こんにちは、Nissho Electronics USAの小松です。
皆さまは、トラフィックブレーキという言葉をご存知でしょうか。先日、高速道路を運転してましたら、どこからともなく突然パトカーが前方に表れ、先頭で突如減速、高速道路を右から左に蛇行運転しはじめました。突然の出来事に恐ろしさすら覚え、私は進路をすぐさま出口へと変えてしまいましたが、実はこれがトラフィックブレーキという交通規制だったということを後で知りました。前方道路上の大きな障害物や事故を運転手に知らせ減速させるための手段であり、比較的日常茶飯事の出来事のようです。米国ご出張時等に突然の出来事に驚かれないように参考になればと。
さて、今回は、3月下旬に開催されたOCP(Open Compute Project)Summit2018の現地レポートをお届けします。データセンターに関わる皆さまは耳にされたことがあるかもしれません。
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4000以上のエンジニア、300以上のテクノロジーで構成されるOCP
2011年にFacebook社を中心に立ち上がったOCPは、ハードウェアのオープン仕様化を図り、コスト効率やパフォーマンスに優れたデータセンター設計やコンポーネント(ハードウェア/ソフトウェア)の在り方を議論するプロジェクトです。コンポーネント供給会社目線ではなく、ユーザ目線で最適なデータセンターをいちから作ってみようというのがコンセプトです。サーバ、ストレージ、ネットワーク、ASIC、HDD/SSD、Optics、NIC、電源、FAN/クーリングシステム、ラック等、あらゆるものをユーザ自ら設計し、まさにプラモデルのようにそれらを組み立てていきます。また、オープン仕様にすることで技術レベルの標準化を図り、誰もが関わりやすく、採用しやすくするというのも狙いの1つです。
2020年のビジネス規模は約6000億円
今回は、「OCPがビジネスとして成立するのか?」「ビジネス的に大きな可能性はあるのか?」という内容が大きなテーマの1つでした。もちろんOCPはユーザの関与を促進したいため、答えは「YES」ということになりますが、ビジネス規模予想を見ても2020年には約6000億円、年平均成長率は約60%と非常に大きな市場が期待されています。
先導するのは、やはりFacebook社やGoogle社のようなハイパースケール企業が主体となりますが、将来的には通信事業者やサービスプロバイダがビジネスの中心になると予測されています。
AIやMachine LearningがOCP採用を加速させる
OCP採用は、AIやMachine Learningの台頭でより活発になっていきます。過去に物理サーバから仮想サーバへ市場がシフトした際、データセンター内部でのトラフィック処理速度やキャパシティが大きく求められたのと同様に、IoTやAR/VR等のテクノロジー進化に伴い、今まで以上にデータセンター内部でのトラフィック処理や高いパフォーマンスが求められます。AIやMachine Learningは製造業からヘルスケア、流通業界等、複数業界で利用事例が増えており、データセンターの位置付けもより重要になります。
OCPをユーザが選択する主な理由として、コスト削減や電源効率向上、技術仕様の標準化が挙げられます。今後トレンドとなるテクノロジーに適応させていくためには、高額で信頼性の高い、大手や老舗のベンダー製品のみならず、よりコスト効率に秀でたオープン仕様のコンポーネントの採用も欠かすことができなくなるはずです。ビジネス的には、サーバまわり、ネットワークまわり、続いてラック/電源まわりの順に市場の盛り上がりを見せていくことになるでしょう。
話題はハードウェアセキュリティとSSD新アーキテクチャに
大手Microsoft社が近年積極的に投資を進めている分野が、『Carberus』と『Denali』プロジェクトです。2014年よりOCPメンバー入りしたMicrosoft社は、当時自社データセンター仕様を公開して話題になりました。AzureサービスのインフラにもOCP仕様を数多く取り入れていることでも知られています。
Carberusは、チップセキュリティ仕様の標準化を進めるプロジェクトです。FirewallやIDP/IPSの類ではなく、基盤であるチップ自体のセキュリティを指さします。Hardware Root-of-Trustに則り、利用しているソフトウェアが信頼できるものであることを担保する仕組みを持ったコンピューティング基盤としてチップ仕様の標準化が進められています。
