2025年1月7日~10日(米国時間)に、ラスベガスにて「CES 2025」が開催されました。
今回のCES 2025でも、非常に多くの最新技術が紹介されました。なかでも注目したいのは、ロボットや車などの制御に必要なアクショントークンをAIが考える「フィジカルAI」と「エージェンティックAI」です。
本記事では、プレスカンファレンス(記者発表)、キーノート、さらには展示会場の様子や、注目のスタートアップ6社についてまとめました。
LG、John Deer、トヨタ自動車、SONYのプレスカンファレンス
LG:Affectionate Intelligenceを実。AIをより人間的で共感的なものにする
LGは、「Life’s Good」のテーマのもと、「Affectionate Intelligence」のコンセプトに基づいたスマートホーム関連の製品を発表しました。「Affectionate Intelligence」は、感情に寄り添う知能を意味します。
LGは、170種類以上のIoTデバイスとの多様な接続をサポートする技術「Athom」を買収により取得しました。さらに、自社開発のAI基盤「FURON」と組み合わせることで、同社が目指す「ゼロ労力ホーム」および「パーソナライゼーション」の実現を図ります。
具体的には、利用者のアレルギーに応じて設定を変更できる洗濯機、音声による利用者識別や設定の最適化、コンテンツリコメンド機能を備えたテレビ、運転手とインタラクティブな会話が可能なインキャビン技術などが発表されました。
John Deer:自律走行技術を通じて、作業効率の向上、コスト削減、安全性を確保
従業員の高齢化や人手不足が深刻化する農業・果樹園の分野、そして、安全性が重要視される炭鉱・造園の分野において、自律運転車両の技術開発にJohn Deerは注力しています。
John Deerの農業車両には多数のカメラが搭載されており、車両の周囲24mを撮影できます。エッジで画像認識処理を行い、そのデータを自律運転のナビゲーションに活用しています。果樹園で利用される車両は農業車両よりもやや小型です。従来のGPSベースの自律運転車両では、木が密集した果樹園ではうまく機能しないことがありましたが、John DeerのカメラとLiDARベースの高度な障害物検知および経路ナビゲーション機能により、果樹園のニーズに対応しています。
また、炭鉱はJohn Deerにとって新たな分野です。安全性と正確性を重視した360度ビューや、動的な経路調整機能を搭載したADT(アーティキュレートダンプトラック)をリリースしました。
最後に、造園における芝刈り車両の開発についても発表されました。この車両には360度ビュー機能に加え、EV化による静音性と低排出ガスという特長があります。
トヨタ:Woven Cityのフェーズ1が完了。新しいアイデアの創出と実現の場
第二フェーズでは、実生活の中で開発を進める「Living Lab」の取り組みを強化し、2,000名の従業員やパートナーが居住する予定です。
研究内容は多岐にわたり、車いす用レースカーの開発、人をエスコートするドローン、ペットロボット、空飛ぶ長距離移動用車両(Jobyとの連携)、自律運転車やレースカーの開発、都市のデジタルツイン化などが含まれます。また、フィジカルAIの開発にも積極的に取り組んでいます。
SONY:テクノロジーとクリエイティブの融合、「感動」をテーマにした未来のエンタメ
自動車の分野では、「AFEELA 1」の販売開始が発表されました。参考までに、価格は89,900ドル(約1,420万円)からとなっています。
「トイ・ストーリー・ファンデー・フットボール」は、ディズニーやESPNと共同で企画されたプロジェクトです。SONYの画像処理技術を活用し、リアルタイムでアメフト選手の動きをキャプチャし、アニメーション化することで、視聴者がアニメの世界観でアメフトの試合を観戦できる仕組みとなっています。
また、クリエイター向けの技術も多数発表されました。映画制作時のリアルなドライビングシーンを撮影するためのシステム「PXO AKIRA」、3D CGの動画作成を簡単にする「XYN」、そしてAIを組み込んだ関連映像編集ソフトウェアが発表され、スムーズで簡単な動画編集をサポートします。
NVIDIA、パナソニック、デルタ、アクセンチュア、Waymoのキーノート
CES 2025では、7社がキーノートを実施しました。今回は、その中から話題となった5つのキーノートをピックアップし、まとめます。
NVIDIA:フィジカルAI、エージェンティックAIを実現する画期的な開発環境を提供
Cosmosは、WFM(World Foundation Model)で生成されたシミュレーションシナリオをもとに、高精度のビデオ生成を行うツールです。生成されたビデオは、フィジカルAIの構築に必要な合成データとして活用され、現実世界のデータ収集を補完する役割を果たします。
エージェンティックAIは、従来の生成AIとは異なり、意思決定を行う点が特徴です。つまり、AIが自律的に認識、推論、計画、行動を実行します。NVIDIAの「ブループリント」を使用することで、開発者はAIエージェントを簡単に構築・展開できます。
また、講演ではエージェンティックAIにおけるテストタイムスケーリング技術の重要性についても語られました。テストタイムスケーリングを活用するAIは、複数の解を生成して比較したり、ステップを遡って考え直したりすることで、より高精度なAIの構築が可能になります。
