2023年1月、NRF(全米小売業協会)主催の国際展示会「NRF 2023」が、アメリカ・ニューヨークにて開催されました。本展示会は世界最大級のリテールテック展示会として注目されています。本ウェビナーでは、「NRF 2023」に参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬が、注目セッションやスタートアップを解説しました。
イベント概要
概要は上記画像の通りです。小売業界の方にとっては、世界最大のテクノロジー展「CES」に参加した後、この「NRF」に参加し、最後にニューヨークの各種店舗見学をするのが通例となっているようです。今年のNRFでも、主催側がニューヨークの店舗見学ツアーを別料金で提供していました。なお会場では、2024年にはシンガポールにてNRFを開催することが発表されました。
Key Findings
今回、「NRF 2023」に参加して得られた3つの気付きをご紹介します。
- アフターコロナにおける店舗の活用方法の進化
「ファイナンシャルインクルージョン」は、ラテンアメリカやアフリカなどの地域的な要因や、貧困などの要因で、金融サービスの利用率が低い人たちに対して金融サービスの利用ハードルを下げる取り組みです。フィンテック企業は、裾野を広げることで収益向上を狙います。金融業界では各国の規制の違いなどから、グローバル化は容易ではなく、ローカルルールに即したカスタマイズが一般的に行われています。ローカルのニーズに即したサービスが続々とリリースされています。 - 続くリテールメディアへの注目
リテールメディアには引き続き注目が集まっており、多くの小売業者が挑戦していた。リテールメディアとは小売業者が展開するメディアで、会員情報をベースにパーソナライズしたオンライン広告や、店舗での買い物時に提示するディスプレイ広告などを指す。リテールメディアを通して集めた行動データを、従業員の生産性向上に活用する取り組みもあった。 - サステナビリティの実現はサプライチェーン全体で
サステナビリティは、サプライチェーン全体で実行していくことで、より強力な推進力が得られる。また、その取り組みを消費者にアピールすることも非常に重要となっている。そのアピール事例も、以下注目セッションのなかで紹介する。
注目セッション
今回のイベントでは、合計で175以上のセッションが行われました。そのうち、注目したセッションを5つご紹介します。
1社目:Target(ターゲット)
Target社は、優れた戦略を実行していることで知られる、米国の大手スーパー企業だ。その戦略として、店舗内にDisneyやアルタビューティーなどのショップを配置する「Shop In Shop」がある。「Shop In Shop」は集客効果を高め、顧客体験を向上させる。さらに、安価で高品質な自社のPBを展開することで品揃え戦略を完成させ、顧客満足度を高めている。
また、店舗やカーブサイド(駐車場)において、返品や店舗内のスターバックスのコーヒーの受け取りができるサービスを拡張しており、全店舗へ広げようと注力している。サステナビリティの観点では、2022年11月に、事業用電力を再生可能エネルギーで100%まかなうモデル店舗のテストを行った。この店舗は倉庫が充実しており、95%のオンライン注文に対し、店舗在庫から提供できるのが特長。
2社目:Petco(ペトコ)
コロナ禍により爆発的なペットブームが起きた米国だが、Petco社の調査では、飼い主の約半分はペットの飼い方をよく理解しておらず、ワンストップショップを求めていることがわかった。同社CEOのRon氏は自社をヘルス&ウェルネス事業者と位置づけ、さまざまなサービスを再定義した。例えば、検査や健康管理などが含まれるバイタルケアプログラムのサブスクサービスを提供開始。その一環として、飼い主のショッピングデータに基づいたリコメンデーションも行っている。コロナ期間中にわずか6週間で、カーブサイドピックアップや配送サービスの仕組みも構築し、積極的にデジタル活用を行っている。
3社目:Lawes(ロウズ)
ホームセンター事業を展開している同社は、全米に2,200の店舗をもっている。その年の小売業界のリーダーにおくられる「The Visionary賞」も受賞した。ロウズの「イノベーションラボ」の取り組みとして、NVIDIA社と協力し仮想環境上に店舗のデジタルツインを作成。IoTセンサーなどから送られてくる在庫状況などのリアルタイムな情報を、仮想環境上の店舗に反映させている。デジタルツインの活用により、1,000個のシナリオに沿ったシミュレーションを一晩で完了可能。また、センサーから得られたデータをまとまったアウトプットとして見ることで、気付きも増えたとのこと。
