シリコンバレーテクノロジー 2025.03.10

eSports:急成長する市場と最新テクノロジー

eSports市場の急成長

こんにちは、Sojitz-Tech Innovation USA の門馬です。近年、eSports市場は爆発的な成長を遂げています。世界中のゲーマーの数は過去10年間でほぼ2倍となり、2023年には34億人に達しました。それに伴い、グローバルeSports市場も拡大し、Allied Market Researchによると2023年の市場規模は13億ドルに達し、2033年には92億ドルに成長すると予測されています。2024年以降の年間成長率は21.2%と高水準を維持するとみられています。

市場の成長を牽引しているのは北米と欧州ですが、特にアジア太平洋地域においても急成長が見られます。eSportsの主な収益源には、スポンサーシップ、広告、メディア、賭博などがあり、大手企業も積極的に投資を行っています。

テクノロジーが生み出す新たな収益源

テクノロジーの進化もeSportsの市場拡大に大きく貢献しています。特にAIとブロックチェーンの導入により、新たな収益源の創出が進んでいます。CBインサイトの調査によると、2023年の年間資金調達額は317件の取引で32億ドルに達し、初期段階の企業が投資の77%を確保しました。2024年にはWeb3およびブロックチェーン関連の企業が増加し、NFTや分散型経済、クロスプラットフォームの資産所有権の需要が高まっています。

VRとクラウドゲーミングの可能性

eSportsの次なるフロンティアとしてVRが注目されています。VR専用のeSportsリーグが増加する一方で、課題も多く存在します。高価な機材、目の疲労、賞金の少なさ、フォロワーの少なさなどの問題により、多くのeSports選手はVRの導入に慎重です。しかし、VR酔いを軽減する技術や仮想スタジアムといった新たな観戦体験が開発されており、今後の発展が期待されます。

また、クラウドゲーミングも急成長を遂げています。Google Stadiaは市場から撤退しましたが、Microsoft(市場シェア55%)、NVIDIA(25%)、SONY(15%)がこの分野をリードし、Netflixも多額の投資を行っています。クラウドゲーミングの利点として、高価なハードウェアが不要であること、どんなデバイスからでもアクセス可能であることが挙げられます。しかし、画質の劣化や遅延といった課題も残されています。NVIDIAは通信会社と提携し、エンドユーザーに近いサーバーを統合することで遅延の最小化に成功しました。

eSportsとブロックチェーンの融合

ゲーム業界ではブロックチェーン技術の導入が進んでおり、NFTやWeb3関連の機能が統合されつつあります。例えば、Axie InfinityはNFTを活用し、ゲーム内資産の所有を可能にしましたが、その後のNFT市場の低迷とともに衰退しました。しかし、2024年にはTelegramがWeb3モバイルゲームを発表し大成功を収めるなど、ブロックチェーン技術を活用した新たな試みが続いています。

Epic Gamesストアには80以上の新しいWeb3タイトルが追加され、今後も大手ゲーム企業がブロックチェーン技術を取り入れた新しいゲームの開発を進めると予測されています。

AIコーチングの浸透

AIコーチングツールでは、数千の試合を数分で分析したり、ゲームプレー中にリアルタイムのフィードバックを提供したりできます。ただし、AIはコーチングを置き換えるのではなく強化する役割と言われています。現在、プロのeSportsチームの70%がAI分析を活用し、勝率は最大15%向上するとされています。また、AIによるスカウティングツールは才能発掘を30%加速させています。

eSports業界におけるセキュリティ対策の重要性

2024年初頭、League of Legends Champions Korea(LCK)トーナメントがDDoS攻撃の標的となり、大会の進行や放送に深刻な影響を及ぼしました。過去にも、2023年のル・マン24時間レースのバーチャルeSportsイベントでDDoS攻撃が発生し、レースをリードしていたマックス・フェルスタッペンが脱落する事態が起きています。

DDoS攻撃は年々巧妙化しています。eSportのオリンピック大会が開始されていますが、企画・運用側は対策が必須です。また、DDoS攻撃以外にも、アカウントの乗っ取り、マルウェアやランサムウェアによる攻撃など、さまざまなサイバー脅威が存在しています。

5Gがもたらすゲーム体験の進化

5G技術の普及もeSportsに大きな影響を与えています。低遅延かつ高速な通信が可能となることで、クラウドゲーミングやVRゲームの体験が向上し、ネットワークラグの影響を最小限に抑えることができます。

2024年10月、ドイツテレコムはALSO、Ludium Labと提携し、5G技術を活用したクラウドゲームサービスを開始しました。このサービスでは、FortniteやPUBGなど100種類のゲームを快適な通信環境でプレーできるようになっています。

eSportsの未来を支えるスタートアップ

Virtuix(VR専用 全方向型トレッドミル「Omni」)