パナソニック:EVバッテリー事業、ゼロエミッション工場、家族向けコミュニケーション基盤を発表
サステナビリティの領域では、すでに44の製造拠点でゼロエミッションを達成しています。さらに、世界初となる水素をエネルギー源とする工場を設立し、海外展開にも力を入れています。工場だけでなく、オフィス環境のゼロエミッション化にも取り組んでいます。
EV領域では、Redwood Materialsと協力し、バッテリーのリサイクル事業の構築に注力しています。使用済みのスクラップからバッテリーの素材を分類・抽出し、再利用を可能にするプラットフォームの開発・推進を進めています。
ホーム領域では、家族をつなぐコミュニケーションツール「UMI」を発表しました。このツールは、米国でAge Techを推進するAARPコンソーシアムからも注目を集めています。
デルタ:デルタ航空100周年、顧客体験の拡張、航空技術の進化
デルタは、AI搭載のパーソナルアシスタント「Delta Concierge」を発表しました。この機能は自社アプリに組み込まれており、アプリを通じて搭乗時間やゲートへの道順を案内してくれます。
Delta Syncは、機内サービスの総称です。利用客にパーソナライズされたコンテンツを座席の液晶画面で提供するほか、乗客のジェットラグを緩和する特殊なライティングを提供する機能も含まれています。
さらに、JobyやUberとの連携も発表されました。Uberとの提携では、空港までの送迎時やUber Eats利用時にマイルを獲得できるほか、Uberアプリ内で飛行機の出発時刻や到着予定時刻をリアルタイムに確認できるようになります。
アクセンチュア:エージェンティックAIとフィジカルAI両方をNVIDIAと共同開発
アクセンチュアの「AI Refinery for Industry」は、AIエージェントを簡単に構築できるサービス基盤です。たとえば、マーケティング目的のAIエージェントを活用すると、競合他社の分析や自社キャンペーンとの競合有無をわずか数時間で分析できます。アクセンチュアは、2月末までに12のエージェントを立ち上げ、年末までに100まで拡大する計画を発表しました。
また、NVIDIAおよび倉庫のマテリアルハンドリング機器メーカーと共同で、倉庫のデジタルツインを構築しています。これにより、効率的な倉庫レイアウトの設計だけでなく、倉庫ロボットが需要や在庫の変化に応じて自動的に学習し、動作を最適化することが可能になります。
Waymo:自動運転サービスWaymoの飛躍
利用の定着が進んでおり、サンフランシスコ市内ではLyftとほぼ同じシェアにまで到達しています。
自動運転の安全性については、実運用上かなり改善が進んでおり、すでに人間のドライバーを上回る性能を発揮しています。
今後の計画として、以下の点が挙げられていました。
- 車両数の増強:現在のジャガーに加え、ZEEKRやHyundaiの車両を追加で採用
- Uberとの提携
- 米国全土および東京を皮切りに国際展開:日本では日本交通やGOと連携
- 配送や個人用車両への技術組み込み
展示会場の様子
LVCC Central (主に大企業の出展)
- LGの展示は、今年も圧倒的なスケールで注目を集めました。728個の可動型LEDブロックを使ったダイナミックな演出が特徴的でした。また、奥には昨年話題となった透明OLEDテレビを28台組み合わせた円柱型ディスプレイが設置され、参加者の関心を引いていました。
- サムスンブースでは、最先端のアートテレビや各種家電がメインで展示されました。特に注目を集めていたのは、新たな取り組みとして発表された船舶の操縦アシスト機能でした。そのほか、ホテルなどの滞在先で家電の設定をパーソナライズする機能も紹介されました。
- SONYブースでは、新たな映像制作プラットフォーム「PXO AKIRA」を展示。実物の車両や航空機の動きをリアルに360度、自由な角度で映像化することが可能な技術です。
- 同じくSONYブースでは、ヘッドセットやMocopi(モーションセンサー)を活用し、センサーの情報をもとにリアルタイムで映像に動作を反映できるソフトウェアや、AIを活用した映像編集ソフトウェアが展示されていました。
LVCC North (スマートホーム、IoT、AI、サステナビリティ)
- 3Mのデータセンター向け製品が展示されていました。ケーブルや熱伝導シートのような小型部品から、自家発電装置といった大規模な設備まで、幅広い製品を取り扱っています。
- 3Mが投資するスタートアップ「EVOLOH」の製品として、水を電気分解して水素を生成する電解槽が紹介されました。従来の電解槽とは異なり、希少金属を使用しないことで製造コストを抑え、さらにメンテナンスのしやすさも向上させています。
- Abbottは、腕に装着する小型バイオセンサー「Lingo」を展示しました。スマートフォンのアプリと連携し、リアルタイムに血糖値を測定し、その変動を分析できます。また、食事(制限だけでなくタイミングや組み合わせ)、ライフスタイル、運動に関するパーソナライズされたアドバイスを提供してくれます。
LVCC West (自動車関連)
- John Deerは、大型の農業車両の実物を展示しました。
