シリコンバレーテクノロジー 2023.12.19

【Webinar記録】米国小売業界の最新トレンド(GroceryShop 2023)

2023年9月、食品小売業者向けの中規模カンファレンスGroceryShop 2023が、アメリカ・ラスベガスにて開催されました。今年のGroceryShopには、約250社のスポンサー、約4,000名の参加者が来場。本ウェビナーでは、同イベントに参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・竹内が、当日のイベント内容や注目セッションなどの様子をお伝えします。

 

イベント概要

GroceryShop 2023は、3日間にわたりマンダレイベイというホテルで開催された、中規模のイベントです。対談形式のセッションをメインとしたイベントであり、セッションは終日開催されていました。また、ベンダーとの商談会も盛んで、15分のショートミーティングが会期中に約25,000回開かれました。

会場の様子

至る所にリテールメディアの広告や、リテールメディアの名前が入った休憩所、リテールメディア企業との商談ブースなどが設けられていました。リテールメディアを強く推す姿勢が感じられました。また、日本からの参加者もリテールメディア関係者が多かった印象です。他にはメーカーや流通、商社関係者が見受けられました。日本からの参加者は見た限り30〜40人ほどで、昨年よりも増加傾向にあるようです。WalmartやTargetといった大手小売事業者のディープな内情を聞けるため、日本企業からも注目の集まる展示会になっているようです。

Key Findings

GroceryShop 2023に参加して得られた気づきは、以下の3点です。

  1. AIの活用が大きく進展
    ここ1年で、小売業界においてもAIの活用は大きく進んでいます。社内データに基づいたAIチャットツールの導入や、販売・市場動向の予測におけるAIの活用など、社内の生産性向上を目的とした事例が目立ちました。 中には、AIを活用した在庫管理や調整など、先進的な事例も。
  2. 勢いが拡大するリテールメディア
    さまざまなテーマが取り上げられた中、最も注目されていたテーマはリテールメディアでした。多くのセッションやキーノートのトピックになっていただけでなく、大手スーパーチェーンが新規のリテールメディアを発表するサプライズもありました。
  3. ユニファイドショッピングの台頭
    ユニファイド・ショッピングとは、オンライン・オフライン問わず全てのチャネルにおいて、シームレスかつパーソナライズされた購買体験の提供を目指すものです。複数チャネルでの販売を目指すオムニチャネルに代わり、近年台頭してきている概念です。

注目セッション

GroceryShop 2023では、3日間で約175人の業界リーダーがセッションを行いました。その中から、Key Findingsに関連して注目されていた5つのセッションをピックアップし、サマリーをご紹介します。

セッション1:食料品店におけるAIの未来(Hungryroot社)

Hungryroot社は、オンラインでの食料品配送サービスにAIを活用している企業です。CEOのBenさんは、以下の3点に触れていました。

  • AIの活用により、顧客は多くの時間と費用を節約できる
    …週2~3時間かかる買い物の時間を、3分程度に短縮できる
  • AIの活用により、一般的な食料品店に比べ食料品ロスが80%削減できている
    …食品廃棄コストが削減でき、高利益体質を作れている
  • 今後は、価格設定やクーポン領域にAIを活用していきたい
    …人によって感じ方が異なるような難易度の高い領域に、AIを活用し最適化していく

セッション2:AIとデータを活用して迅速なイノベーション創出を実現(Tropicana社)

AIとデータを活用し、迅速なイノベーション創出を目指している同社CEOのMonicaさんは、以下3点に触れていました。

  • 2年前のPepsiCo社からの独立を機に、組織のアジャイル化を推進
    …アジャイル化実現のため、AI・データの活用のほか、組織のフラット化等を行っている
  • AIによる社内業務の効率化
    …社内向けAIチャットツール「Trop GPT」を導入し、生産性の向上を目指している
  • 今後はデータ活用を推進
    …AIを活用したERPシステムの構築を進め、トレンド予測や製品コンセプトの作成を効率化

セッション3:ブランド側から見えるリテールメディア(Coca‑Cola社、Mondelez International社、reckitt社)

Mondelez International社は、オレオやリッツなどを販売している菓子メーカーで、reckitt社は日用品、衣料品などを製造する企業です。Coca‑Cola社を含めたグローバルブランド企業3社による、対談セッションが行われました。

  • 現状のリテールメディアに対する不満
    …一部のリテールメディアでは十分な結果が出ておらず、データ共有にも課題がある
  • データの透明性が重要
    …上記の問題を解決するため、重要な指標や測定方法を標準化する必要がある
  • 店内メディアは大きな可能性を秘めている
    …消費者の購買現場でアプローチできるため訴求力が高く、注目が集まっている
補足:米国リテールメディア市場

米国のリテールメディア市場は毎年大きく成長しており、現在の市場規模は約450億ドル(日本円で約6兆7000億円ほど)です。TV広告に次ぐ市場規模第4位のメディアとなっています。2025年にはTV広告を抜き、2027年には1060億ドルの市場規模まで成長していく見込みです。このように米国リテールメディア市場が成長している理由は、主に以下の3つです。

  • ターゲティング広告に使用されているサードパーティクッキーが利用できなくなるため
  • TVの視聴率が低下し、TV広告の代替手段になっているため
  • 店舗内での広告配信を可能にする、デジタル化が進んできたため

 

また、リテールメディアには以下3つのフェーズがあるといわれています。

  • 1.0:各社ECサイト上でのスポンサー広告
  • 2.0:店内やストリーミングTV上での広告
  • 3.0:(今後のトレンドになると予測されている)商品サンプル

