シリコンバレーテクノロジー 2023.10.23

【Webinar記録】5Gの現在地と将来像

「Mobile World Congress in Lasvegas 2023」は、2023年9月25日から28日(米国時間)にかけて、ラスベガスで開催されたイベントです。ウェビナーでは、米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、本イベントに参加し、そのサマリー講演を行いました。

 

イベント概要

このイベントは、移動通信業界の主要団体であるGSMAとCTIAによって主催されました。1987年から開催されているMobile World Congress Barcelonaのラスベガス版であり、今回が2回目の開催となります。このイベントには、エグゼクティブからネットワークオペレーターまで幅広い通信関連の専門家が参加しています。テーマは「Velocity(速度)」となっており、5Gの潜在能力について熱心に議論されました。多くの日本からの参加者も見受けられました。 

全体を通しての気づき

当イベントに参加して気づきとなった点は、以下の3点です。

  1. 周波数帯の開放が大きな課題
    米国における今後の5G展開において、現在1,500MHz程度の割り当てが追加で必要と言われています。しかし、政治的な判断の遅さがその展開のボトルネックとなっています。デジタル化の進展に伴い、現在都市と地方間のインターネット接続環境における格差が拡大しており、これを解消する必要があります。また、中国が急速に5G展開を進めており、米国のモバイルにおけるリーダーシップを脅かす存在になっています。
  2. プライベート5Gの加速
    主要通信事業者は積極的に5Gを展開しています。パブリックな5Gサービスに関しては、T-Mobileがミッドバンドライセンスを獲得し、大規模な展開を行っています。一方、VerizonとAT&Tは企業向け5Gサービスに焦点を当て、商圏を拡大しています。現在の企業ネットワークは、IoTやAIなどのアプリにおいて遅延が課題となっており、これを解決するビジネスについてチャンスが広がっています。
  3. 技術にユースケースがついていけていない
    主要通信事業者は積極的に5Gを展開しています。パブリックな5Gサービスに関しては、T-Mobileがミッドバンドライセンスを獲得し、大規模な展開を行っています。一方、VerizonとAT&Tは企業向け5Gサービスに焦点を当て、商圏を拡大しています。現在の企業ネットワークは、IoTやAIなどのアプリにおいて遅延が課題となっており、これを解決するビジネスについてチャンスが広がっています。

注目セッション

特に興味深かったセッションについて5つピックアップをします。

1. 国内最大、最速、最も信頼性の高い 5Gネットワーク(AT&T)

T-Mobileは、米国で急成長しており、特にホームインターネットにおいて5Gを広く展開しています。競合他社がミリ波の実装に苦戦する中、ミッドバンド周波数を活用して大規模なカバレッジを提供し、利用者から支持を受けています。さらに、5Gの活用を加速するためにスタートアップへの投資を積極的に行い、山火事の予兆検知やMLBと連携したボール&ストライク判定アプリの開発など、成果を上げています。また、F1などにおける臨場感あふれる動画配信など、5G基盤を活用した低遅延および高品質なビデオストリーミング配信でも成功を収めています。8月にはビデオ通話アプリ向けのスライシング・ベータも提供し、大きな反響を呼んでいます。さらに、T-Mobileは、セキュアなネットワークの提供にも取り組んでおり、幅広い分野での5G活用を推進しています。

2. 1,500MHzの周波数を開放する計画

ホワイトハウスでは、国家スペクトラム戦略の策定が進行中です。年末までに1,500MHz以上の周波数特定を目指し、活動しており、高い成果が期待されています。周波数管理にはいくつかの課題があり、政府と民間企業のコミュニケーション不足が指摘されています。現在、民間企業との意見交換を積極的に行っており、その中から「ダイナミック・スペクトラム・テクノロジー」の活用に有意性を見出しています。

3. プライベート5Gの流行。「テストフォース」のローンチ(Verizon)

Verizonは昨年、プライベート5Gの導入実績を積み上げており、今年は10件以上の実用的なユースケースを展開しています。例として国際空港、アメフトのスタジアム、国防総省など向けネットワーク構築を挙げられます。特にヘルスケア分野での可能性が注目され、プライベート5Gを用いて医療機器の連携や患者監視を効率化する取り組みが進行中です。

Verizonは新しい事業の開発に「テストフォース」を導入し、相互運用性、パフォーマンス、セキュリティのテストを行い、オープンランの基盤も組み込む計画です。これらの投資が米国のエコシステムを活性化する一助となることを期待しています。

4. スタジアムへの5G導入が進む。その背景とは?(Boldyn)

スタジアムのネットワーク設計専門のボールドウィン社の講演では、最新のスタジアムサービスとそのネットワーク技術に焦点が当てられました。海外ではスポーツギャンブルが重要な要素で、これに伴う低遅延への要求に5G技術が役立っています。

顧客体験の向上も大切で、モバイルチケットの利用を望む人が76%、スマホアプリ経由で座席で飲食物を注文したいと考える人が78%です。スタジアムでは、doordashなどを通じて座席に飲食物を届けるサービスやAR技術を活用した案内アプリなどが提供され、観客のアクティブな体験を支えています。

5. 6Gの推進には、5Gにおけるインパクトのあるユースケースが必要(InterDigital)

