こんにちは、Nissho Electronics USAの小松です。
ロシアワールドカップが盛り上がっていますね。当社オフィスやサンノゼ空港近所にあるアバイヤスタジアムでは、期間中無料パブリックビューイングが行われ、シリコンバレーを構成する多様な人種の方々がそれぞれ自国の応援に熱を出しています。私はというとYouTube TV(月額$35)とChromeスティックを使って、自宅のテレビ画面でのんびり観戦しています。ちなみに2026年に予定されているカナダ、米国、メキシコ3カ国開催では、サンタクララにあるリーバイススタジアムが会場候補に挙がっているようです。
さて、今回は米国で話題の最新映画館サービスを参考に、新規ビジネスで採用されているトレンドモデルについて考察したいと思います。
映画好きにたまらない話題の映画館サービス
皆さまは月額約1,000円で映画館で映画見放題の「MoviePass」というサービスをご存知でしょうか。私はちょっとした衝撃を受けました。理由は単純ですが、米国では映画チケット1枚約1,000円程度、単純計算で仮に1カ月毎日観た場合約30,000円となり、実に29,000円ものお得です。しかもMoviePass側は、映画館側に正規のチケット料金を払っているというから驚きです。
もちろん条件はありますが、何となく加入してみようかな、どのようなビジネスモデルなんだろうと思っていたら、つい最近「AMC Stubs A-List」という類似の新サービスがリリースされました。似たサービスがリリースされるということはそれなりにビジネスポテンシャルが期待されているはずですので、サービス内容を比較してみました。
どちらも一長一短はありますが、いくつかの条件を考慮しても、映画好きにはたまらないサービスではないでしょうか。では、この驚きのサービスがどのようなビジネスモデルで成り立っているのか、3つのポイントから考察していきたいと思います。
1. サブスクリプション型で売上安定
1つ目はサブスクリプション型モデル、いわゆる期間に応じた定額サービスを導入しています。
同サービスの良いところは、サービス提供側は定期的に安定した収入が得られ、将来の売上予測を立てやすい点、一方サービス受領側は、一括買い取りではないので、初期投資を抑えてサービス加入が出来るという点、不都合が起きるようなら解約することも可能です。
サブスクリプション型は、本映画館ビジネスに限らず、既に様々な場面で活用されているモデルなので、読者の皆さまも何かしらの場面で活用しているモデルではないでしょうか。SaaS企業等クラウドサービスとの親和性も非常に高いですし、そう呼ばれずとも例えば、昔からある新聞配達サービスもある意味サブスクリプション型と言えます。
ただし、このモデルは短期決戦ではなく、中長期的に収益を上げていくモデルなので、他にも導入理由がありそうです。では、2つ目は何でしょうか。
2. ビッグデータアナリティクスで付加価値提供
2つ目はデータの収益化です。
米国に限らず、日本でもそのようですが、通常映画館に足を運んで映画を観ても、映画館側は、「誰が」「いつ」「どこで」「どのような」映画を「どのくらいの頻度で」見たか等、分析できていないようです。今回取り上げた映画館サービスは、スマートデバイスと連携します。今やほとんどどのサービスもスマートデバイスと連携していますので、それらデバイスから得られる上記情報は非常に大きな価値を生み出します。
例えば、MoviePassは、Helios and Matheson Analyticsというデータ企業に大半の株式を売却し、データをマーケティングツールとして利用することで収益を生み出すモデルを取り入れています。映画館に限らず、映画配給会社やディストリビューターからすると、これらの情報を自社サービスに適用し、更なる収益化を図るには貴重な情報です。
AMC Stubs A-Listはリリースされたばかりでまだ十分な情報は得られていませんが、AMC社自身でデータを収益化する何かしらのアイディアを持ち合わせていると考えられます。もちろん、データの取り扱いには慎重になる必要がありますが、データをお金にかえるという考え方はもはや映画館業界にも訪れているのです。
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昨今データの価値がより高まっていることは間違いなく、何となくビジネスとして成立するのかも?という兆しが見えてきたところですが、ここで3つ目の考察ポイントであるレベニューシェアに触れたいと思います。
3. 派生ビジネスからのレベニューシェア
3つ目は筆者の推測が一部入っていますが、レベニューシェアが大事な役割を担います。
MoviePassのビジネスモデルを調査していると、MoviePassによる映画館訪問者数が急上昇することによって、併設する売店の売上が約倍(1人あたりの平均支払い金額が倍)になったようです。映画館側からすると、来場者も増えて正規のチケット収入が入る上に、売店の売上も増えるので、同サービスを採用しない手はありません。そうすると、映画館や売店は損をしてい
ないわけですから、例えばMoviePass側にその一部をシェアしてもいいかもという考え方が生まれてもおかしくありません。レベニューシェア型のエコシステムです。
今やあらゆる業界でエコシステムが取り入れられていますが、うわべだけのエコシステムも多い中このようなモデルこそお互いがWin-Winの関係性を構築してくれます。参考にすべき素晴らしいモデルです。
推察も含めてビジネスモデルを3つ挙げましたが、今回取り上げた映画館サービスは、複数の収益機会を一度に創出することでビジネスとして成立しているのだと考えられます。
新たなビジネスモデルは既存ビジネスの敵か味方か?
結論を先に述べるとどちらでもあります。
ライドシェアのUberが従来のタクシービジネスを破壊しうる存在であるように、新たなビジネスモデルは既存ビジネスにマイナスの影響を与えることは少なくありません。だからこそ日々新たなアイディアをひねり出して事業継続を行うわけです。
一方、今回取り上げたサービスのリリース背景には、NetflixやHuluのようにインターネットを利用したストリーミング映画サービスの発展により、映画館に足を運ばなくなったユーザを再び引き寄せ、それにより売上が低迷する映画館の再生支援を促進するという狙いがあり、既存ビジネスにプラスの影響を与えているわけです。
おわりに
米国シリコンバレーでは、日々新しい企業やサービスが立ち上がっては消えの繰り返しです。今回取り上げたサービスのようにおもしろいビジネスモデルもたくさんあります。テクノロジーのみならず、ビジネスモデルにも着目しながらそれら企業やサービスと接点をもつことで、より広がりのある情報収集ができると思います。
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