え、Video QoE Management(VQE)といった領域が中心テーマとなっています。

会場の様子

会場1階のホールにはエキスポエリアが設けられ、TIP関連の合同ブースやベンダー、研究機関の展示が並びました。出展数は20弱と比較的コンパクトでしたが、セッション時間中は来場者が分散し、落ち着いて各ブースを回れる雰囲気でした。

セッションはメインステージに加え、3階のブレイクアウトルームでも同時並行で実施されていました。企業が部屋を貸し切って行うセッションもあり、Ericssonによるディスカッションイベントなども印象に残っています。

エキスポ内には立ち止まって聴講できる小規模セッションスペースもあり、アイルランドの5G事情やスタートアップピッチなどが行われていました。司会進行を務めたTIPのグローバルヘッドオブエンゲージメントであるVishal氏の分かりやすい整理もあり、全体の流れを追いやすいイベントでした。

本編フィードバック

通信事業の将来ネットワーク像

FYUZ 2025を通じて浮かび上がった通信事業者の将来ネットワーク像は、大きく「Programmability」「AI-Nativity」「Openness & Collaboration」の3点に整理できます。ネットワークを静的な構成物ではなく、動的に再構成可能なシステムとして捉え直す流れが明確でした。

通信事業へのAI活用

AI活用は単なる運用支援の段階を超え、ネットワーク設計思想そのものをAI前提で再構築する「AI Native Operator」への転換が議論されていました。説明可能性やガバナンス、持続可能性を設計段階から織り込み、トポロジ設計やリソース管理、障害検知までAIが制御する世界観が示されました。

Elisaに見るAIネイティブ運用の実例

フィンランドの通信事業者Elisaは、AIネイティブオペレーターの代表的事例として紹介されました。デジタルツイン基盤「EDM」によりIPとトランスポートネットワークを仮想空間で再現し、構成変更や障害対応を事前にシミュレーションしています。

ネットワーク展開やソフトウェアアップグレードはZero Touchで自動化され、一次対応業務は100%自動化、アラートの93%を予兆段階で検知・対処しています。Human-in-the-loop設計を採用しつつ、将来的には自己修復型ネットワークへの進化を目指している点が印象的でした。

オープン技術の活用とNetwork API

オープン技術の文脈では、API標準化は順調に進んでいる一方で、課題は「技術そのものではない」という認識が共有されました。事業者ごとの実装差分が再現性を失わせ、エコシステム拡大の障壁になっているという指摘です。

「Lose the dogma, think about the customer(ドグマを捨て、顧客視点に立て)」というメッセージの通り、Network APIは開発者向けツールではなく、ネットワークを中心とした経済のインターフェースとして再定義されるべきだと語られていました。

OpticalとIPの融合

OpticalとIPの融合は、デジタルツインを前提とした自動化の議論として展開されました。GNPyによる光物理特性の標準モデル化と、OTDRやBERといったテレメトリを組み合わせることで、光レイヤの可視化と事前保証が可能になりつつあります。

L0からL3までのテレメトリを統合し、IPとOpticalを横断した自律ループを構築することで、境界が消えた自己最適・自己修復型ネットワークの実現が現実味を帯びてきていると感じました。

相互協調モデルが直面する課題

標準APIを採用していても、ベンダー間やバージョン間の非互換性が自動化を阻む課題として挙げられました。これに対する解決アプローチとして、LLMとマルチエージェントを活用し、API差分を動的に吸収する「APIメディエーション層」の考え方が紹介されました。

次世代通信:6GとNTN

6GはAIが中核となるAIネイティブネットワークとして構想されており、制御や最適化、周波数管理までAI主導で行われます。NTN(衛星通信)も地上ネットワークと統合され、Direct-to-Deviceやマルチ衛星制御によるシームレス接続が実現していく方向性が示されました。

アイルランドにおけるPrivate 5Gの実践例

アイルランドのRosslare Europortでは、Brexit後の貨物量増加を背景にPrivate 5Gを中核とした「Smart Port」を構築しています。5Gルーター搭載車両にOCRや車載AI、GPSを組み合わせ、港全体をデジタル化しました。

処理能力30%向上、可視化100%を達成し、フェリー会社や運送会社、税関などとデータ連携する共同基盤として機能しています。Private 5Gは通信ではなく、業務変革のドライバーであることが強く印象づけられました。

ピックアップベンダー

FYUZ内のAcceleration Stage Sessionでは、通信事業者との連携を前提としたAIスタートアップ5社が登壇しました。いずれも商用展開フェーズにあり、Telco実装を強く意識した内容でした。

Gcore

GPUaaSとグローバルCDNを組み合わせたAIインフラ基盤を提供し、通信事業者が自社ブランドでGPUクラウドを展開する際の中核になり得る存在として紹介されました。

Personal AI

企業のプライベートデータを学習したAIペルソナを構築するプラットフォームです。SLMを活用し、通信規制やデータ主権に配慮した形で、回線単位のAIアシスタント提供が可能になります。

Aible

ビジネスユーザー自身がAIエージェントを構築できる生成AI拡張アナリティクス基盤です。ネットワーク運用や顧客対応など、Telco内部業務の高度化に適したアプローチが示されました。

Centific

AIデータファウンドリーとして、データ評価や品質検証を担う基盤を提供します。安全性やコンプライアンスが重視される通信事業において、裏方インフラとして重要な役割を果たします。

Varnish Software

高性能キャッシュとCDNを軸に、生成AIを活用した観測・最適化エンジンを展開しています。AI基盤におけるデータ流通効率化という観点で注目されました。

Sojitz-Tech Innovation USA 注目ポイント

FYUZ 2025では、通信ネットワークが「動的・自律的・AI前提」へと進化していく方向性が明確に示されました。オープン化が進んだ先で、実装差分や非互換性をどう吸収するかが競争力になる点は、実務的にも重要な示唆です。

また、6GやPrivate 5Gの事例からは、通信が業務変革や新たな収益創出の基盤へと役割を拡張していることが見て取れました。小さく試し、動かしながら広げていく姿勢が、今後ますます重要になっていくと感じています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Ryuki Kazami

2018年に日商エレクトロニクス(現・双日テックイノベーション)へ入社。 通信事業者およびデータセンター事業者を中心に、ネットワークをはじめとするサービスインフラに関わる営業に7年間従事。IP・OTNといったネットワーク領域に加え、コンピューティング(データ基盤、デジタルワークプレース)やアプリケーション(RPA等)まで幅広い提案・導入を経験。 2025年より、米国Sojitz Tech-Innovation USAにマーケティング兼事業開発マネージャーとして赴任。 ネットワーク分野を中心とした技術トレンドの調査および周辺分野を含む通信事業者向けの新規ソリューション開発を担当。

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