4社目:リテールメディア関連企業
米国のリテールメディアは、今年450億ドルの市場規模になると予想されており、成長率は20%弱。これについて、関連企業が意見を述べた。
Albertsons(アルバートソンズ)社…現時点で、店舗内(オフライン)の広告は60%ほどある。ただし、その中でリテールメディア化された広告は、数%程度。今後はリテールメディア化された広告の量を増やしていき、10~15%にしていきたい。
Nordstroam(ノードストローム)社…リテールメディアを効果的に運用するには、データの統合が必要。しかし実際の現場では、データがサイロ化されており、統合が難しいことが問題となっている。異なる文脈のデータの統合を、トライアンドエラーを繰り返しながら統合している。
両社に通じる結論…店舗が真に豊かな物理的デジタル体験を提供するには、リテールメディアがあるだけでは足りない。リテールメディアを通して得た情報を活用し、店員のパフォーマンス監視や生産性の向上につなげることが必要である。
5社目:サステナビリティ戦略を実行している企業
企業のサステナビリティ戦略に助言を行っているGlobescan(グローブスキャン)社の調査では、コロナ禍以降、31か国約3万人のうち、80%の人が購入時にサステナビリティを考慮している。その一方で、消費者の得られる情報は限られている。
L’Oreal(ロレアル)社Chief Sustenability Officer(CSO):委託工場に、他ブランドからのサステナビリティに関する要望をヒアリングし、それを自社工場の改善に生かしている。例えば、自社工場における水と電力の使用を減らしつつも、これまでと同等の製品品質を保てるような研究開発を行った。
LEVI’S(リーバイス)社:商品素材の見直しを中心とした取り組みを行い、キャンペーン「Buy Better, Wear Longer(良いものを、長く着よう)」を実施。耐久性の高い自社ジーンズの特性と同時に、生産工程で水の排出を抑える取り組みをアピールした。
展示会場の様子
昨年の展示会場は、コロナウイルスのオミクロン株の影響で、非常に閑散としていた。それに対し、今年は非常に盛り上がっており、特に大手企業の展示会場ではMicrosoft社のブースが印象的だった。Microsoft社は自社のサービスを紹介するだけでなく、自社スペースを6~7割を提携スタートアップに提供。各種スタートアップはそのスペース内にブースを構え、自社の製品を説明していた。
そのポートフォリオは非常に網羅性が高く、実績十分なスタートアップもあり、現実的な取引先候補になってくれそうな印象を受けた。一方でAmazon社は、自社開発サービスの「Just Walk Out」や「Dash Cart」、「Amazon One」を紹介。Google社も、基本的に自社のAIサービスをPRしていた。
スタートアップ企業の展示会場では、アイディアに富んだ展示が多くみられた。わかりやすいデジタル棚札や、省スペースのフルフィルメントセンター、RFIDの活用例など、さまざまなアイデアが紹介されていた。
なお、会場には「イノベーションラボ」と称したスペースが設けられており、そこでは将来性が期待される最新技術が展示されていた。展示企業の一部は、以下「注目スタートアップ」でも説明していく。
注目スタートアップ
インストアテックとEコマース関係を中心に、展示企業のなかで注目したスタートアップをご紹介します。NRFにはスタートアップピッチのようなコンテンツがなかったため、普段より多めに10社取り上げました。
1社目:Spacee(スペイシー)
コンピュータービジョンとAIによる画像解析を行う製品を開発している。今回は、小売事業者向けに開発を行ったDeming(デミング)を発表。Demingは、商品棚などにレールを設置し、20~30分おきにカメラがレールをスライドをしながら商品棚を撮影する。こうして、商品棚の在庫状況をリアルタイムに把握できる。
2社目:NewStore(ニューストア)