Denaliは、フラッシュストレージ/SSDの新たな仕様、いわゆる次世代SSDの標準化を進めるプロジェクトです。SSDの仕様においてもディスアグリゲーション(分離・分割)化が推進されており、次世代SSDはSoftware Defined SSDとも呼ばれております。Directモデル、もしくはOffloadモデルがあり、前者はホストとSSD Media Driveで機能を分割、後者はホストとSSD MediaDriveの間にSoCやFPGAをはさみパフォーマンスを最大化する仕様を指します。
チップメーカやSSDメーカは上記のような仕様に則り開発を進め、OEM/ODM等の提供形態を通して新たなビジネスとして販売する、という流れになっていきます。
Linux FoundationがOCPと新たにタッグ
SDNとNFVの普及を目指して、OCPとLinux Foundationが新たにタッグを組んだこともアップデートの1つです。Linux Foundationは、Linux OSの普及を促進するプロジェクトとして有名ですが、恐らく世の中で最も利用されているオープンソースソフトウェアがLinuxでしょう。サーバに始まり、例えば、ゲーム機であるプレイステーション、さらには流行りのブロックチェーン『Hyperledger Program』に至るまで幅広く活用されています。
Facebook、BigSwitch、Google社による具体的なLinux連携事例も挙げられました。
Facebook社は、自社主導で開発したWedgeシリーズハードウェアとOpen/Rソフトウェアを組み合わせ利用し、BigSwitch社は、アクトンテクノロジ製ハードウェアにOSS(BGP)を実装し利用しています。Google社は、非公開ながらもLinuxベースのハードウェアにStratumとよばれるSDNスイッチングソフトウェアを実装して利用することを検討しています。ソフトウェアに強いLinux Foundationとハードウェアに強いOCPが相乗効果を発揮し、どれほど利用効率の高いシステム基盤を構築していくかは非常に楽しみです。
Opticsのオンボード化が進む
ネットワークスイッチ大手のArista社が参加するプロジェクトは、“Co-Packaged Optics”という考え方を提言しています。サーバやネットワークスイッチが対象になりますが、従来の挿抜可能なPluggable Opticsから、Opticsの配置がどんどんI/Oボード上へ移動していくことで、低消費電力、コストアドバンテージや信頼性向上につながるというものです。
“Co-Packaged Optics”はまだまだ始まったばかりですが、既にPluggableとCo-Packagedタイプの中間に位置するCOBO(Consortium for On-Board Optics)プロジェクトでは活発な動きが進んでおり、協賛各社のプロダクトアーキテクチャも徐々に変容を見せていくかもしれません。
常に大盛況のFacebookブース
以前寄稿したTIPプロジェクトもそうですが、OCP立役者のFacebookブースはいつ訪れても大盛況でした。
関連記事:Facebook社発案、TIP (Telecom Infra Project)2017 現地レポート
中でも特に注目を浴びていた目玉が、『Fabric Aggregator』と呼ばれる同社の各データセンター間のネットワークを接続するための新レイヤー用スイッチです。1ラックまるまる専用する程の特大スイッチです。
見た目通りの広帯域のパフォーマンスはもちろんですが、ディスアグリゲーションモデルを採用することで、グローバルに抜けていくトラフィックを処理するUpstream用スイッチ群と、データセンター内を流れるトラフィックを処理するDownstream用スイッチ群の2レイヤーで構成されているため、障害ポイント等も細かく分割できることが特徴の1つです。
といいつつ、なかなかここまでの規模を実現するインフラは少ないと思いますので、皆さま興味本位のブース訪問が主だったのではと思います。
おわりに
今回は、OCPに関する寄稿をさせて頂きましたがいかがでしたでしょうか。国や地域に差はあれど、徐々にOCPにビジネスの兆しが見えてきているというのが現状です。一方、いずれのプロジェクトもそうですが、より採用が進むにつれて、細かな課題が浮き彫りになっていくのも事実です。当社は引き続きオープンソースという観点で技術着目しながら、ご興味を持たれるお客様の助言や技術サポートがかなうよう日々努力を続けていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。Nissho Electronics USAではシリコンバレーから旬な最新情報を提供しています。 こんなことを調べてほしい!などございましたら問い合わせページよりぜひご連絡ください。