年明けにラスベガスで開催された「CES 2026」を振り返りながら、AIが前提となる時代に企業の経営・事業・組織がどう変わっていくのかを整理しました。本記事では、会場で見えたトレンドやキーノートの要点を、現場の視点で分かりやすくまとめています。
家電中心のイベントというイメージが強いCESですが、近年はB2B色が濃くなり、AIを軸にした産業変革の示唆が増えています。
登壇者紹介
登壇者は3名です。それぞれの視点を持ち寄り、CESの潮流を多角的に整理しました。
- 榎本:2010年からCESを定期的に観測し、長期トレンドの変化を整理する役割を担う
- 船越:CESは2025年から参加し2年連続で現地参加、会場の「実装フェーズ感」を現場目線で共有する
- 新田:今年初参加として、参加者視点での気づきやポイントを補足する
CES2026 振り返り
榎本からは、2010年以降のCESの変遷を踏まえつつ、近年のB2B化の流れが強まっていることが共有されました。パソコン・スマホ・ガジェット中心だった時代から、非IT企業がDXを発信する場へと変化、コロナ禍前後からモビリティやサステナビリティ、AIを前提とした産業変革へ議論が中心が移りつつあります。
会場規模も非常に大きく、ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)やベネチアンエキスポなど複数会場に分かれて展開されました。全体で約260万平方フィート規模とされ、移動だけでも一苦労なスケール感です。
CES 2026のテーマは「Innovators Show Up」。単に技術を並べるのではなく、イノベーターが集い、社会課題や実装を前提に「行動する」というメッセージが打ち出されていました。
CTAが示す3つのキートレンド
主催するCTAは、毎年Key Trendを示しています。少し前の2023年では、Transportation/Mobility、Digital Health,Sustainable Technology、Web3/Metaverseのようなテクノロジーカットでの流れが続いていました。今年は課題解決、社会課題をどのように見ていくのかという視点で、生成AIの熱狂から「実装していくフェーズ」へ移行した印象や健康長寿化、未来を支える基盤技術という大きく3つに集約されました。社会課題と結びついた形で語られる場面が増えています。
- Intelligent Transformation:DXの先にAIが入り、実装・運用のフェーズへ移行する流れである
- Longevity:デジタルヘルスやスマートリビングを中心に、健康長寿の文脈で再整理される
- Engineering Tomorrow:未来の基盤を支えるインフラや裏側のテクノロジーが焦点になる
会場で感じた「実装フェーズ」
船越からは、会場にロボティクスが溢れ「動くものが当たり前になった」という実感が共有されました。一方で、すごいものと「とりあえず作りました」の二極化も見られ、実用につながるユースケースの見極めが重要だという論点も挙がりました。
Eureka Parkとスタートアップの存在感
スタートアップ集結エリア「Eureka Park」には約1400社が出展し、日本からも31社が参加しました。日本企業も複数社がアワードを獲得する一方、イノベーションアワード全体では韓国勢の存在感が非常に大きく、国家戦略としての推進力が印象的だったという話が出ました。
- 日本はジェトロ支援などで存在感を出しているが、韓国はトップダウン型でスピードと投資が際立つ
- 韓国では大学段階から起業支援やプレゼン・ビジネスモデル支援が組み込まれている
- アワード獲得数や展示スペースでも、国家としてのコミットが見えやすい
CES FoundryとNVIDIAの影響力
今年から拡張された「CES Foundry」では、AIと量子コンピューティングがテーマとして掲げられました。特にNVIDIAの存在感が強く、展示やセッションを通じて「社会インフラにAIを統合していく」方向性が色濃く示されていました。
量子コンピューティングについても、新薬のシミュレーションや電力グリッドなど、ユースケースの「形」が見え始めてきたという印象が共有されています。
ヘルスケアとモビリティの融合
ヘルスケア領域では、Big Techの参入が加速しているという話がありました。さらにUber Healthの動きにも触れられ、通院の「来院率」を上げるために移動手段を病院側が手配するなど、モビリティとヘルスケアが横断的に結びついている点が特徴として挙げられました。
- 治療から予防、予測へと重心が移り、バイタルや血糖値の計測が一般化する流れである
- Oura Ringと血糖値計測の連携など、複数データを組み合わせ精度を上げる動きがある
- 顔面血流パターンから血圧を推定するなど、短時間計測の進化が見られる
モビリティは「働く車」とレベル4へ