6Gの展望では、製造業で完全なオートメーション、医療で精密手術が可能になり、AIとコンピューティングの統合により自律型デバイスや新しいアプリの開発が進みます。デジタルツインの作成やデジタル格差の解消が容易になります。衛星との直接接続、ブロックチェーンの進化、新しい周波数帯の開発も期待されます。しかし、技術の急速な進化により、具体的な用途がまだ見えていません。そのため、5Gの成功を踏まえて新たな有用なユースケースをよりたくさん考える必要があります。

展示会場の様子

展示会場は広く、多くの企業ブースと国ごとのブース(韓国、イスラエルなど)がありました。アンテナなどの実物展示もあり、非常に興味深いものでした。個室ブースは展示会場内やコンベンションセンターの個室で利用されており、ネットワーキングスペースも提供されていました。セッションはキーノート、個別セッション、およびミニセッションで構成され、多くはプレゼンテーションとパネルディスカッションの組み合わせで行われました。

注目のスタートアップ

Mobile World Congress in Lasvegas 2023では、ピッチコンテストのようなものはありませんでした。今回は、出展企業の中から、私の独断と偏見で10社スタートアップを紹介します。

1社目:Skylo Technologies (衛星通信の活用)

衛星通信とモバイルネットワークを組み合わせる技術を提供します。通信に制約のある地域におけるIoT機器の利用や災害時のテキストメッセージなどのやり取りを可能にします。利用者はSIMを挿し、ファームをインストールするだけで簡単に利用できます。モバイルネットワークと衛星通信をシームレスに統合するユニークなアプローチが特徴です。

2社目:Federated Wireless (5G導入支援サービス)

CBRSを使ったプライベートワイヤレス環境の構築について、導入と運用には特殊な知識と管理が必要です。Federated WirelessはCBRSを活用し、ワイヤレス環境の導入から運用、メンテナンスまでワンストップで提供します。特許取得済のスペクトラムコントローラーを使い、電波の影響を測定し、信号を制御し、接続性を確保します。

3社目:Celona (安価に簡単に導入が可能な5G製品)

CBRS周波数を使用した企業向け5Gワイヤレスソリューションを提供しており、特に企業ITネットワークとの統合、簡素な設定と運用が特徴です。SIM、5Gコア、アンテナ、クラウドベースの管理ソフトウェアを提供し、QoS機能に特許を持つためトラフィックの詳細な制御が可能です。

4社目:DeepSig (機械学習を用いた信号検出技術)

機械学習を駆使し、信号検出を3ミリ秒で実施する技術を有します。この技術は軍事やセキュリティに重要であり、通信事業者も5G基地局のモニタリングに活用できます。ノイズや障害物の反射は通信のパフォーマンスやアンテナのエネルギー効率の低下を招きます。即座に検知し、最適化することで最善の通信環境を維持することができます。

5社目:OneLayer (資産管理をベースとしたセキュリティ)

資産管理に基づくセキュリティを提供し、5G環境でのIoTデバイスのセキュリティリスクを軽減します。デバイスにIDを自動で付与し、フィンガープリントを取得、グルーピングを行い、管理ポリシーを作成・適用します。FWなど携帯電話識別子を認識できない機器と連携し、アクセス制御やゼロトラストのポリシーを適用します。

6社目:Tricentis (モバイルアプリ開発用のテスト環境を提供)

モバイルアプリ開発向けのクラウドベースのテスト環境を提供しており、テストの自動化、管理、分析ツールを提供します。自動化ツールにより、モバイルアプリのテストを効率的に行え、時間短縮が可能です。さまざまなモバイルネットワーク環境を仮想で再現でき、アプリの品質向上に寄与します。

7社目:MATRIXX Software (統合課金プラットフォーム)

従来のBSS(業務支援システム)は高コストかつ柔軟性に欠け、新サービス導入の障壁になっています。MATRIXX Softwareは、顧客タイプ、サービス、支払いモデルに合った課金プラットフォームを提供します。利用者向けのポータルでは、契約情報の表示、変更ができ、顧客体験向上が期待されます。

8社目:Ozmo (カスタマーサポート業務を効率化)

バーチャルデバイスを提供します。コールセンタースタッフは、トラブル対応時やオリエンテーション時にこれを用いてわかりやすくスマホの操作方法を利用客に説明します。さまざまな異なるOSや端末に対応したデバイスを提供できる点が特長です。SMS経由でカメラ起動も可能で、モデムのトラブルや、スマートホーム関連の問題の対応にも役立てることができます。

9社目:Arrcus (可視化と分析に優れたNOS)

NOS(Network OS)、ルートリフレクター、分析ソフトウェアを提供します。高度なネットワーク可視化とAIデータ分析により、ハイジャックやルート漏洩を検知します。プロアクティブにアラートを出すことで、ネットワーク運用者の負荷を軽減します。

10社目:Iquall Networks (通信事業者向けオーケストレーションツール)

マルチベンダー環境におけるオーケストレーションと自動化を行うためのソフトウェアです。コネクタを使用して、30以上のベンダーのネットワーク機器と簡単に接続ができます。接続後、ZTP、ポリシーの一括更新、バックアップ、AIによるトラフィック量予測など、通信事業者のネットワーク運用を効率化する機能が利用可能です。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス(現 双日テックイノベーション)入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USA(現 STech I USA)に赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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