 

現在は2.0のフェーズにあるといわれており、そのひとつであるストリーミングTVとは、オンラインコンテンツを配信しているネットTVのことを指します。ストリーミングTVと連携することで、ネットTV上で広告を配信できるということです。ストリーミングTVでの広告は、効果測定やターゲティングが可能なうえ、視聴者に若い世代が多いため、従来のTV広告の市場を奪う形で成長しています。

セッション4:デジタルと物理空間で消費者に効果的にアプローチ(kellogg’s社)

ユニファイドショッピングを戦略として推進している同社は、その理由として以下の2点を挙げています。

  • 複数経路で買い物をする顧客は、そうでない顧客に比べて2〜4倍多く買い物をするため
    …その結果、売上へと直結する
  • 「より迅速に個人のニーズを満たす」という最近の消費者ニーズに対応するため
    …オンライン・オフラインの両方でシームレスな体験を提供する必要がある

 

また、ユニファイドショッピングにおいては、顧客のショッピングジャーニーの全体をしっかりと想定した上で、オンラインとオフラインの両方の空間から効果的にアプローチを進める必要があるとのことです。

具体的な事例としては、ゲーム「Minecraft」とのコラボレーション施策の取り組みが紹介されました。オンラインでは、インフルエンサーを活用したプロモーションを行う一方で、オフラインではゲームになぞらえた「ブロックを積み上げる陳列」を行い、製品のストーリー性を再現していました。こうして、オンライン・オフラインの両方で家族が楽しめる体験を提供し、認知を広げていく取り組みを行ったそうです。

セッション5:ショッピングを魅力的な体験に(Instacart社)

セッション2日前に上場を果たし勢いに乗っている同社は、以下の3点について述べていました。

  • テクノロジーを活用し、ショッピング体験をより良くしていく
    …AIを活用した食品レコメンドツール「Ask Instacart」をはじめ、今後も取り組んでいく
  • 食料品店の未来は、オンラインと店舗がつながった世界になる
    …例えばスマートカート「Caper Cart」は、作成した買い物リストがカートに反映される
  • スマートカートは、リテールメディアとして最適である
    …多くの買い物客の行動データを収集し、パーソナライズした提案を適切に行える

04:スタートアップピッチ

Groceryshop 2023で行われたスタートアップピッチコンテスト「Shark Reef」には、BtoB領域で活躍する12社のスタートアップが参加しました。今回は、第2ラウンドに進んだ6社をご紹介します。

1社目:Bevz

Bevzは、コンビニエンスストアに特化した在庫管理プラットフォームを提供しています。アメリカのコンビニは約7割が小規模店舗ですが、そうした店舗でもBevzのデータベースを利用すれば、効率的に在庫データを管理できます。Uber EatsやDoor Dashなどとも連携しており、オンライン販売による新しい販路の開拓も可能です。

2社目:envelope

envelopeは、セキュリティカメラの映像をAIで解析することで、店舗の棚管理を効率化するシステムを提供しています。品切れの際は従業員に通知を送るため、棚管理の手間が減り生産性が向上。オンラインショップの欠品も防げます。既存の監視カメラも活用できるため、コストを抑えた導入も可能です。

3社目:Guac

Guacは、AIを用いた需要予測ソリューションを提供しています。独自のアルゴリズムを用い、天候や休暇、イベントなど250の外部変数を取り入れることにより、高精度の予測を実現。その結果、食品廃棄を33%削減し、利益率を25%改善させた例が紹介されていました。

4社目:Instock.com

Instock.comは、自動化されたフルフィルメントセンターを、手ごろな価格で提供しています。磁石によって壁や天井など、あらゆる面の移動が可能なロボットを、センターに活用。ブロックのようにモジュールを組み立ててセンターを構築できるため、小規模かつ低コストでの提供が実現しています。

5社目:Luca

Lucaは、AIを活用した価格最適化プラットフォームを提供しています。競合店の価格変更やマクロ経済データ、自社の販売実績や在庫データなど、膨大なデータをAIが分析。商品ごとに最適な価格をAIが導き出し、その根拠や理由も提示されます。そしてそれを踏まえ、最終的にはユーザーが価格設定を行える仕様となっています。

6社目:Swish Brand Experiences

Swish Brand Experiencesは、小売業者のリアルタイムな購買データを活用し、ECサイトの注文内容に適したサンプルを同梱するサービスを提供。ユーザーによるターゲット設定も可能で、効果の高いサンプル配布が可能となります。サンプリングした商品が実際に購入されたか確認し、その投資効果を確認することもできます。

以上6社がピッチを行った結果、Instok.comが審査員賞を受賞。参加者投票ではGuacが1位を獲得し、それぞれアワードが贈られました。審査員賞選定の理由は詳しく説明されていませんが、自動化を導入している倉庫は20% 未満とサービスの需要が大きく、かつ手ごろな価格で顧客間シェアが可能です。そうした独自モデルである点が、評価されたのではないでしょうか。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Yuki Takeuchi

2011年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。大手通信キャリア、OTT事業者向けの営業、Citrix製品の事業推進を経験したあと、ZoomやAsanaなどのエンタープライズ向けSaaSビジネスの事業開発、推進を担当。 2023年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。ITを通して、日本企業の競争力や生産性が上げられるようなソリューションの発掘を目指して日々活動中。 担当領域は、ITインフラ全般、SaaS、Future of Work、Retail Techなど。 サーフィンや登山など体を動かすことが好き。

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