Facebookは2016年のF8カンファレンスでFacebook Messenger ボットを大々的に発表しました。Facebook Messenger ボットの他にも、Skype、Line、Kik、Telegramが同様のボットを発表しており、ボットへの注目度が急速に高まっています。
先日の記事、なぜ「ボット」は最も注目すべきトレンドなのか?でもご紹介したように、レストラン推薦、Eコマース、パーソナルアシスタントなどの様々なチャットボットが注目されています。ただ、まだまだチャットボットを使っている人は一部で、普及には時間がかかるでしょう。
チャットボットの中で、比較的早い段階で普及が見込まれるものの1つがカスタマーサポートです。2016年4月には、人工知能のカスタマーサポートプラットフォームを開発するDigitalGeniusが410万ドル(約4億円)を調達しました。今回はなぜカスタマーサポートとチャットボットが相性が良いかをご紹介します。
チャットボットによるカスタマーザポート photo by DigitalGenius
カスタマーサポートで普及が見込まれる理由
なぜカスタマーサポートで普及が見込まれるのでしょうか?実は、チャットボットは、まだまだ会話の精度は高くありません。チャットボットは人工知能を使って人間が書いたないようにを理解し、最適な返答をします。しかし、現状では、人間と自由に楽しく会話したり、人間が書いた内容をすべて正しく理解することは難しいです。これはいくつかチャットボットを試してみればすぐに分かります。
Facebookや、アメリカで若者に人気があるKik、高いセキュリティが特徴のTelegram、企業向けのSlackなど、世界中の有力チャットアプリの多くが、チャットボットのストアを公開しています。また、Lineもストアの開設を予定しているようです。しかし、まだまだ、ユーザーが本当に使いたいと思うチャットボットや利用シーンは少なく、日々使いなれたアプリやWebサービスを使うのをやめてチャットボットを使い始めることはあまり考えられません。チャットボットはすぐには普及しないと考えられます。それでは、なぜカスタマーサポートが、チャットボットの中で比較的早い段階で普及する可能性があるのでしょうか?
理由1. 利用シーンが限られている
まず、カスタマーサポートは、その企業の製品やサービスに対する問い合わせに答えるため、シーンが限られていることが挙げられます。チャットボットは、 自由になんでも話すものを作るのは大変です。例えば、友達と話すように、映画、スポーツ、知り合いの噂話などのするのは、会話パターンが複雑です。このため、利用シーンが限られており、会話の目的が明確で、会話がパターン化されているものの方が早く実用段階になります。
カスタマーサポートは、利用シーンと会話の目的が明確なため、チャットボットを作りやすいのです。 チャットボットを作ろうとすると、まず大変なのが、会話のパターンの洗い出しです。ユーザーが話す内容に応じて、ストーリーが分岐していきますが、これが膨大になると、チャットボットを作るのは大変な作業になります。カスタマーサポートはパターンが限られていることと、すでにマニュアルでパターンが洗い出されている場合が多いため、チャットボットを作りやすい特徴があります。
理由2. 答えが明確
次に、それぞれの会話自体の答えが明確であることが挙げられます。カスタマーサポートは、特定のサービスやユーザーの問題に対して、ほぼ間違いなく正しい答えというものが存在しています。問い合わせを行う人の特徴や嗜好に応じて、答えが変わることもあまりありません。このように、答えが明確で、個人の嗜好や特徴に依存しないため、チャットボットの開発の難度が他と比べて低いのが特徴です。
個人の嗜好や特徴に依存する例として、レストランの推薦ボットを考えてみましょう。今いる自分の近くのカフェを探したいと思った場合、人によって好みは様々です。人によっては静かなカフェで本を読みたい人、パソコンで作業するためコンセントと高速なインターネット接続を求める人、とにかく美味しいコーヒーが飲みたい人、ケーキも欲しい人など、そのぞれの人とシーンによって推薦すべきお店が変わってきます。 利用シーンは限られていたとしても、答えが人によって違うチャットボットは開発が難しく、多くの人が便利だと感じてくれるまで質を上げるのは大変です。
理由3.すでにカスタマーサポートに人工知能への導入の動きがある
カスタマーサポートを行う人のサポートツールとして、すでに人工知能が導入されています。IBMが開発している人工知能のWatsonは、みずほ銀行などのコールセンターでも導入されています。音声認識によって問い合わせ内容を自動的に入力したり、またはオペレーターが手動で打ち込むことで、問い合わせの回答の候補を表示することで、オペレーターの回答を手助けしています。
また、シリコンバレーのスタートアップのWise.ioは、過去の顧客からの問い合わせ対応とその結果を元に、人工知能を用いてどの問い合わせを誰が担当すべきか判断し、対応の優先順位をつけて自動的に割り振るツールを提供しています。このように、カスタマーサービスに人工知能を導入しようとする動きは広くあります。
現在はオペレータのサポートをしている人工知能が、将来的には顧客とのやりとりを直接するようになるというのは、現在の取り組みの延長線上にあります。
理由4. 企業のメリットが明確
カスタマーサポートの導入は、カスタマーサポートが人から、チャットボットに置き換わることで、自動化によるコストの削減という非常に分かりやすいメリットがあります。 現在、いろいろなチャットボットが開発されていますが、どうやって収益を上げるかは実はまだ手探りの状態です。さらに最もユーザーの多いFacebook Messangerは、広告を送るチャットボットは規約で禁止しています。