モビリティでは、乗用車中心から「働く車」へと注目が移っているという話がありました。また、ドライバー不要のレベル4相当のロボタクシーとして、WaymoやZooxの動きも共有されました。実際にWaymoに乗車した体験も紹介され、都市部の複雑な環境でも安定して走行している様子が印象として語られました。
Physical AI
キーノートの中心は、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが語った「フィジカルAI」の流れでした。AIが普及することで、アプリケーション、開発手法、インフラまで含めたプラットフォームが「リセット」されるという主張が提示されました。
AIは画面内から物理世界へ
従来のAIが「画面内の知能」だったのに対し、フィジカルAIはセンサーによる視覚・触覚を入力に、アクチュエーターで物理動作に変換し、ループとして回していく世界観です。ルールベースの制御ではなく、環境を見て学習しながら動く方向へ進む点がポイントとして語られました。
デジタルツインで「物理世界」を学習する
物理世界は摩擦や重力など不確実性が大きく、学習の難易度が高い領域です。ここに対し、デジタルツイン上で学習・検証を回すことで、学習スピードを上げるアプローチが強調されました。現実空間で大量のロボットを動かして学習する時代から、シミュレーション中心の時代へ寄っていく流れが見えます。
自動運転はフィジカルAIの先行領域
フィジカルAIが最も進んでいる領域の一つとして自動運転が挙げられました。NVIDIAは、自社で車を作るのではなく、OEM向けにプラットフォームやモデルを提供する戦略を進めているという整理も共有されています。
産業領域の実装例
シーメンスやキャタピラーの事例は「実装していく」温度感を示す例として取り上げられました。シミュレーションに留まらず、設計から製造・運用までをループで回し、成果につなげる動きが語られています。
- シーメンス:自らの知見を入れたデジタルツインを基盤に、製品・工場の検証から実行までつなげる方向である
- キャタピラー:現場の重要タスクを起点に、Industrial AIを現場で実用化。対話型AIやネットワーク制約のある現場におけるEdge AIによるリアルタイム支援を加速させる
経営や事業に直結する3つの不可逆トレンド
議論の後半では、AIが「IT投資の一つ」ではなく、企業運営そのものを規定する「経営のOS」に近い存在になる、という問題提起が共有されました。導入の有無ではなく、AI前提で業務を設計し直すことが競争力に直結していくという整理です。
1. AIはツールではなく経営のOSになる
従来のIT投資は既存の業務基盤の上に載せる発想でしたが、AIは意思決定やアクションまで関わるため、会社の動きそのものを変えていきます。その結果、情報システム部門だけの話ではなく、CEOや事業責任者が責任を持って設計する領域になるという指摘がありました。
2. データは「貯める資産」から「流れる意思決定」へ
データを蓄積し分析して会議で決めるという流れから、AIがリアルタイムに実行までつなげる流れへ移行します。止めずに回すための設計が難所になり、製造業の例を取れば、設計・製造・運用を一気通貫で回すような業務のループ設計が重要になる という観点が共有されました。
3. 勝敗を分けるのは「業界×AIの統合度」
汎用AIは誰でも使える時代になり、差別化要素になりにくくなります。勝敗を分けるのは、自社・自業界の業務にどのようにAIを組み込み、運用として回せるかという点であり、キャタピラーのように「AI導入」ではなく「業務再設計」が戦略になる、という話が印象として語られました。
リアルタイム化のユースケース例
リアルタイム化が先行しやすい領域として、マーケティング・セールス、そして通信業界の障害予兆などが挙げられました。AI前提で業務を設計することで、人の手を介さずに実行まで進める余地が大きい領域として整理されています。
- マーケティング〜セールス:ルール運用をAIが裏切らず実行し、反応速度を上げられる領域である
- 通信業界:障害予兆などリアルタイム性が強く求められ、AIの価値が出やすい領域である
- 金融:不正検知など、即時判断が重要な領域で活用余地が大きい
Sojitz-Tech Innovation USA 注目ポイント
CES 2026は、生成AIの次の章として「フィジカルAI」と「業務実装」のフェーズに入ったことを示す場でした。汎用AIでは差がつきにくい時代に、企業が競争力を持つ鍵は、自社の業務と意思決定をAI前提で再設計し、リアルタイムに回す仕組みを作れるかにあります。
ロボティクスや自動運転のような「動くAI」は分かりやすい象徴ですが、同時に、ネットワークやセキュリティ、ガバナンスを含めた設計が不可欠です。経営・事業責任者が主語となって、AIを運用として組み込むことが、これからの変革の出発点になっていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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