大きな変化が求められている業界の1つである小売業にとって、スタートアップのテクノロジーを駆使して新たなビジネスを創出すること、または既存ビジネスの質を向上させることは今後生き残るためには非常に重要になってきます。今回は小売業界のビジネスを支え加速させることに繋がるような米国のスタートアップ5社をピックアップしてお届けします。
今回の5社をピックアップしたポイントは日本の小売業が抱えている問題の解決に繋がりそうなもの、また実店舗ならではの価値を向上させることに繋がる可能性を秘めているソリューションであるという2点となります。
パラレルリアリティの世界を実現したMisapplied Science
<会社概要>
設立年:2014年
所在地:Redmond, Washington
従業員:約10名
創設者:Albert Ng(CEO)
資金調達:$11M(2020年2月現在)、シリーズA
VC:Pelion Venture Partners、Small Business Innovation Research Awards、Pelion Venture Partners
URL:https://www.misappliedsciences.com/
Misapplied Science社が提供するパラレルリアリティは、CES2020でデルタ航空がキーノートで紹介したことで今世界中から注目を集めています。同社が提供するのは、ディスプレイで映し出す映像をユーザー毎にパーソナライズ化させるテクノロジーです。「ディスプレイは1つ、しかしユーザー側から見えている映像はそれぞれ違う」という状態を、特別なゴーグルなどは必要なく肉眼で実現しました。
たとえば空港内のフライト時間が表示される電光掲示板で、乗客毎に登場予定のフライト時間や搭乗ゲートを表示したりすることが可能です。仕組みとしてはカメラセンサーとAI技術を活用して乗客を認識させています。CES2020のデモブースでは搭乗チケットをカメラが認識することで、乗客毎にパーソナライズ化させた情報を投影するということを実施しました。小売店でパラレルリアリティのディスプレイを活用し、ユーザー毎にお勧めサービスやキャンペーンを案内することで顧客満足度を向上させるなど、小売業界ならではの様々な活用方法があるのではないでしょうか。
パーソナライズ化されたディスプレイのイメージ、ユーザー毎に投影される映像が異なる(Misapplied Science社ウェブサイトより転載)
小売業界の新たなコラボレーションツールRetail Zipline
<会社概要>
設立年:Retail Zipline
所在地:San Francisco, California
従業員:約40名
創設者:Melissa Wong(Co-Founder&CEO)
資金調達:$9.6M(2020年2月現在)、シリーズA
VC:Emergence Capital Partners、Serene Ventures、Alchemist Accelerator
URL:https://www.retailzipline.com/
小売業界向けに特化したコミュニケーションツールを提供。従来のメールなどのコミュニケーションでは本社側からの指示が店舗側の従業員まで行き届くのに時間がかかる、または正確に伝わっていないという課題に着目。その課題を解決するために従業員全員が同じプラットフォーム上でコミュニケーションできるツールを開発しました。メッセージ、ファイル共有、タスク管理、アンケート結果の共有など、小売業で必要となる機能を1つのプラットフォームに集約して提供します。既に米国ではLEGO、LUSHなどで導入されており、情報共有にかかっていた時間を60%削減できたというケースも出てきているようです。
働き方を大きく変えたというRetail ZiplineのユーザーであるGapのメッセージ(Retail Zipline ウェブサイトより転載)
ローカルコーヒーショップ向けアプリを提供するCloosiv
<会社概要>
設立年:Cloosiv
所在地:Charlotte, North Carolina
従業員:約5名
創設者:Tim Griffin(Founder&CEO)
資金調達:$1M(2020年2月現在)、シード
VC:Y Combinator、Angel Investor
コーヒーショップでのドリンクオーダーに手間と時間がかかっている課題に着目。スターバックスなどの大手コーヒーショップではモバイルアプリを活用したオーダー方法を提供しているが、ローカルで店舗数も限られているコーヒーショップでは自前でアプリ開発までは手が回りません。Cloosivはそのようなローカルコーヒーショップ向けに特化したモバイルオーダーアプリを提供しています。コーヒーショップはCloosivのアプリへ登録をすれば自社開発を必要とせず、モバイルオーダーを受け付けることが可能。ユーザー側もCloosivアプリを活用すれば近場のローカルコーヒーショップを見つけて簡単にオーダーをすることができ、両者にとって利便性の向上が実現できます。
Cloosivアプリからオーダーができるローカルコーヒーショップ
2020年夏に日本へ進出、最新ガジェットショールームb8ta
<会社概要>
設立年:2015年
所在地:San Francisco, California
従業員:約100名
創設者:Vibhu Norby(Co-Founder&CEO)
資金調達:$91M(2020年2月現在)、シリーズC
VC:Khosla Ventures、Plug and Play Tech Center、Evolution VC Partners etc
b8taが提供するサービスは最新ガジェットを展示するショールーム。その強みは最新ガジェットを展示するだけではなく、b8taを訪れたユーザーの行動を分析してガジェット販売者に分析データを提供する点です。ユーザーはb8taを訪れれば最新のガジェットに触れ購入できる一方、店舗側はユーザーの行動を分析するテストマーケティングの場として活用できます。両者にとって有益な場となるショールームです。日本展開は2020年6月に新宿マルイ本館と有楽町電気ビルでそれぞれ100区画を超える展示スペースを用意する予定です。
b8taパロアルト店内の様子
自動決済システムを提供するZippin
<会社概要>
設立年:2018年
所在地:San Francisco, California
従業員:約10名
創設者:Krishna Motukuri(Founder&CEO)
資金調達:$12M(2020年2月現在)、シリーズA
VC:Evolv Ventures、Scrum Ventures、Nomura Research Institute、NTT DOCOMO Ventures etc
URL:https://www.getzippin.com/
レジなし店舗スタートアップのZippin。自動決済を行うためのソフトウェアをサブスクリプションで提供するビジネスモデルです。シリコンバレーでは様々なレジなし店舗スタートアップが誕生していますが、Zippinの強みは製品の完成度の高さです。実証実験の店舗で様々なものを取って戻したりと複雑な動きを行なった後でそのまま店舗から出てみたところ、正確な決済でアプリですぐにレシートも確認することができました。他のスタートアップ実証実験店舗で同じようなことを行なった場合、レシートが確認できるのに20分ほど時間がかかり、複雑な動きに対しての処理にはまだ時間がかかることが見受けられました。日本のコンビニなどでは米国よりもより狭いスペースで数多くの製品を販売しているため、本格的な導入には少し時間がかかりそうという印象を持ちましたが、レジなし店舗はその利便性の高さから近い将来一般的になっているのではないでしょうか。Zippinはサンフランシスコの実証実験店舗で誰でも体感可能となっています。
サンフランシスコにあるZippin実証実験店舗
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まとめ
変化が求められる小売業界では様々なスタートアップが日々誕生しています。ECサイトの誕生でいつでも簡単に物が購入でき、数日で自宅まで届けてくれるサービスが普及した時代に求められる新たなサービスは何か。その答えのヒントになるのはスタートアップのアイディアです。スタートアップは常に何かの課題を解決するために誕生しており、その課題をどのように解決するか日々奮闘しています。なぜそのスタートアップは誕生したのか、創業者のアイディアはどのようなものか、深く考えを巡らせることで新たな課題を発見し、その課題を解決するための方法を模索し、結果的に新たなビジネスが産まれてくるのではないでしょうか。弊社では日々そのような意識でスタートアップを調査しています。今回ご紹介した5社以外でも様々な小売業界のスタートアップを調査しております。ぜひご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
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