シリコンバレーテクノロジー 2023.12.01

【動画配信】通信革命の舞台裏~ OpenRANの未来を探る

「Fyuz 2023」は、2023年10月9日から11日(米国時間)にかけて、スペインのマドリッドで開催されたイベントです。

 

イベント概要

このイベントは、Telecom Infra Project(以下、TIP)という業界団体によって開催されました。昨年から開催されており、今回で2回目の開催となります。ワールドワイドで注目されるイベントであり、47カ国から45の出展者が集まりました。 

全体を通しての気づき

当イベントに参加して気づきとなった点は、以下の3点です。

  1. NOKIA, Ericssonなどモバイル大手の取り組みが加速
    大手通信機器メーカーのOpenRANへの取り組みが加速することで、市場自体が盛り上がりを見せ始めています。ヨーロッパを中心に通信事業者による実証実験も数多く行われています。一方で、大手通信機器メーカーが主導権を握ることによって、オープン性が損なわれてしまうのではないかという懸念も上がっています。
  2. プライベート5Gへの適用がすすんでいる
    企業が5Gの環境を構築する場合、公共の電波とは異なる課題が出てきます。実装までのスピードをより求められたり、障害物の多い建屋内で信号を到達させることや、品質の担保などがあります。
  3. 通信データの分析、最適化技術が将来への展望
    Ran Intelligent Controller(通称:RIC)の開発が進むことで、現状は難しい信号のより詳細な解析ができるようになります。これにより信号の飛ばし方を最適化してエネルギー効率を高めるなど、さまざまな効果があります。RICがAPIを提供することで、データを用いた新しいアプリの登場も期待されています。

注目セッション

特に興味深かったセッションについて6つピックアップをします。

1. 2027年までに2500サイトをOpenRAN化へ(Vodafone社)

2023年8月から主にヨーロッパで大規模なOpenRANの展開を進め、2027年末までに最低でも2500のサイトをOpenRANに移行する計画を発表しています。同時に、ルーマニアでのOrange社との基地局の共有にも着手しています。技術開発においては、複数ベンダーのアンテナを混在させた構成に挑戦したり、パフォーマンス最適化のための専用チップの開発について、Intel社と協力しています。

技術開発だけでなく、さまざまなベンダーの製品を組み合わせたテストも積極的に行っています。テストサイトは他の通信事業者やベンダーにも公開され、コミュニティの活性化を図っています。

ベンダーとの連携においては、Nokia社と共同でイタリアにおけるOpenRANを構築したことも報じられています。この基盤として、Dell社と共同でクラウドとオンプレを組み合わせた構成を採用したことも注目を集めました。

OpenRANの推進において、Vodafone社は「先進的なシリコンの実装」と「クラウド・ネイティブ」の重要性を強調していました。将来の計画については、「長期的にはプラグアンドプレイにこだわっていきたい」と述べ、ワンクリックでモバイル環境が実装されることでテスト時間の短縮や工事の迅速化などが期待できると述べています。

2. ベンダーの自由な組み合わせの新局面「OREX」の提供開始(NTT Docomo社)

NTT DOCOMO社は、他の通信会社向け提供可能なOpenRAN製品セット「OREX」を発表しました。この製品の特長は、ベンダー製品の自由な組み合わせを保証する点です。従来では、限られた選択肢の中から製品を選定するものでしたので、非常に画期的な取り組みです。

OREXのメリットは、周波数帯や地域のニーズに合わせて最適なソリューションを提供可能な点と、ベンダー統合を自社で行うことでコストを削減できる点にあります。

3. プライベート5Gに関する提携の展開(AWS社)

2023年8月にプライベート5Gサービスを立ち上げました。AWS社は、ハードウェアとソフトウェアを提供し、さらにマネージドサービスも提供します。AWS社は、テレコム市場を奪うつもりではなく、むしろイネーブラーとしての役割を果たすことを強調しています。

AWS社は、また、ドイツテレコム社やVMware社との提携を10月に発表し、多国籍企業ネットワークの制御と管理を提供しています。クラウドの経済性、サブスクリプションモデル、従量課金モデルの導入により、経済的な障壁を取り除き、企業が実験から本番稼働までのスピードを向上させることができると述べています。

プライベート5Gの実装では、多くの場合、急なビジネスニーズが存在します。これに迅速かつ経済的に対応できなければ、企業は他の選択肢を検討してしまう可能性があります。展開のシンプル化が重要であり、クラウドプラットフォームの活用が合理的です。また、クラウドの利用により、AIや機械学習の統合が容易になり、異なるドメイン間で一貫した管理や制御が実現しやすくなります。

4. 5Gスライシングサービス開始。注目されるAPIの公開(ドイツテレコム社)

ドイツテレコム社は、2023年10月からスライシングサービスを提供することを発表しました。このサービスは企業が独自のニーズに合わせてカスタマイズされた5Gネットワークの構築に利用できるもので、製造、医療、教育などのさまざまな分野での活用が期待されています。

スライシングは、特定の用途や事業に専用の帯域を割り当てる技術です。ドイツテレコム社はスライシングにおけるAPIを公開しています。APIを活用することで、スライスの作成・管理、ネットワークリソースの割り当て、セキュリティの設定が簡単になります。

