シリコンバレーテクノロジー 2023.08.08

【Webiner記録】Collision 2023 3社合同フィードバックセミナー

2023年6月、北米最大規模のテックカンファレンスであるCollision 2023が、カナダ・トロントにて開催されました。今年のCollisionには、118か国から参加者が約36,000人が参加。本ウェビナーでは、Collision 2023に参加した米国駐在3社(NTT DATA・Net One Systems USA・Nissho Electronics USA)が、それぞれ注目したスタートアップや新トレンドをフィードバックしました。

 

1. Collision 2023 とは

Collisionは、北米最大規模のテクノロジー系スタートアップカンファレンスです。その知名度は、北米で有名なテック系カンファレンスであるCESやSXSWに匹敵するほど。今回は約1,500社のスタートアップが出展していました。出展側も参加者側も、この機会を逃すまいとお互い真剣にコミュニケーションを取っていました。会場ではさまざまなテーマで小規模なピッチが行われ、イタリアやオランダなど国ごとのブースも展開。日本からはJETROさんがブースを出し、日本のスタートアップ8社の支援をされていました。

Collision PITCH

Collisionでは、「PITCH(ピッチ)」という名前のピッチコンテストが開催されました。コンテストの対象はアーリーステージのスタートアップで、約70か国から約1,700社のスタートアップが参加。会期中の3日間をかけてピッチが行われ、選ばれた10社がセミファイナリストとなります。今回、その中からファイナリストに残った3社をご紹介します。

1社目:Syzl

Syzlは、プロ用のキッチンスペースのマッチングサービスを提供しており、 キッチンのAirbnbを目指している企業です。Syzlの利点は、貸したい人・借りたい人が簡単に1時間から利用ができるアプリであること、利用者の損害保険をはじめとした必要な要素が、サービス内で全て提供されることです。

2社目:Fractionum

Fractionumは、分割不動産投資プラットフォームを提供しています。プロ向けの投資物件情報をWeb上で公開することで、一般人もプロの投資家と一緒に、$1から優良不動産へ投資できるようになります。同社は、「プロの投資家は、投資資金が15~20%ほど足りず機会損失しているケースが多い」という点に着目。同サービスを考案しました。

3社目:NLPatent

NLPatentは、特許検索サービスを提供する企業です。AIを活用することで、膨大な特許データベースの中から、ユーザーが欲しい情報をすぐに見つけられます。企業が特許を取得する際、特許調査にはかなりの時間と労力がかかっているのが現状です。同サービスは、取得したい特許の内容をしっかりと理解し、すぐに必要な情報を探して提供するため、非常に効率的な調査業務を実現してくれます。

最終的に優勝したのはSyzlで、会場の投票でも56%がSyzlに投票していました。投票結果は続いて、25%がFaractionum、19%がNLPatentです。

2. 注目スタートアップ紹介 Nissho Electronics USA 門馬

Nissho Electronics USA・門馬からは、注目セッション2つと、注目スタートアップ4社をご紹介しました。

セッション1:生成型AIの民主化に向けてのAWSの取り組み(AWS)

AWSのCEOであるAdamさんによる講演です。「生成型AIの民主化」をキーワードに、2023年4月にローンチしたAmazon TitanモデルとAmazon Bedrockサービスについて、お話されました。

Amazon Titanは、Amazonが保有する大規模なデータセットで訓練された、汎用的なモデルを提供します。要約、テキスト生成、分類、情報抽出に優れているほか、リコメンデーションを強化した検索などにも利用可能です。

Amazon Bedrock は、Titanを含むAmazonの主要なAIスタートアップや基盤モデルを、API 経由で利用できるようにする、フルマネージド型サービスです。これにより、利用者は独自の生成型AIをより簡単に、自社開発することができます。

また、AWSはこうしたサービスを下支えする基盤の構築にも力を注いでおり、GPUベースのコンピューティングを強化したり、独自のチップを開発したりしています。今後は、こうしたハードウェア面の強化も差別化要因になっていくと考えているようです。

セッション2:拡張性に優れたシステムを構築するための戦略とは?(Stripe)