POS処理や注文管理、配送手配や在庫管理などの店舗業務を、スマホ1台で完結できるソフトウェアを提供。高額なPOSシステムを用意する必要がないため、コスト的に小規模な店舗には最適。得られた各種データはAWS上で管理され、AWSではマイクロサービスが稼働しているため、店舗の拡張対応にも優れている。ERPなどのシステムとも、簡単にAPI連携が可能。顧客向けのアプリでは、従業員とチャットしたり、顧客が近づいた時にアラートを上げたりすることもできる。
3社目:Verkada(バーカダ)
主に監視カメラとソフトウェアを提供している。監視カメラの映像をAIを用いて分析し、トラブルや盗難を検出、リアルタイムに管理者へと通知する。今回、このサービスを小売事業者向けに機能拡張した。従業員の入退出の管理・制御、従業員の最適配置の分析、管理者への商品入荷通知などが可能。2022年9月には、Sequoia Capital他から約$205Mの大型資金調達を達成している。
4社目:Proto(プロト)
遠隔での打合せやイベント参加、接客などに活用できる3Dホログラムの装置を提供。「Epic」は、人間を箱の中に3Dかつ4Kの解像度で映し出すことができ、リアルタイムでインタラクティブなコミュニケーションも可能。「Mシリーズ」は小型の投影機器で、店舗のショーケースなどでインパクトのある商品展示が可能。どちらもタッチパネルであるため、スワイプで商品が回転したり、メニューを表示し商品の詳細を表示したりできる。CES / SXSWなどでの受賞歴も多数。AT&T社と協力し、コンサート会場やスポーツジムにホログラム技術を紹介している。
5社目:Netlify(ネットリファイ)
同社では、サーバーレスのホスティングプラットフォームを提供。プラットフォーム上でウェブのフロントエンドを簡単に構築できる。レビュー機能、テスト機能がすでに実装されており、開発者の負担も減らせる。さまざまなAPIをサポートしており、バックエンドとのつなぎこみも容易。現在200万人以上の開発者が利用しており、日本でもコミュニティや関連書籍が展開されている。
6社目:Labelbox(ラベルボックス)
AIを活用し、画像などの非構造化データにラベリングを行う製品を開発。Eコマースサイトにおけるリコメンデーションエンジンを構築している。AIが利用者の好みを分析し、商品を提案することで、オンライン上でのエンゲージメント向上に貢献できる。またラベリングにより、商品検索などサイト運用の負担を軽減できる。会話型AIアプリも提供しており、顧客との自然な会話や商品の提案が可能。
7社目:Amperity(アンぺリティ)
リテールメディアで利用されるCDP(顧客データプラットフォーム)を提供。CDPとは、分散している顧客データを統合し管理する仕組みのこと。同社は、データを構成する技術において8つの特許を持っており、その多くが、類似製品にありがちな「誤ったデータ統合」を防ぐためのもの。データをそのままの状態で、迅速にかつ正確に取り込めるのが強み。リアルタイムで取り込むため、顧客プロファイルを常に最新の状態に維持できる。なお検索条件の入力は、SQL・GUIの両方から可能。
8社目:RightHand Robotics(ライトハンドロボティクス)
高度なAIとインテリジェントなグリッパー、画像解析技術を組み合わせたロボットアームを提供。小売店舗や倉庫における、商品のピッキングや仕分け作業を自動化できる。カメラによる画像解析技術により、ラインに流れてくる商品をどのように掴むかという判断を瞬時に行えるため、商品を安定した状態で梱包先に運べる。機械学習により、使用に応じて精度を高めることができる。
9社目:Stord(ストアード)
自社倉庫に加え、400を超える倉庫パートナーや約15,000の運送業者と独自のネットワークを構築。各ブランドにとって、最も安価かつ確実な配送方法を提案する。さらに米国全域において、注文から2日以内での発送を保証している。倉庫への入荷時にすべての商品のスキャニングを徹底しており、クラウド上で正確な追跡が可能となっている。
10社目:Nuro(ニューロ)
同社はすでに、著名なラストマイルデリバリー企業だが、最新型の自動運転ロボの積載量を増やし、より安全性を高める機能を追加した。同社はGoogleの自動運転車(現:Waymo/ウェイモ)の開発メンバーが立ち上げた企業で、カリフォルニア州から最初に商業展開の許可を得た会社となっている。赤外線センサーLiDARなどを搭載し、障害物をよけながらラストマイルデリバリーを行う。すでにWalmartやKrogerなどのスーパーや、UberEatsと提携中。
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