シリコンバレーテクノロジー 2018.08.06

リテールトレンド企業Warby Parkerが起こす、ユーザに身近なD2Cイノベーション

こんにちは、Nissho Electronics USAの小松です。

シリコンバレーに赴任して初めての夏を体験しています。ここベイエリアは猛暑が続く日本の夏と異なり、昼間の一部を除けば暑くありません。湿気が少ないせいか毎日が過ごしやすく、むしろ肌寒い日があるくらいです。最近アパートのエアコンが故障する災難に見舞われましたが、エアコンが無くとも過ごせる気候です。日本では考えられませんね。

さて、今回は友人の紹介で出会った『Warby Parker』というニューヨーク発のメガネブランドに注目します。彼らが展開するD2Cビジネスへの興味から、私が米国において身近に体験できるイノベーションに学んだビジネスのポイントをご紹介します。

米国で成功するD2Cメガネブランド『Warby Parker』とは?

みなさまは、D2C(Direct To Consumer)というリテール業界で起こっているトレンドをご存知でしょうか。簡単に言うと、メーカーが直接顧客と売買取引するモデルを指し、従来の中間業者を介したモデルに変革をもたらしています。

D2Cコンセプトを採用するリテールスタートアップは既に数多く存在しますが、その中で大活躍をしているのが2010年ニューヨーク発の『Warby Parker』です。既に数多くのメディアで取り上げられているので耳にされたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、同社は米メディアFast Company社が選ぶ2015年最もイノベーティブな企業ランキングでAppleやGoogleをおさえて1位を獲得したことで有名です。現時点で約300億円の資金調達に成功、オンラインを主な販売チャネルとし、”Try Before You Buy”精神を基に自宅で試着ができる『Home Try-On』を取り入れています。

同社のサービスを簡単にご紹介すると、以下のようになっています。

  1. ユーザはオンラインで性別や好み等、7問のクイズに回答
  2. クイズ回答に基づき、同社がユーザの好みにあった複数のメガネを提案
  3. 自宅で試着したい5本のメガネを選択
  4. 選択したメガネは数日内に自宅へ配送、ユーザは5日間自由に自宅で試着可能
  5. 試着終了後は返送(送料は受取も返送も無料)
  6. 気に入ったものがあればウェブサイトで購入、気に入らなければ勿論購入する必要なし

自宅でゆっくり自由に試着が出来るというところは日本人にとっても新鮮に感じますが、なぜこのWarby ParkerのようなD2C企業が成功を収めているのか、私の考察を3つ挙げたいと思います。

1. ユーザの購買行動の変化をとらえる

Warby Parkerは、ビジネスの主戦場を販売店舗ではなく、オンラインに特化して事業を開始していますが、これはなぜでしょうか。理由は彼らの販売ターゲット層です。

彼らがターゲットとするのはデザインや価格感も含めて、いわゆるミレニアル以降の世代です。ミレニアル世代とは一般的に1980年代~2000年代初頭までに生まれた世代を指すと言われていますが、この世代では購買インタフェースとして実店舗よりオンラインがある程度当たり前になっています。いち早くユーザの購買行動の変化を捉え、店舗型からオンライン型ビジネスへ舵をきれたことが成功の始まりだと見ています。

今後『Gen Z』と呼ばれる、生まれたときからインターネットが当たり前のデジタルネイティブ層もターゲットに入るとなると、オンライン型はますます購買インタフェースとして重要になってくると思われます。

2. パーソナルな顧客体験を重要視、人々の身近に寄り添う

ここでは彼らが取り入れた画期的な試着の仕組み『Home Try-On』がそれにあたります。あらかじめ自分の好みで選んだ5本のメガネの試着を自宅で思う存分、気の済むまで楽しむことで、購入後にありがちな「やっぱりあっちのが良かったかも」という後悔は限りなくゼロに近づくことでしょう。

また、Warby Parkerに限らず、D2Cで成功するスタートアップに見られる傾向で多いのが、試着型専門店舗を用意していることです。特筆すべきなのは、それら店舗ではユーザがその場で選んで購入、当日お持ち帰りというのがない点です。あくまで「体験」に特化するという従来店舗の概念を覆す施策です。自宅試着でも納得のいかないユーザに、さらなる「体験」を提供することでより大きな売上貢献に役立たせているわけです。

3. データやソーシャル等テクノロジーを最大限活用する

テクノロジーの活用やSNS・ソーシャルとの連携もユーザにとって重要なポイントです。

ミレニアル、Gen Zともなればインターネットは当たり前、ソーシャルも勿論当たり前な存在です。例えば、Warby Parkerの場合、ハッシュタグ『#warbyhometryon』でインスタグラムに自分の試着姿を投稿すると、フォロワーが「これが一番似合ってる」「それはちょっと…」というようにコメントをくれる仕組みが出来上がっています。パーソナルな顧客体験を通じて「自分が納得できる商品を買いたい」と思いつつも、周りの評価を気にしてしまうのはユーザ心理上仕方がないことなので、ソーシャルという遊び心をとりいれることで更なる顧客満足度が得られるわけです。

このようなSNSを活用した取り組みは他の著名D2Cブランドでも見られます。寝具メーカの『Casper』はインスタグラムやツイッターで影響力のある「インフルエンサー」にお金を払ってプロモーションに役立てています。

感心するのも束の間、再考すべき中間業者の役割

私が本寄稿をする上で逆に危機感を覚えたのは、中間業者の役割です。

Direct To Consumerと聞こえはいいですが、やはり従来はミドルマンと呼ばれる中間業者が存在していたわけです。もちろん今も中間業者を介した取引はどの業界にも存在します。インターネット等の便利なツールが普及し、コストをかけずにビジネスを立ち上げることが容易になった現代においては、メーカが担える役割が増える一方で、中間業者の在り方は改めて真剣に再考すべきです。従来以上の役割を担えないと当然ながら淘汰されていってしまいます。

今回例をあげたWarby Parkerのようにコンシューマ業界で顕著にみられるこのトレンドはどの業界にも起こりうることです。当社が属するシステムインテグレーションサービスの世界も例外ではありません。

おわりに

ここに挙げたようにD2Cブランドは米国小売業界の次世代を担う存在として勢いを増しています。つい先日も「塗装業界のWarby Parker」と呼ばれる企業『Clare』が新たに誕生しました。米国ではDIYが盛んな一方で、大手の2~3社が同業界を独占しているということで、どのようにClareが市場を切り開いていくのか楽しみです。今後も注目すべきD2Cブランドが増えると予想されますので、本メディアで引き続き情報発信を行っていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。Nissho Electronics USAではシリコンバレーから旬な最新情報を提供しています。 こんなことを調べてほしい!などございましたら問い合わせページよりぜひご連絡ください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Nobuyuki Komatsu

2004年、日商エレクトロニクス入社。JuniperやBrocade、Viptelaなどネットワークを軸としたインフラ製品の事業推進や新規ベンダー立ち上げに関与。2017年10月よりサンノゼ赴任。シリコンバレーで得られる最新の情報を発信しつつ、新たなビジネスモデル開発に向け日々奮闘中。2020年現在の担当領域は、クラウドやフィンテック、インシュアテックなど。バスケットボールとキャンプが趣味。

この記事をシェアする

私たちと話しませんか?