StripeのCTO、Davidさんによる講演です。Davidさんは「決済システムの開発は、困難なチャレンジが多い」と語っています。APIを含む連携に関する開発が、非常に重要だからです。2016年頃、インシデントレスポンスの強化など運用の強化を行っていた同社では、インシデントが頻発するように。そこで、変更管理システムと自動化に舵を切ったそうです。テストの自動化や自動的な検証の実現により、結果的に問題が起こる前に防ぐことができるようになりました。

また、生産性向上の観点で開発した最新のツールキットとして、同社はローコードツールをリリースしています。「開発者が41%のリソースをバグ、メンテナンスに費やしている」という自社調査の結果の解決にアプローチしています。

Nissho USA 注目のスタートアップ

1社目:Neural Magic

Neural Magicは、AIのパフォーマンスを最大限に引き上げるサービスです。スパースモデリングという、大量のデータに埋もれて見えにくくなる有益な情報を抽出したり、法則性を導き出したりする技術を、簡単に適用する仕組みを提供しています。精度に影響を与えることなく冗長性を除去し、機械学習モデルのパフォーマンスを高速化します。

2社目:Statsig

Statsigは、ABテストを自動化、最適化するツールです。他のA/Bテストツールとは異なり、すべての機能リリースの影響を追跡し、定量化することができます。定量化されたデータに基づき、より多くの比較を行うことで、精度の高い意思決定が可能になります。

3社目:Abacum

Abacumは、財務関連の業務生産性を高めるSaaSツールです。中小企業向けに設計されており、業務管理や財務計画の立案など、生産性を向上させることを目的としています。リアルタイムに収益予測を正確に行い、コスト管理も効率的に実行。年間260時間以上のコスト削減が実現されるケースもあります。

4社目:Uiflow

Uiflowは中~大規模組織を対象とした、フロントエンド構築を容易にするノーコードプラットフォームです。フロントエンド構築に特化していない製品担当者やバックエンドチームとの共同作業も、円滑に進めることができます。SalesforceやOracleなと連携しており、認証サービスとの統合も簡単に実装可能です。

3. 注目スタートアップ紹介 Net One Systems USA,Inc 坂田様

Net One Systems USA,Inc・坂田様からは、「新しい働き方」をテーマとし、「カナダの移民政策」「グローバル人材の活用方法」「働き方に関係するスタートアップ」の3点を軸にお話しいただきました。

アメリカのテック人材と外国人雇用問題

カナダの移民政策の背景には、アメリカのテック人材における問題があります。アメリカのIT人材にはインド人の方が非常に多く、彼らは「H‐1B」という入国ビザをもって就労しています。しかし、2022年ころからビッグテックでのレイオフが盛んになり、インド人は永住権の取得が150年待ちであることから、実質レイオフ=帰国という状況です。こうしたテック人材を引き受けようと、移民政策を提案したのがカナダなのです。

カナダ政府移民・難民・市民権大臣みずから4講演も実施!

講演「大臣からの独占発表」では、カナダ政府の移民・難民・市民権大臣が自ら登壇し、以下の内容を発表しました。

  • STEM人材用の専用パスを新設
  • 起業家向けに、スタートアップ・ビザプログラムを開始
  • カナダに滞在するリモートワーカーに労働許可証を発行する、デジタル・ノマド戦略
  • 約1万人のH‐1Bビザ保持者がカナダで働けるようなビザを、7月16日以降発行予定

グローバル人材とリモートワーク活用方法

続いて、「お金、才能、そしてボーダレス経済」という講演も実施されました。内容は、グローバル人材と、リモートワークの活用方法についてです。

まずグローバル人材の活用については、グローバル雇用が増えた理由から語られました。それは、パンデミックが起きたことにより、リモートワークの実用性が実証されたことです。また、欧米で人材不足が起こっていることや、新興国のリモートワーカーは給料が従来の50%増やせることも理由に挙げられていました。海外人材を雇用することで、企業側にも「多様なデータにアクセスできる」というメリットがあります。

グローバル人材への給与額については、年功序列や勤務地などを考慮した報酬哲学があるため、それを給与額にも反映させているとのこと。給与の支払い方法は、現在主にSWIFT(国際銀行取引)を利用しているものの、通貨が信用できない国などには、暗号通貨を使うことも良い選択では、と話されていました。