主力製品は「Omni」という全方向型トレッドミルで、VR空間内を実際に歩いたり走ったりできます。最新モデルの「Omni One」は家庭用に設計され、VRヘッドセットとコントローラーがセットになっています。ユーザーは特殊な靴を履き、低摩擦の表面上を歩くことで、VRゲームやアプリケーション内を自由に移動できます。Virtuixの技術は、ゲームだけでなく、軍事訓練やスポーツトレーニングにも応用されています。

Bigscreen(VR空間で大画面を共有できるソーシャルVRアプリ)

VR空間で大画面を共有できるソーシャルVRアプリで、最大12人で高画質の映像を楽しめます。映画やテレビ番組を視聴したり、PCやゲーム機のゲームを大画面でプレーすることが可能です。また、バーチャルデスクトップ機能やアバターを使ったVR会議も提供しています。さらに、2024年に発売された「Bigscreen Beyond」は、世界最小・最軽量のVRヘッドセットで、快適な装着感と高解像度を実現。OculusやHTC Viveなどの主要なVRデバイスに対応し、エンターテインメントや生産性向上に最適な多機能アプリです。

Mythical Games(次世代のPlay-and-Earnゲームを開発)

従来のP2E(Play to Earn)や投機目的のNFTプロジェクトとは異なり、ゲーム性を重視。プレイアブルNFTを活用したPlay-and-Earnゲームを開発しています。ゲーム内で入手したNFTはキャラクターやアクセサリーとして使用できるほか、マーケットプレイスで売買することも可能です。デジタル資産の取引においても、マイニング不要・暗号通貨不要・ガス代不要としており、ブロックチェーンに不慣れなプレイヤーでも安全にデジタル資産を取引することができます。また、ゲーム開発者向けには、REST APIやSDKを通じて簡単にマーケットプレイス機能を直接組み込むこともできます。セキュリティ面も強化しており、2023年1月にDMarketを買収し、アンチマネーロンダリングおよび詐欺防止システムを特徴とする混合型決済ゲートウェイを採用しています。

Sliver.tv(ブロックチェーン技術を活用した動画配信プラットフォーム)

Theta.tvは、ブロックチェーン技術を活用した動画配信プラットフォームです。従来の中央集権型サービスとは異なり、ユーザー同士がネットワークを形成してコンテンツを配信します。特徴的なのは、動画配信者だけでなく、視聴者もトークンで報酬を獲得できる点です。視聴者の端末の帯域幅が自動的に貸し出され、その対価としてトークンが得られます。高画質な動画配信も可能で、サーバーダウンのリスクも低減されています。Theta.tvは、コスト削減とパフォーマンス向上を実現し、新しい形の動画プラットフォームとして注目を集めています。

Omnic.AI(AIコーチングツール)

特に若い世代のeスポーツプレイヤーは、上達のために何百時間もTwitchの配信を視聴することがあります。この時間を短縮するために、AIコーチングは有効です。Omnic.AIは、ゲームのプレービデオを分析し、どこが良くて、どこを改善すべきかを教えてくれます。ビデオは手動でアップロードできますが、TwitchやYouTube Gamingのアカウントと接続するだけでもOK。例えば、シューティングゲームでは、利用者の狙いの正確さを分析し、アドバイスをくれます。また、友達やプロ選手と比べて、自分の腕前がどのくらいかを分析することも可能。ゲームの後、AIがチャットで上達のためのヒントをくれます。

MoodMe(リアルタイム感情検出AI)

もともとは、クイズや質問を通してカップル向けのコミュニケーションツールでした。現在では、顔の表情をAIで分析し、感情を読み取ることができます。eスポーツにおいては、プレイヤーがどのように感じ、何を考えているのかを把握するのに役立ちます。プレイヤーは、プレー方法だけでなく、プレー中に感じる感情も把握することが重要です。例えば、状況が厳しくプレイヤーがストレスを感じた場合、感情分析によってストレスの原因を突き止め、深呼吸をするなど、落ち着くためのヒントを提供できます。心の健康を守るためにも非常に重要です。ビデオゲームの競技会のようにプレッシャーの大きい場面では、メンタルヘルスをチェックし、サポートするツールが必要不可欠です。心のバランスが取れていると感じるプレイヤーは、ビデオゲームでより上手にプレーし、より長く、より幸せなキャリアを築く可能性が高くなります。

Sojitz-Tech Innovation USA 注目ポイント

3年前は、Web3に過剰と思えるほどの期待がありました。しかし、暗号資産の信用が一時的に低下してから2年以上が経過し、昨今は「Web3」というキーワードをあまり聞かなくなりました。その一方で、ゲームの領域では、さまざまな失敗を経ながらも継続的にWeb3技術の組み込みが検討されています。

特にNFTの視点では、以前のように単体の価値に注目するのではなく、あくまで付加的な要素として仕組みを活用するという視点は、的を射ていると考えます。

eSportsは、VRや5G、AIなど付随するテクノロジーが今後進展していくうえで、非常に影響力のあるアプリケーションです。当社としても、引き続き注目していきたいと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Sojitz-Tech Innovation USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

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Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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