シリコンバレーテクノロジー 2023.07.13

【動画配信】Finovate 2023 Spring 金融業界最新トレンド

「Finovate 2023 Spring」は、2023年5月23日から25日(米国時間)にかけて、サンフランシスコで開催されたイベントです。米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、このイベントに参加し、そのサマリーを動画にまとめました。

 

イベント概要

Finovateは、フィンテックのイベントとして、2007年より行われている比較的中規模のイベントです。米国では、年2回開催されており、春は西海岸、秋は東海岸で開催されます。また、ヨーロッパ、アジア、中東でも開催されています。オンサイトだけではなく、バーチャルイベントもあります。比較的同窓会的な要素の強いイベントで、今回は金融機関の中でも銀行業が参加の割合が多く、日本からも主要な銀行が参加をしています。

全体を通しての気づき

当イベントに参加して気づきとなった点は、以下の3点です。

AIの利活用が加速、一方、限界もある

請求書処理は単純な繰り返し作業が多いため、AIを使った改善が容易です。また、高度なAIを使えば請求書の内容を理解し、関連システムとの連携がスムーズになります。情報整理にも生成型AIが活用可能です。生成型AIの限界についても考慮が必要です。

ACHの優位性が見直されている

クレジットカードは手数料が2~3%と高く、ACH(米国の送金サービス)の改善に注目が集まっています。現状、Eコマースにおける利用は全体の1%程度ですが、以前と比較し、使い勝手や安全性が改善しつつあります。

金融サービスのパーソナライズが必要

金融サービスの進化において「パーソナライズ」が重要となっています。金融サービスは、全体的にデジタル化よる利用者増があるものの、人間らしさが欠けるとの意見も出ています。地方金融機関は差別化に人間らしさ取り入れることでサービスの差別化を図ることができます。

注目セッション

特に興味深かったセッションについて5つピックアップをします。

1. フィンテックはどのようにして生成型AIの流れに乗ることができるか?(VIC AI社)

VICAIはAIを活用した製品であり、請求書処理などの業務の生産性向上を提供しています。従来のアルゴリズムでは難しかった請求書の情報の意味理解が可能になり、高度な返済プロセスの支援と合理化が可能となりました。

Slope社も同様に請求処理の自動化製品を提供しており、膨大な請求処理を可視化し優先順位付けを行っています。ノイズ除去に生成型AIを活用し、興味深い成果を上げています。

一方、生成型AIの限界についても議論されました。金融機関などの業務において100%の正確性が求められるものもあるため、生成型AIの利用には規制がかかる可能性があります。講演者は今後も規制に準拠した方法で生成型AIを積極的に活用していく意欲を示しました。

2. なぜメタバースにおけるバンキングが重要なのか?

メタバース関連の話題では、デジタル通貨とインセンティブの重要性、クリエーターの保護、詐欺リスクが課題として取り上げられました。これらの課題を解決するためには、規制への準拠、適切な報酬システムの構築、詐欺対策とデータ収集のバランスが必要です。ユーザーに情報提供の選択権を与えることも重要です。

3. ACHペイメント: オンライン商取引の未来に向けた大胆なビジョン(Very Good Security社)

Very Good Securityは機密データのトークン化を提供する注目のスタートアップです。CEOのチャックさんは、高額なクレジットカード決済手数料に言及しました。ACHは低い手数料で利用可能ですが、不正行為や手続きの煩雑さが課題でした。しかし、現在は利用者にとって使いやすくなり、安全性も向上しています。

4. パーソナライズこそが最大の課題。顧客を維持し、競争優位性を発揮

金融業界は多様化し、アプリを提供する企業による金融サービスの組込みやネオバンクの普及により顧客と金融機関の関わり方が変わり、やり取りの多くをアプリが行うようになってきました。これに対し、「人間的なタッチ」が減ったとの意見があります。金融サービスプロバイダーは、顧客のニーズやテクノロジーの活用を再考する必要があります。若者、高齢者問わず、カスタマージャーニーを作成し、デジタルと対面サービスをシームレスに繋ぐことが重要です。顧客の満足度向上により、顧客全体の忠誠度も向上する可能性があります。

5. パーソナライズを促すためのデータ活用の重要性(Apiture社)

Apitureの製品は、地域金融機関が顧客にパーソナライズされた提案を実現するためのツールです。利用者情報を統合し、即座に分析結果をアドバイスに反映できます。顧客のニーズと現在置かれている状況を把握するためにはデータの統合化が必須です。分散されたデータからは正確な分析ができません。最近では、分析にAIを取り入れたり、自動的にデータから判断をして提案メールを送るなどのツールも注目を集めています。