APIに関しては、「Quality On Demand API」という特殊なAPIも提供されています。この APIを使用すると、アプリは、対象のネットワークに対して特定のサービス品質を要求できます。ネットワークの高負荷状態でも、安定した帯域幅でデータを転送することが可能となります。たとえば、遠隔操作による自動車の運転では、安全性を確保することができます。

5. 中立ホストを活用した新しいアプローチ(Meta社)

Meta社は、AT&T社やT‐Mobile社と提携して、建物内での5Gカバレッジを向上させる取り組みを進めています。これまでのモバイル通信では、建物内での信号強度が不足していましたが、新しいコンセプトでは、Meta社が中立ホストとして機能し、複数の通信事業者の信号を受け取り、それを中継することで建物内の信号強度を高めます。

このプロジェクトでは、CBRS(Citizens Broadband Radio Service)と呼ばれる免許不要の3.5GHz帯を利用し、LTEベースのネットワークを構築しています。これにより、建物内に外部のモバイルサービスを拡張し、ユーザーにとってより良い通信体験を実現しています。

新しい展開方式は、従来のモバイル通信と比較してコストを大幅に削減し、かつ迅速な設置を可能としています。

6. RAN Intelligence 高度な分析システムの開発状況

RAN Intelligenceの領域では、無線システムの電波効率向上、コストの削減、エネルギーの節約などを目的とした高度な分析システムの研究が行われています。具体的には、信号強度、ノイズ、干渉などデータ化し、機械学習を用いて分析することで、アンテナの位置や利用する周波数帯を最適化します。RICが主な開発領域になり、RICとAPIで連携をするアプリの開発に今後期待がされています。

技術的な課題は、複雑な電波からデータを取りだすことです。AT&T社とNokia社は、ニアリアルタイムの分析に関する共同研究を行っています。また、2023年MWCでは、Microsoft社が複雑な電波に関するデータ抽出に成功しています。リアルタイムの分析は技術的な難易度がより高くなります。ここにおいては、リアルタイムの分析には、オープン性が担保されることが必須と講演では語られていました。

技術的な実装が進むことで、位置情報の認識やセキュリティへの適用、デジタルツインへの活用が期待されます。この領域では、大手よりもスタートアップの活動が活発化しており、組み込みアプリの黎明期を迎えています。

注目のスタートアップ

今回のイベントでは、ピッチコンテストのようなものはありませんでした。今回は、私の独断と偏見で7社スタートアップを紹介します。

1社目:Accelleran (OpenRANターンキーソリューション)

プライベート5Gの構築に必要なデバイスおよび管理ソフトウェアを提供します。特徴は、OpenRANに準拠している点です。提供されるRICでは、アプリをシームレスに設計・統合するためのAPIおよびSDKを提供します。利用者は、AI連携をベースとしたエネルギー効率、ネットワークの監視、サービスオーケストレーションなどを簡単に実装できます。

2社目:Parallel Wireless (世界初!マルチG対応のOpenRAN Aggregator)

2Gから5Gへの進化の過程において、新技術の適用には運用上の複雑さが伴い、管理コストが増加します。同社の製品では、すべてのGにおけるコア機能を仮想化し、運用の簡素化、自動化、プラグアンドプレイの実装を支援します。

3社目:Cohere Technologies (4Gおよび5G用のUSM)

電波の混信を防ぐ技術であるUSM(Universal Spectrum Multiplier)の技術を提供し、通信速度や品質を向上させます。高速で移動する対象に信号を送ると周波数が変わってしまう問題に対してその修正を行う先駆的な研究を行っています。また、正確に信号の飛び方を予測することで、従来よりも最大2倍の容量のデータを同じ信号で飛ばすことができます。

4社目:Weaver Labs (事業者を超えた全く新しい通信のコンセプト)

事業者を超えてあらゆる種類の通信関連資産を1つのソフトウェアで管理します。Network as a Service (NaaS)の技術を使用して、通信事業者をまたいだネットワークを構築することができます。通信事業者は既存の枠を超えて新しいサービスを簡単に提供することができるようになります。Adeno(製品名)では、暗号資産を用いた資産利用料の支払いをサポートします。

5社目:Antevia Networks (建物内のモバイルカバレッジを最適化)

vRANと新しい共有セル技術の採用により建物内における無線通信の耐障害性を高め、スムーズなハンドオーバーを提供します。また、クラウド上の管理ソフトウェアでは、スマートな容量管理とルーティング管理を行えます。常にフロア全体、建物全体における無線の運用を最適化することができます。

6社目:Aarna Networks (ネットワークオーケストレーション)

5GコアとRANにおけるオーケストレーションを提供し、運用者の負荷を軽減します。APIを用いたネットワークの可視化、制御、ZTPが特長です。さらに、エッジデバイスのオーケストレーションソフトウェアでは、NaaSの技術を利用し、IoTデバイスやエッジAIに対するネットワークリソースの割り当てや制御を簡素化します。

7社目:Aira Technologies (AIを用いたビーム最適化)

RICとAPIなどで連携させて無線システムの品質を向上させるアプリ(xAPP)を提供します。ユーザーやデバイスの位置をAIを用いて計算し、最適なビームを形成する支援をします。ビームを発するための消費電力を最小限に抑えながら、端末側により優れたスループット、カバレッジを提供できるようになります。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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