「CES2019にみる自動運転技術がもたらす生活空間革命」でもお伝えした通り、先日アメリカ・ラスベガスでは、世界最大級の家電見本市として知られるCES(Consumer Electronics Show)が行われました。メディアはイベントで発表された商品やテクノロジーを取り上げ、CESの話題で持ちきりでした。
特にXRと呼ばれる、VR、AR、MR(複合現実)を総称した分野は近年注目度が上がっており、フットコントローラー付きのPlayStation VRのようなエンターテインメント製品をはじめ、8K高画質のVR/AR用ヘッドセットなどの最新技術を用いた製品も多数発表されました。
ゴールドマンサックスの調査によると、XR業界は2025年までに80兆円規模の市場価値を生み出すと予測されており、様々な投資家からの注目が集まっています。
この中でもより積極的な投資を行っている業界の1つが金融です。Citibankをはじめ、各国の大手銀行たちがXR技術を業界に取り入れていこうとしているのです。そこで今回は、金融業界で導入され始めているXR技術活用のトレンドを実例と共に紹介していきます。
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<投資 x XR事例>
1. MR株式取引システム(Citi HoloLens Holographic Workstation、Citibank)
Citibankで有名なCitiグループは、Microsoftが提供しているMR用ヘッドセットのHoloLensを利用した株式取引システムを発表しています。ユーザーはヘッドセットを装着することで、そこに浮かび上がる最新の株価情報や取引データなどを閲覧することができます。さらに声やジェスチャーで株式取引も可能です。
株式取引にMR技術を利用する利点としてまず挙げられるのが、タブレットやPCなどのスクリーンの範囲に限定せず大量のデータを一度に表示することが可能な点です。また、画面覗き見による金融取引の内容を第三者に見られる心配がないということも重要な利点の1つとなっているようです。
(HoloLensを使ったホログラムのワークステーションの様子)
2. 投資バーチャルエージェント(Cora、Fidelity Labs)
アメリカ・ボストンに拠点を置き、金融分野でのイノベーションを牽引する製品開発に取り組むFidelity Labsは、株式バーチャルエージェントのCoraを開発しています。CoraはVR/AR/3D開発用のAmazonAWSの新サービスAmazon Sumerianを利用して開発されています。
ユーザーはVRで表示されるバーチャルエージェントのCoraに対して、投資に関する質問や相談を音声で行うことができます。現状、この製品はコンセプト検証中のプロトタイプ段階にあるそうですが、実用化されればトレーダーが投資判断する際の強力なサポーターとなり、株式データのオーバーロードを回避できるようなメリットもあると言われています。
3. AR不動産投資サポート(Commonwealth bank of Australia)
Commonwealth bank of Australiaはアメリカ、アジア、イギリスでも金融サービスを提供するオーストラリアの銀行です。同社は不動産購入を検討していたり、不動産投資を行う層向けにARを用いた不動産投資サポートアプリケーションを提供しています。
このアプリを起動してから、街で見かけた住宅に携帯をかざすと、住宅の価格変動や購買履歴などの情報が画面を通して見られるようになります。資本成長傾向やその他の金融メトリックスを確認することも可能になるので、ユーザーの不動産売買の判断を手軽な形でサポートしてくれます。
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<決済 x XR事例>
1. オンラインショッピング決済(Mastercard, Alibaba, and Payscout)
決済までのオンラインショッピング体験を提供できるVRシステムの開発が進められていることが、MastercardやAlibaba、Payscoutなど各社から発表され始めています。
Alibabaは、ヘッドセットを装着して仮想現実の店舗へ入り込み、気に入った商品を選んでそのまま購入することができるVRシステムの開発を、2016年後半に発表しました。あまり詳細は明らかにされていませんが、Amazonも同様のサービスを開発し始めていると報告されています。
このようなVRと決済技術の分野においては、ゲーム業界への活用が大きな注目を集めています。ユーザーがVRの世界でゲームを楽しんでいる際に、現実世界に戻らずシームレスにゲーム内課金を促せるためです。GoogleCardboardヘッドセットを装着して遊ぶVRゲームのPayscoutは、まさにその1つで、VR内での支払い機能をすでに実装させています。
2. 実店舗ショッピングのVR決済(Worldpay)
VRを用いた支払いはオンラインに限らず、実店舗に向けたものも開発され始めています。ペイメントテクノロジー企業のWorldpayは、店舗でのクレジットカード支払いのためのPIN入力をVRで行うことができるAirPinの技術を開発しています。
AirPinのVRによる決済は、ユーザーがVRヘッドセットを装着して決済処理に必要なPINの入力を行います。VR空間で、使用するカード情報を選択し、ランダムに並んだ数字から視線を使ってPINを入力する仕組みです。ヘッドセットを使った操作なので、他人からカード情報やPIN入力を覗かれてしまう心配がないため、防犯性に優れています。
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3. ARによるクレジットカード情報管理(Yepper)
あらゆる業界におけるARの利用実現に取り組むインドのスタートアップYepperでは、クレジットカードの情報管理をARで行える仕組みを開発中です。
クレジットカードをスマートフォンカメラでスキャンすると、そのクレジットカードの使用履歴や利用可能残高などがARとして表示されるというものです。クレジットカードの利用管理を手軽にできるようなることが期待されます。
<銀行 x XR事例>
銀行ATMサーチサービス(National Bank Of Oman & Royal Bank of Canada)
National Bank Of OmanやRoyal Bank of Canadaといった銀行では、自社ATMの所在地をARで表示することができるというサービスを展開しています。
National Bank Of Omanのアプリでは、同銀行の口座を持たないユーザーもアプリを利用できる仕組みになっており、ATM所在地の表示以外に、ショッピングモール等でのお買い得情報もARを介してユーザーに知らせてくれる機能も持ち合わせています。これによって新たなユーザーの取り込みも期待されています。
まとめ:金融 x XRの今後
以上のように、投資、日常の買い物にまつわる決済、銀行利用など様々なシーンでXR活用が始まっています。金融業界でのXR活用はアメリカに限らず、インドやオーストラリア、オマーンなど世界各地で活発に進められており、その投資もどんどん加速しています。
また、XR導入により金融業界がこれから急速に変化していくと言われてます。
身近なところでは、銀行実店舗が2009年の不況以降減り続けていますが(2017年6月までの1年間で1,700の銀行店舗が閉鎖)、今後銀行がVRを用いたバーチャル店舗体験に注力し、新たな価値を提供していくだろうと期待されています。ますます金融xXRの動向から目が離せなくなりそうです。
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参考記事
・Worldpay Demonstrates The Future Of Virtual Reality Payments