Best Of Showを受賞したスタートアップ6社

Finovate 2023 Springでは、44社のスタートアップが、各社7分間のデモを行いました。44社のなかから、分野ごとにアワードを受賞した6社のスタートアップを紹介します。

1社目:1Kosmos(パスワードレス認証ソリューション)

パスワードレス認証ソリューションを提供し、セキュリティとユーザー体験の向上を目指しています。ブロックチェーンと生体認証技術を組み合わせて安全な認証を実現し、データ漏洩や不正アクセスのリスクを軽減しています。顔認証や音声認証、指紋スキャンなどの生体データを活用してユーザーを認証します。

2社目:9 SPOKES(中小企業の金融業務をシンプルにする)

中小企業向けのファイナンシャルプラットフォームを提供しています。銀行やカード、ビジネスアプリのデータを一元管理し、ダッシュボード上で銀行口座の残高や取引、キャッシュフローを可視化します。将来のキャッシュポジションを予測し、データに基づいた迅速な意思決定を支援します。

3社目:Flybits(AIが個々に最適な情報を配信)

顧客の行動や嗜好、位置情報などのデータをAIが分析し、タイムリーなパーソナライズされたコンテンツを提供します。顧客エンゲージメントと満足度を向上させ、ビジネス成果を上げることができます。また、ノーコードセットアップで簡単かつ迅速にサービスを提供できます。

4社目:QuickFi(100%デジタルの事業融資プラットフォーム)

デジタルなセルフサービス型の事業融資プラットフォームを提供しています。従来の事業資金調達のプロセスに比べ、コストと時間を大幅に削減し、数分で事業融資を完了させることができます。貸し手は認証、承認、文書化、資金調達を迅速かつ安全に行い、借り手もモバイルアプリを使用して便利で透明性の高いサービスを受けることができます。

5社目:Savvi AI(小さなAIを簡単に業務に組み込み)

業務プロセスの最適化や業務運用効率の向上を目的としたAIの組み込みを実現します。簡単な設定とデータの取り込みにより、20ミリ秒未満で迅速な解析結果を提供します。過去の履歴データがなくても必要なデータを収集し、透明性と説明責任を確保します。金融機関の例では、タームローンの提供やクレジットスコアに基づく対応ルールの適用にAIを活用し、迅速な意思決定を支援しています。

6社目:Wink(顔認識および音声認識ベースの多要素認証)

Winkは顔認証と音声認証の技術を提供し、セキュリティを向上させながらスムーズなチェックアウトを実現します。匿名暗号化技術とブロックチェーンでデータを保護し、主要なeコマースプラットフォームとの連携も可能です。さらに、PCやスマホだけでなく自動車やテレビ、POSなどの多様なデバイスにも対応しています。

注目スタートアップ

スポンサーの中から注目の4社を紹介します。

1社目:Sendbird(ウェブサイトやアプリに会話機能を組込み)

簡単に組み込めるAPI・SDKを通じてチャット、音声、動画通話を提供します。リッチメディア投稿や翻訳、分析などの最新機能も備えています。質問への迅速な回答や金融相談も可能で、顧客体験の向上とトランザクション数の増加に貢献します。プッシュ通知機能を活用して顧客の関与を高めることも重要です。

2社目:Very Good Security(機密データ要素をトークン化)

この企業は金融サービス向けにデータ保護を提供し、機密データを非リレーショナルトークンに変換して安全なストレージに保持します。VISAやMastercard、Adyen、Stripeなどと連携し、カード会社はより迅速なカード発行を、支払いサービス会社はプロセスの短縮を実現しています。

3社目:Eigen Technologies(インテリジェント文書処理)

Eigen Technologyは、高度な自然言語処理とコンピュータービジョンを使用して文書からデータを抽出し、手動でのデータ入力を不要にします。チャット形式で質問することで正確なデータを提示し、既存のシステムとの統合によりプロセスの自動化を実現します。

4社目:Fingerprints(Cookieを使わず個人を特定し、不正利用を防止)

Cookieを使用せずにブラウザーフィンガープリントを作成するAPIを提供しています。本人認証や不正行為の防止に使用され、ログイン試行の検知や複数回の決済使用の監視、IDやカードの盗用者の特定などが可能です。クーポンの不正使用やサブスクリプションアカウントの乱用も検知できます。正確性は99.5%です。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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