- Waymoは、第六世代の新型車両を展示しました。この新型車両は、13台のカメラ、4台のLiDAR、6台のレーダーを搭載し、最大500m先まで検知可能なセンサー技術を採用しています。また、従来のジャガーに加え、新たに中国の自動車メーカーZEEKRやHyundaiの車両もラインナップに加わり、展示されていました。
- コマツは、今回がCES初出展となります。展示では、月面建設機械や水中施工ロボットのモックアップが紹介されました。特に、月面建設機械にはNASAとの共同研究に基づく技術が反映されているとのことです。
Venetian Hall A-D (デジタルヘルスほか)
- KOSEは、東京エレクトロンデバイスと共同開発したプロジェクションマッピングを用いたMRメイク技術を展示しました。この技術は、デジタルネイティブであるZ世代に新しい顧客体験を提供することを目的に開発されました。短時間でメイクの試し塗りができるだけでなく、直接肌に塗布しないため衛生的である点も特徴です。
- Vivooのブースでは、検尿による健康管理ツールキットが紹介されました。日本での展開を担当する大塚製薬の担当者が説明を行い、日本市場におけるサービス展開の課題や苦労についての話を聞くことができました。
Eureka Park (スタートアップ)
- 39か国、約1,400社がホール内にひしめき合い、活気あふれる展示会となっていました。
- 日本企業の展示では、31社がJETROブースに出展しました。特に注目を集めたのは、歩行時のパワーアシスト機能を搭載した義足を製造・販売するBionicM社で、Best of Innovation Awardを受賞しました。
- 例年通り、フランスや韓国は大規模なブースを展開しました。特に韓国は、過去最大規模の出展となり、K-Startup統合館だけで127社が出展していました。
注目スタートアップ6社
1. Exeger
Powerfoyle™は、あらゆる光を電力に変換する革新的な太陽電池技術であり、開発・製造が進められています。特殊なシートが屋内外の光を効率的に電力へ変換し、持続可能なエネルギー供給を実現します。この技術は、充電の手間を軽減することを目的に、ヘッドフォンやリモコンなどのコンシューマー向け電子機器に組み込まれています。さらに、屋外で働く労働者のベストやヘルメットに搭載され、LEDライトやセンサーへの電力供給を行う用途にも活用されています。また、ソーラー充電対応の電子ペーパー端末の開発にも応用されています。素材の耐久性も高く、5年~10年の利用が可能です。
2. Haply Robotics
触覚技術(ハプティクス)を搭載したペン型のタッチマウスを開発しています。このデバイスは、ペンの動きに応じて、バーチャル空間でのリアルな質感をフィードバックすることが可能です。利用対象者としては、ゲーマー、デザイナー、産業用ロボットのオペレーターなどが想定されています。また、この技術は外科医療のトレーニングへの組み込みや、ドローンの操縦にも応用可能です。さらに、フィジカルAIのモデル構築に必要な人間によるお手本データの取得においても、同社は優れた技術を有しています。
3. OnMed
「Care Station」は、医療アクセスが限定的な地域社会に向けて提供されるコンテナ型の診療所です。利用者がCare Stationに入ると、遠隔で医師と会話ができ、診察を受けられます。コンテナ内には血圧計などの検診に必要な医療機器が備えられており、患者自身がそれらを使用し、医師がデータを取得・分析する仕組みになっています。また、自動空気清浄や紫外線による消毒により、99%以上のバクテリアを除去できるため、衛生面の問題もありません。
4. Skyted
外部への音漏れを最大80%カットできる高性能マイクを開発しています。公共の場でも小声で会話してもクリアに相手に伝わるため、機内通話などに最適です。また、声帯の損傷などで小声でしか話せない患者の利用も想定されています。このマイクは、BluetoothやUSBでスマートフォンと接続可能で、1回の充電で最大8時間使用できます。製品の量産は2025年5月に開始予定です。
5. Vay
リモート運転技術を活用した無人配車サービスを展開しています。利用者がアプリで車を呼ぶと、オペレーターが遠隔操作で車両を指定の場所に配車し、利用後もオペレーターが車両を回収します。2024年初頭にラスベガスで商用サービスを開始しており、UberやLyftの半額で利用可能です。
6. Eli Health
女性の更年期障害の診断にはホルモン検査が有効ですが、現状では病院での都度測定が必要であり、短期間での継続的なホルモン量のモニタリングは困難とされています。Eli Healthは、唾液を用いた高精度なホルモンモニタリング技術を開発しました。検査方法はシンプルで、付属のスティックを30秒ほど口にくわえるだけで完了します。その後、スティックに貼られたQRコードをスマホで撮影し、約20分後に検査結果とアドバイスが送られてくる仕組みです。これにより、利用者はスマホを通じて簡単にホルモン量を継続的にモニタリングできるようになります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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