リモートワークで重要なこと3つ

リモートワークを行うにあたり、国境を越えて高いレベルのエンゲージメントや帰属意識を生み出すための、3つのポイントに着目して話されていました。

  1. 意図的に信頼を築く必要がある
    年に1~2回でいいので、フェイス・トゥ・フェイスの会議を行うこと、そこで目的の達成ではなく「チームのプロセス」を感じることが重要。信頼の感情を直接見せ合うよう心がける。
  2. 明確な目標と期待を持つ
    オフィスの存在感ではなく、結果で人を評価することが大切。そのために、成功とは何かを明確にする必要がある。
  3. どのように協力するか
    さまざまなツールやルールを採用し、活用していくことが大切。

 

こうしたポイントは、日本のリモートワークにも通用するのではと思いました。続いて、こうしたグローバルな働き方に関するスタートアップが2社紹介されました。

1社目:dolphiNZe

dolphiNZeは、暗号通貨による未来の給与支払いシステムを提供する企業です。Web3を使用した給与の支払いサービスで、支払い時の通貨や暗号通貨の種類、割合を簡単に選択できるようになっています。直感的でかなり分かりやすいUIが特徴的でした。今後も同様のサービスが増えていきそうです。

2社目:I’m beside you

I’m beside youは、AIによるリモートワーク問題の解決ツールです。特定の人だけ会議続きで負荷が集中していないか、逆に孤立している人がいないかなどを、ビデオ会議の情報などを取得し可視化。問題があれば、自動的に上司との1on1が設定される仕組みです。CEOのカミヤさんは日本人で、社員のほとんどはインド人を採用しています。

4. 注目スタートアップ紹介 NTT DATA 大谷様

NTT DATA・大谷様からは、スタートアップ企業「Cohere」のサービス内容や、Q&Aセッションの様子についてお話いただきました。

Cohere(カナダ発、OpenAIの競合企業)

Cohereは、自然言語処理(NLP)企業として事業を展開している、生成AI系のスタートアップ企業です。ChatGPT同様、APIなどを通じてLLMやNLPなどの大規模な言語モデルを提供しています。今、世界では生成AI系のユニコーン企業が13社ほど出てきており、Cohereはその第3位に当たる企業です。

Cohereの機能としては、ChatGPT同様、コンテンツ生成や要約、検索・分類が可能です。ChatGPTとの違いは、「ビジネスの場でLLMを使っていこう」という目的意識があることです。そのため、自社データを社外に共有する必要がありません。また、その閉じられた学習データに基づきAIが学習していくため、より正確な情報を提供できます。

また、クラウドだけでなく、VPCやオンプレ環境での展開が可能。自社内という閉じられた環境の中で扱うLLMとしては、非常に有望だと感じました。2023年6月には、Oracleとの連携を発表しています。

Q&Aセッションの様子

続いて、参加者とCEOのAidanさんとの、Q&Aセッションが行われました。

Q:AIの活用は恐れるものか?
A:Aidanさんは「基本的には楽観的である」と回答。昔の蒸気機関のように、AIは人間の作業負担を減らし、人類をレベルアップさせるデフレ技術になるだろう。

Q:AIは仕事を奪うか?
A:人間性にこそ価値があり、そのために人間は必要。例えば文章についても、人間の体験や経験に基づいたもののほうが共感できる。

Q:今後期待されることは?
A:モデルが自分自身で学習していくこと。そういうブレークスルーに期待している。

今後予想される動き

最後に、「生成AIモデルをいかに活用するか」というお話がありました。Aidanさんは、「生成AIを使う側も、アプリケーションの作成に集中してほしい」と話しています。その一方で、生成AIの回答を評価するのは難しい、ということにも触れていました。やはり人間が目で見て確認したうえで評価する必要があるため、そこが一番難しいポイントだと考えているそうです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Yuki Takeuchi

2011年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。大手通信キャリア、OTT事業者向けの営業、Citrix製品の事業推進を経験したあと、ZoomやAsanaなどのエンタープライズ向けSaaSビジネスの事業開発、推進を担当。 2023年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。ITを通して、日本企業の競争力や生産性が上げられるようなソリューションの発掘を目指して日々活動中。 担当領域は、ITインフラ全般、SaaS、Future of Work、Retail Techなど。 サーフィンや登山など体を動かすことが好き。

この記事をシェアする

私たちと話しませんか?