新しいプラットフォームをスパムや広告で汚さないためのルールですが、企業や開発者からすると開発のメリットが見えにくい状態です。カスタマーサポートは、開発のメリットが明確であるため、普及がしやすいのです。
理由5. 何度も同じやり取りを繰り返すため、データマイニングしやすい
チャットボットでは、蓄積した会話ログを分析・活用することで、チャットボット自体の精度を改善することが大切です。カスタマーサポートは、何度も同じような問い合わせがきます。他の会話のシーンと比べて、同じような会話を繰り返しています。会話ログを分析することで、カスタマーサポートの方法を改善したり、データマイニングが行うことがやりやすい分野です。
また、顧客は、丁寧に自分の問題を伝えたり、自分が抱える問題を正しく理解しているとは限りません。 簡単な例を考えると、「銀行の手数料を教えて欲しい」という質問が来た場合、曜日、同行間や他行、国際送金などの条件により大きく変わるため、一概に答えることはできません。 このような場合も膨大なログを分析すると、「銀行の手数料を教えて欲しい」と顧客が聞いている場合、どの条件に対してい聞いている可能性が高いかや、どのように返すのが最も顧客満足を高めることができるかを学んで改善することができます。
徐々に普及が期待される
カスタマーサポートは、このようにチャットボットと相性がいいのですが、すぐに人間にとって変わることはありません。これまで述べたように、チャットボットの精度を人間との会話で全く不自由しないようにするまで高めるのはかなり大変です。このため、チャットボットが人間の書いた内容を理解できない場合や、適切な返答を見つけられない場合には、人間が代わりに返答する仕組みが採用されています。今の技術ではこれが現実です。
カスタマーサポートに目を向けてみると、現在はオペレータの隣に人工知能がいて、人間をサポートしている段階です。これが、チャットボットが顧客と会話して、困った時にオペレータが手助けする仕組みに変わっていくでしょう。つまり、オペレータが後ろにいる状態に変わります。
そして、徐々にオペレータが手助けする量が減っていくと考えられます。このようにして、人間の業務がチャットボットに置き換わることが予想されます。
チャットボットの開発はアメリカが早い
これまで述べてきたように、チャットボットの中では、カスタマーサポートは早い時期に普及が見込まれるものの1つです。チャットボットを用いたカスタマーサポートの分野では、アメリカのサービスを追う必要があります。なぜなら、日本よりもアメリカの方が、カスタマーサポートが普及しやすい要因がいくつかあるからです。
理由1. 人工知能に取り組む企業が多く、エンジニアも多い
人工知能関係のスタートアップが数多く生まれており、Google、Apple、Facebook、Microsoft、IBMなどの巨大IT企業の多くが人工知能に投資をしています。Facebookに買収されたWit.aiのように、人工知能系のスタートアップもアメリカが中心です。多くのサービスが、アメリカで生まれています。
理由2. すでにチャットでのカスタマーサポートがあり、利用者にとってハードルが低い
実は、アメリカではチャットを用いたカスタマーサポートが一般的です。多くの企業サイトが、チャットによるカスタマーサポートを提供しています。 サイトをアクセスした際に、チャットのウィンドウが自動的に立ち上がり、カスタマーサポートとやりとりできる機能が一般的に使われています。 日本ではカスタマーサポートをテキストで行う事例や、文化が少ないため、顧客がチャットを使ってカスタマーサポートを受けることに対して抵抗を持つ可能性があります。
zopimは、ウェブサイトの用のチャットウィンドウのシステムを提供する
理由3. 日本語よりも英語は人工知能の開発が速い
人工知能の開発は、日本語よりも英語の方が進んでいます。英語圏で人工知能の開発が進んでいることももちろんですが、日本語は単語の間に区切りがなく、文法も柔軟という特徴もあり、英語よりも解析が難しいのです。
また、人工知能の開発には、学習用に多くのデータが必要になりますが、世界中のWebサイトの半数以上が英語のサイトという調査結果もあるように、英語のテキストのデータが圧倒的に豊富です。IBMの人工知能、Watsonの自然言語処理機能も、英語で提供されていたサービスが、何年も後になってから日本語にも対応しました。
チャットボットはシリコンバレーのサービス研究が重要
ご存知のように、多くのサービスがシリコンバレーを中心としたアメリカで先に普及しています。シリコンバレーには多くのテクノロジー企業、スタートアップが集結していることが大きな理由です。さらに、上で述べたようにチャットボットの場合は、英語と日本語という言語の違い、テキストでのカスタマーサポートに対する文化の違いもあり、他の分野に比べてシリコンバレーのサービスが日本のサービスに先行する例が多くなるでしょう。チャットボットではシリコンバレーのサービス研究がより重要となります。
Nissho Electronics USAの取組み
チャットボットを始めとして様々な領域で人工知能の波が押し寄せています。今回ご紹介したカスタマーサポートも、ほぼ全ての会社に必要なものです。全ての会社がテクノロジー企業になる必要になってきます。結果、あらゆる企業にテクノロジーを活用するためのインフラ、高速でセキュアなネットワーク、膨大なデータを効率的に貯めるストレージ、よりリアルタイムに近いスピードで並列処理を行うコンピューティング基盤などが求められます。 Nissho Electronics USAは上記のようなトレンドを把握の上、来るべきデジタルビジネス時代に備え、様々な観点からシリコンバレーで調査を行い、日商エレクトロニクスと連携し、お客様に対し最適な提案をしてまいります。お問い合わせフォームより、どうぞお気軽にお問い合わせください。